街並みの美学 (岩波現代文庫 学術 49)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006000493

感想・レビュー・書評

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  • よき

  •  インテリアからランドスケープまで、空間を考えるときにはどのスケールに着目するかが大切になってくる。この本では特に「街並み」――都市と建築の中間スケール――に焦点を当て、美しい街並みをつくるためにはどうしたらよいか具体的な事例をもとに提案している。

     著者はヨーロッパの街並み、特にイタリアの囲郭都市(周囲を城壁で囲まれた都市)を街並みの理想とし、なぜそれが美しいのかを非常に論理的に分析・考察している。それによると日本とヨーロッパの生み出す景観の違いの最大の原因は、「内部と外部を区切る境界設定の違い」にあるらしい。
     日本では建物としての家について内と外を峻別して考えるが、ヨーロッパ的思考では峻別されるのは個室まで狭まり、家の共有空間や前庭、面した道路などは全て外となる。しかしここで重要なのは、ヨーロッパモデルでは都市の最外周部に確固たる城壁があるために、先ほど外と分類した街路などが全て「都市の内部」として認識されることだ。それゆえ街路を美しく整備し利用することは住人自らの関心事であり、街並みを乱すものは自然と排除の圧力を受ける。
     またヨーロッパにおいて街路が積極的に利用される背景として、「入り隅みの空間」の存在を指摘している。これは二つの壁と地面が交わる隅に生じる空間で、ほどよい閉鎖性が安心感と親密さを与えるという。組積造の壁面が連続するヨーロッパ式街路(あるいは広場)では何処にでも生じうる空間であるが、隣棟間隔が大きい日本あるいは近代の都市では成立しにくい。「入り隅み」をこのような都市でも実現する有効な手法として、ニューヨークはロックフェラー・センターの前庭に採用されている「サンクン・ガーデン(sunken garden)」を紹介している。

     美しく活気ある街並みをつくるためにどうしたらよいか、明確な論理で分析しており分かりやすい。「Ⅱ.街並みの構成」で検討されているトピックは先述した「入り隅みの空間」をはじめ「D/H 幅と高さの比率」「第一次輪郭線と第二次輪郭線」「俯瞰景」など重要かつ実用的である。非常に面白く読めた。
     しかし幾つかは気になった点もある。
     一つは筆者があまりにヨーロッパの街並みを「理想」として見過ぎている点だ。ヨーロッパのそれが素晴らしいのはよしとしても、それが日本(ひいては東洋圏)において成立しなかったのはそれなりの理由があるはずである。それは気候に根差したものかもしれないし、そこから生まれた文化・慣習由来するのかもしれないが、いずれにしても向うのものをそのままこちらでも再現しようとするのはヨーロッパ・コンプレックスが過ぎないだろうか? 現状を肯定したうえでそれを昇華させていくアプローチも必要だ。
     二つ目、これは一つ目と比べると些細なことかもしれないが、情報が古い。なにせ初出が1979年であるためイランがパーレビ王朝だったりする。三十年以上を経て、世界の街並みはどう変わってきたか、現実にキャッチアップしなければならない。

     いずれにしても古典・名著であることは間違いない。建築系・都市工学系の学生には是非とも勧めたい一冊だ。

  • 都市空間や街並みをどのよう視点で見たらよいのか。世界の都市を事例に、都市の分析的視点を知ることができます。

  • 今年いよいよ銀座の街並みの印象を作ってきたソニービルが解体されるそうです。その建築家による建築論とも都市計画論とも違う都市景観論。芦原義信の名前は知りませんでしたが「商業空間は何の夢を見たか」からたどり着きました。ヨーロッパの歴史ある街並みに対する敬愛から展開している論考ですがそれを感情ではなくロジカルに組み立てているのが印象的でした。ル・コルビュジェに対する批判も人間中心の視点からなされていて昨今のヒューマンセンタードデザインの萌芽を感じました。この本が書かれた1978年がイケイケの高度経済成長の終焉期であることも影響あるのかもしれません。2020年に向けて変わり始めている東京の景観。その「街並みの美学」はどう成立するのでしょうか。ブラジリアでもチャンディガールでもない豊洲の建築中のビル群を見ながらもやもやしました。

  • 景観を考えるならまずはこの本、といわれるほど有名な本。

    無限の建築はありえない。建築は中と外を区切る技術/ホテルと旅館では、外部と内部の考え方が違うため、適当な格好も異なる/西洋には外的秩序の考えがある。生活の場が違い、そのための装飾がある/日本は外的秩序の考え方がないため、外を整備する意識が薄い/風土により壁を始めとする家のようすが変わる/日本の建具は「見ないこととする」装置/日本→内から外へ拡がる都市 イタリア囲郭都市→城壁から内に整える/イタリア人→出会いの場としての街路 イギリス人→休息の場としての街路/外的・内的秩序の浸透で境界が溶け合う/町並みは共通性より成立する/イタリア→図と地の逆転が可能 日本→曖昧な部分が多く図がはっきりしない/D/Hがわかりやすい/イタリア→外壁により「多様の統一」を果たしている/入り角→による守られた空間 出角→人を押し出す/サンクンガーデン→レベルを変えて入り角をつくる/小さくても開かれた、認知された公園→インメディアシーの確保/外壁以外の突出物からできる「第二次輪郭線」が景観の輪郭を乱す/視界に入ると連続性を感じる/屋内の美的伝統を屋外にもいかせれば景観の向上につながるか/自然発生的な内的秩序の街から人間性の発見/イタリア→人間的な曲がりくねった狭い道に車を通すことはできないし、通すことはよさを消すことになる/「昼」と「夜」の照明/北欧→反射光による室内の構成が随一/日本の都市には個性がない/テラスハウスでの街並み形成の可能性/色彩がない街で色を取り入れることは、精神への助けになる/イスファンでの五感の街を体感したい

