スルタンガリエフの夢: イスラム世界とロシア革命 (岩波現代文庫 学術 201)

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  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006002015

作品紹介・あらすじ

ロシア革命がはらむ西欧中心主義の限界をいち早く見抜いていたタタール人革命家スルタンガリエフ(一八九二‐一九四〇)。彼は旧ロシア帝国のムスリム地域の脱植民地化を図ったが非業の死に斃れた。本書はイスラム世界の風土と歴史を背景にその「ムスリム民族共産主義」を詳説し、激動の現代中央アジアを理解するための礎石を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • 1986年に書かれた単行本の文庫化である。ほぼ半世紀前なので書き方がさすがに古い。しかも東大出版で専門家向けに書かれているので、大学生でイスラムとロシアの関係を卒論にするほんのわずかの学生かあるいは院生が参考文献として読むという形式が考えられる。
     一般の大学生が好んで読む本になるのはなかなか難しいであろう。写真や図がところどころあるのがせめてもの救いかもしれない。

  • ロシア革命におけるスルタンガリエフというタタール人(韃靼)革命家の話である。彼はイスラム信仰とチュルク-タタール語圏のブォルガ中流域の小さな村でロシア語教師の息子として1892年に生まれる。カザンのタタール師範学校を経てジャーナリストを目指す目立たない青年であった。ボルシェビキに入りムスリム共産主義者として主流の大ロシア排外主義に抗してタタール民族を解放する革命運動に生涯を尽くす。西欧中心のマルクス主義ではナショナリズムや民族・宗教の問題は劣後したが、辺境ロシアのボルシェビキ革命では、広い国土で多様な民族、農業に封建遺制も残り、ロシア正教だけでなくイスラム教他、革命指導や統制が切実であった。内外の反革命と戦いながらボルシェビキの絶対性をもってプロレタリアート独裁の社会主義建設が火急の課題であり、スラブロシア中心で他民族・他宗教に対しては強圧的にコミンテルンのプロレタリア国際主義を押し付けることになる。スルタンガリエフはタタール民族のイスラム帝国の歴史蓄積がロシアの資本主義蓄積と相俟って共に革命を目指す連帯を志向した。更にタタール民族の立場をロシアのプロレタリアートと同列と考え、ボルシェビキ主導と別建ての周縁民族のコミンテルンを志向する・・・路線の違いや会議構成・登場人物の説明が延々と続き、作者の一番言いたいところなのについていくのが大変だ。結局ボルシェビキとは抜き差しならなくなり1940年1月スターリンに処刑・粛清される。
    最終的にロシアの共産主義を目指す試みは失敗するが、この作品が書かれた時点ではまだ結論は出ていない。スルタンガリエフというタタール民族主義革命家の生涯を辿り、ロシア革命の問題点を抉る稀有な論考(論文)である。作者は北大のスラブ研究所からカイロ大留学を経て、温めてきた問題意識を集約し、この大作を書き上げた。
    参考にした資料や文献の多さ、多角的な調査と深い分析で歴史の失敗を究明しようとした渾身の力作である。
    全体を通して、自分の読む込みが足りないのか、スルタンガリエフをはじめとする登場人物個々人の現実的な思いや情感、脈拍が伝わってこない。反して、作中何度も何度も登場する「スルタンガリエフ」という活字の多さは印象的である。
    題名を「スルタンガリエフの夢」としたその「夢」は作者の理想に向けた行動そのもので「あった」ようにも読める。
    この作品を書くことで作者は研究者からイスラム史専門家へ変身・メタモルフォーシス(孵化)をすることになる。

  • 【階級か,民族か】ムスリム民族共産主義という思想を世に送り出し,その死後もイスラム世界に大きな影響を与えたスルタンガリエフ。その思想の脈歴をたどるとともに,ロシアにおける民族とイデオロギー,そして宗教の深部に切り込んでいった作品です。著者は,日本を代表する歴史や地政学の泰斗の山内昌之。

    スルタンガリエフの一生を通し,複数の民族,宗教,思想そして言語が文字通り混在した社会に生きるということがどういうことかがよくわかる一冊。ロシア革命前後の混沌とした時代において,少数派から見つめ直した共産主義の一形態を知ることができる貴重な作品かと。

    〜ムスリム民族共産主義の特徴は,人びとが自分をいかにして認識するのかというアイデンティティの領域にきりこんだ点にある。〜

    時代背景が異なるので,読みづらい部分もありましたが☆5つ

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    文庫&新書百冊(佐藤優選)153
    国家・政治・社会

  • たいへん愚かな告白だあるが
    ロシアはロシア人の国だ、と思い込んでいた。

    ところがどっこいたいへんな多民族国家である。

    スルタンガリエフには結局たいして興味はわかなかったが
    ソ連という国をイスラム教徒の側からみるという意味では
    とても面白かった。

    のちの我的ロシアブームの先駆けとなた一冊。

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著者プロフィール

一九四七(昭和二二)年札幌に生まれる。
現在、東京大学大学院総合文化研究科教授、学術博士。中東調査会理事。
最新著書として、『岩波イスラーム辞典』(共編著、岩波書店)、『歴史の作法』(文春新書)、『帝国と国民』(岩波書店)、『歴史のなかのイラク戦争』(NTT出版)など。

「2004年 『イラク戦争データブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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