歴史の教訓: アメリカ外交はどう作られたか (岩波現代文庫 学術 120)

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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006001209

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  • アメリカ統合参謀本部での勤務経験も持つハーバード大学教授のアーネスト・メイによる歴史政策学の薦め。

    【構成】
    第1部 歴史の誤用
     第1章 第二次世界大戦-最後の平和を求めて
     第2章 冷戦-第二次世界大戦の再発を防ぐために
     第3章 朝鮮・1950年-歴史対計算
     第4章 ヴェトナム-プロクルテスの寝台
    第2部 歴史の活用
     第5章 分析-和平のための爆撃
     第6章 予測-今後10年のアメリカ外交政策
     第7章 歴史家の任務

     本書の意図が終章に簡潔に記されているので、以下に引用する。
    「前章まで私が立証しようとしたのは、政府部内の人にとって歴史が重要であるという事実である。きわめて不確実な条件で決定を行う人が未来を予測しようとする時、彼らはかならず、過去に起こったと自分らが信ずる事実に照合して予測を行う。現在に対する彼らの見解を作るものは、かつて発生したと彼らが信じている事柄である。だが、彼らは過去に関して、あまりにも浅薄で誤った知識しか持ち合わせていないことが多い。しかも不十分な情報しか持たないために、しばしば貧弱な推論しか下すことができない。政府部内の人はすでに、数字や経済モデルや科学的公式の分野に関して専門家の予測に依拠しなければならないことを承知しているのだから、あまりに自分たちを誤らせる歴史に関しても、これまでより明晰な理解を専門家から得なければならない現実に、今に気づくにちがいない。」(p.282)

     著者のメイは、第1次大戦後のウィルソン外交を意識したFDR政権、第2次大戦直前の宥和政策の再発防止を意図したトルーマン政権、そして朝鮮戦争の苦杯もフランス軍の退却した背景も十分に考慮せずにヴェトナム戦争を拡大したジョンソン政権の政策に焦点をあてる。
     いずれの政権の大統領を含めた政策担当者も、自らの主観的な経験やイメージを基に政策を決定し、過去の経験をあたかも政策を正当化する歴史的必然かのように錯覚してしまう。そして、比較検討する例の数を少なくすればするほど、過去との対比するポイントを少なくすれば少なくするほど、思いこみの未来予測の政策ができあがってしまう。

     つまるところ、このような思いこみは歴史学の研究手法とその成果を知らない人間が冒す過ちである。もちろん著者も認めるように政府高官にこの歴史学的手法による緻密な分析を求めるの非現実的であるが、せめて彼ら政策決定者に彼ら自身の「主観的な経験」ではなく熟考された「歴史学の成果」に拠った政策決定をしてもらいたいという思いは私も同感である。

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