  • 世界の建築を見て歩いた、著者の話や写真はとても面白い。
    ル・コルビュジェの図面はそんなに綺麗なのか?と興味を持った。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    都市と建築の中間に位置する「街並み」は、そこに住みついた人々が歴史のなかでつくりあげ、風土と人間のかかわりのなかで成立した。世界各地の都市の街並みを建築家の眼で仔細に見つめ、都市構造や建築・空間について理論的に考察する。人間のための美しい街並みをつくる創造的手法を具体的に提案した街並みづくりの基本文献。

  • 久しぶりに読んだ!
    自分が考えついたと思ってたこと、ほとんどこの中にあったじゃんと気づくw

    「小さな空間」が好き。

    内部に秩序を持つということは外部に無関心ということ。
    境界の内部に異なる意見がないと言う意味での境界はもはや崩壊。新しい意味での境界の設定が必要。個人個人が独立できる新しい住まいの形式を作り出す事が必要。

    詩人はつねに小さなものの中に大きなものを読み取ろうとする。

    小さな空間
    個人的、静寂、創造的、詩的、人間的。

  • P31 気候条件、入手できる建築資材の種類→
     日本(湿潤):「壁」否定
     西欧(乾燥):「壁」肯定
    →街並みの形成にも強い影響
    P60
     田園都市風の前庭のある街並み(アメリカ郊外):外的秩序が内的秩序に浸透
     ギリシャやイタリアの街並み:内的秩序が外的秩序に浸透
     わが国の街並み:道路と内的空間との浸透を遮断する塀→無表情で単調
    P61 街並みとは本来、共通性(建築技術や工法)の上に成立しているのであって、それによって街路や地域に対する強い愛着心が生まれる。
    P64 スラムには二つの種類がある
    ①フィジカル・スラム:老朽、過密や上下水道、特に排水のような都市施設が不十分であるため、物理的に不衛生、不健康な都市環境
    ②ソシアル・スラム:住居や都市施設等は完備しているのにもかかわらず、近隣に対する無関心、疎外感から非行、性犯罪等の多発する都市環境
     J・ジェコブス:用途のある程度の混在を主張、ストリートウォッチャーの存在が大切
    P72 イタリアの街路と建物の関係は、街路が十分にゲシュタルト心理学でいう「図」となりうる要素をもっている→街路が同時に街の主役として重要な役割を演ずることを意味するのであり、街路の空間に生活の一部が浸透している
    P78 西欧の建築に対してわが国の住宅はきわめて低く狭いことが、同じ大きさの自動車や電車の出現によってはっきりとする。
    P82 広場が広場として成立するための条件
    ①広場の境界線がはっきりしていて「図」となりうること
    ②空間の閉鎖条件を良くするような「入り隅み」のコーナーをもって「図」となりやすいこと
    ③境界まで舗装が完備していて空間領域が明瞭で「図」となりやすいこと
    ④周囲の建築にある種の統一と調和があり、D/Hがよい比率をもっていること
    P102 敷地の一部を高くする→「出隅み」の空間、低くする→「図」としてのゲシュタルト質を形成し、屋外でありながら充実した室内のように「入り隅み」空間をつくる=サンクンガーデン
     ロックフェラーセンターが秀逸!!
    P105 自己完結的に内部に収斂した公園:NY(セントラルパーク)、パリ(ブーローニュの森林公園)、ローマ(ボルゲーゼ公園)のように、自然景観を中心としてきわめて広い敷地にまたがった自然公園としてそれ自身が独立している場合に適切な手法。日比谷公園は小さすぎる(南北500m×東西290m、一部330m)し、都市中の都市という位置から言っても孤立することは不適当。
    P109 都心の公園や外部空間の重要な考え方
    ①インメディアシー:「視覚的に連帯していること」、「近くにあること」、「すぐに手のとどくこと」
    ②ヴェスト・ポケット・パーク(vest-pocket park):小さい公園
    P121 
    「第一次輪郭線」:西欧、建築本来の外観を決定している形態
    「第二次輪郭線」:アジア、建築の外壁以外の突出物や一時的な附加物による形態

  • とても誠実な示唆で、控えめな語り口だけど無駄のない意見と慧眼に感銘いたしました。変態的に小賢しい結論のない建築論書に嫌気がさしたときに救いを求めて読んだ思い出があります。

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