- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006000356
感想・レビュー・書評
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岩波書店「20世紀思想家文庫」の一冊を文庫化したもの。社会言語学者である著者が、チョムスキーの生成文法理論が持つ「反革命」的な意義を、思想史的な観点から論じている。
20世紀にアメリカで隆盛したブルームフィールドの行動主義的な言語学は、言語学から「心」や「意識」を排除し、記述主義の立場を取った。チョムスキーは、言語学から「目に見えないもの」を排除する行動主義や経験主義の立場を批判し、深層構造という「目に見えないもの」を言語学の中に取り戻したのである。チョムスキーは、こうした「目に見えないもの」を言語学の中に再導入するに当たって、ポール・ロワイヤル文法やデカルト哲学、フンボルトの言語思想などを参照する。
著者は、ロマン主義的なフンボルトの言語思想を継承したヴァイスゲルバーが、同じくフンボルトの立場を旗印に掲げるチョムスキーの理論に触れたときの戸惑いについて触れている。ヴァイスゲルバーによれば、人間はありのままの外界に向き合っているのではなく、母語の作るシステムである「世界像」(Weltbild)を介して外界に接している。これに対してチョムスキーは、諸言語の間に現れる相違は表層のレヴェルに位置づけられる現象にすぎず、深層においては共通だと主張する。その上で、フンボルトの語る言語の創造的性格を、深層からの変形・生成というみずからの発想に結びつけたのである。
著者は、チョムスキーの考える普遍文法が、経験を越えたア・プリオリな普遍性を持っていると言い、しかもその普遍性が生物主義的に理解されていることが問題だとしている。こうした意味において、チョムスキーの生成文法理論は、言語の社会的な背景を排除する「反革命」的な性格を帯びていると著者は断じる。
チョムスキーのフンボルト理解を論じた箇所はおもしろく読めた。ただ、イデオロギー批判が先立っていて、思想史的解読というには分析の網目が粗すぎるように思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示