アパシー・シンドローム (岩波現代文庫 学術 95)

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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006000950

作品紹介・あらすじ

一九七〇年前後、「退却」「逃避」と表現できる無気力な現象が大学生に現れはじめた。著者は、従来の精神病理学では解きがたい現象を考察しながら、自立への不安をもつ当時の青年像を浮かび上がらせた。豊かさと高学歴がもたらす新しい症候を論じた本書は、その後の「ひきこもり」論に多くの示唆をあたえた先駆的著作である。

感想・レビュー・書評

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  • 笠原よみし、と読むらしいが読めるわけもない。

    本著では、アパシー=無気力、といった症状についてかなり詳細に分析が加えられている。理論、分類、臨床例など、論文としても充実しているが、精神病理の分類について詳しくないため厳しいところも多々あった感は否めない。ともかく、現在的には「引きこもり」に分類されるであろうアパシーについて、広い視野から分析がなされている。そもそも、アパシーとは一体何なのか?うつ病なのか?それとも、神経症なのか?はたまた、性格障害なのか?分裂病でないことは明らかであろうが、この三者の中でどれにあたるのか著者は苦心している。うつ病としての可能性はありうる。ただし、その場合、「退却性」といった名称が付されることになる。これは神経症においても同様である。いうなれば、うつ病の方が症状として重い、といった程度の差異でしかない。だが、これが性格障害となると、趣きを異にする。つまり、根底に「強迫性格」といった性格構造があり、その上部構造として、うつ病や神経症が生じている、としたものである。

    著者自身は、ここで、強迫性格と上部構造という構図が正鵠を射ているのではないか?と考えている。というのも、著者からすれば、うつ病とアパシーは明確に分けられる上に、それにもかかわらず、両者が入り混じったような、あるいは判別しがたいような、症例が見受けられるからである。ちなみに、両者の明確な違いは、うつ病者は自ら医師の許を訪れるが、アパシー患者は訪れない。更に、アパシー患者は勝敗のつく物事において最初から逃げてしまうものの、メランコリー親和型うつ病者はむしろ最後まで徹底抗戦する、といった具合である。となると、やはり、アパシーとうつは違うのだろうか?ちなみに、ここに「境界例」といった言葉が鍵として出現する。境界例は、今日、神経症と精神病の境界としてや、幼児期の「再接近期」での葛藤などによって、出現すると精神力動的には説明される、パーソナリティである。突然、キレる、という言葉がよくあてはめられるけれど、そういう急な切り替わりみたいなものが、境界例として当てはまるのだろうか?ともかく、著者は果敢に「境界」に飛び込んでいく。アパシーとメランコリー親和型うつ病の境界の、逃避型うつも然りであるし、あるいは、分裂病や境界例の患者が、ヒステリー患者よりも、発達的見地に関して劣っていることはない、などといった具合である。正直、著者はアパシーといった症例を浮き彫りにしようと努めているのであって、それ以上の、「着地点」がいまいち見つけられずなんともすっきりしないのだけれども、縦横無尽に、精神病理学、反精神病理学、精神力動などを駆使する著者はたいした人物であると言いたいけれど、やっぱり、「病理」という言葉に取り付かれている気もする。

  • 医者のわかりやすい解説と考察に、素直になるほどと思える一冊。
    無気力、逃避、自立と個性化、自己規定、アイデンティティ、対人恐怖、人見知り

    こんなキーワードに関心が在るのなら、
    自分の中にこんな欠点があると思うなら
    一度は読んでみると良いと思います。
    大学生についてが主ですが、
    全ての年代人に当てはまる、基本的なところから論じられていると思います。

    主にその症状や状態がどういったものか、
    各専門家の研究結果や症例の解説と考察が主軸になっており、
    お医者さんだからでしょうか、
    若者に対しての批難や哀れみがまったく感じられず、
    客観的に論じられているところが小気味よく、好印象です。

    予備知識が無くてもわかるようしっかりと解説されていますし、
    具体的な症例も多く、読みやす論じられており、
    目次を開いて、気になるキーワードの章(もしくはその前後を)読んでも、わかるくらいです。


    素直に、”なるほど、こういうことなのか。”と思える一冊です。

  • 何となく新書っぽい軽めのタイトルに見えるが、なかなか専門的な本。
    主に70年代前後の学術論文や、一般向けに書かれた原稿が混在している。
    特に大学生のアパシー(無気力)を中心に文章がまとめられている。いわゆるステューデント・アパシーだが、必ずしも大学生とは限らず、若い社会人や高校生にも症例が見られるので、著者は「退却神経症」とか「アパシー・シンドローム」とか、いろいろ新しい呼称を提唱している。この手の論文は当時にはほとんどなく、どうやら笠原氏が草分けであったらしい。
    このアパシーは、うつ病ではない。どう違うのかというと微妙だが、著者によると、自分から病院に来るのがうつ病、さらに誰かに愛されたいと願っているのがうつ病だと言う。アパシーはその逆で、むしろ神経症的な、軽度の症状を呈し、循環性はない。
    ということで、ここで言われている「アパシー」は、今で言う「ひきこもり」に類することになるだろう。
    笠原さんによるこの症例の発見は、例の大学紛争の時代からなのだが、今や同じ「大学生」でもかなり様相が違うだろう。大学時代、私の周囲にこれに該当しそうな知人はいなかったが、実際のところどうなのだろう?
    「アパシー」も「うつ」も、今やもっと低年齢化し、中学生とか小学生にも現れているのではないだろうか?
    私の周囲には「ひきこもり」の人もいないのでよくわからないが、「ひきこもり」に関する本を読みたくなった。
    笠原さんはれっきとした精神科医だが、この論文集を書くにあたっては、心理学をずいぶん援用している。彼は精神分析は苦手そうで、どうやらアドラー/とりわけエリクソンの個人心理学を大幅に取り入れているようだ。
    私はエリクソンは評価しないので、そのへんは、もうちょっと現象学的な心理分析の実践を読んでみたかった気がする。

  • 笠原のアパシー論30年、斉藤環のひきこもり論10年。
    思春期・青年期の悩みは不変。

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