- Amazon.co.jp ・本 (484ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006002718
作品紹介・あらすじ
「従軍慰安婦」の存在は周知のものだったにもかかわらず、一九九〇年代の当事者による告発まで、なぜ彼女らの存在は「見えて」いなかったのか。「慰安婦」問題がつきつけるすぐれて現代的な課題を、フェミニストとして真正面から論じ話題となった著書に、戦争・国家・女性・歴史にかかわるその後の論考を加えた新編集版。
感想・レビュー・書評
-
上野氏自身が述べるところ、1990年代の研究の集大成ともいえるのが本書だそうだ。「従軍慰安婦」問題などを中心に、国家主義とそのなかでのジェンダーについて思考した大部の書。
本書ではまず、国家における女性の扱いを「統合型」と「分離型」としている。前者は男女に同じ役割を課すもの、後者はたとえ非常時でも女性には女性の役割を課すもの。戦時に男女ともに徴兵があれば前者であり、女性に「軍神の母」「銃後の妻」役割を課せば分離型という理解でいいと思う。こんなふうに国家主義とジェンダーを論じていくのだけど、何といっても力が入っているのは「従軍慰安婦」に関してだ。
以前、韓国へ行った時、ほんの短い時間だが、かつての「従軍慰安婦」だったというハルモニたちが支援者とともに共同生活を送る「ナヌムの家」を訪ねたことがある。資料館にはたくさんの折り鶴や色紙が飾られ、平和への思いを訴える言葉が並んでいたが違和感があった。「慰安婦」問題はそうじゃないだろうと。それ以来、慰安婦問題は戦争問題ではなく、男と女の問題だと思っている。その視点で読むと……というか、いつも上野氏の本は明晰で腑に落ちるものだけど……本書の「慰安婦」に対する言質には大いに共感する。
この「慰安婦」問題が解決しないのは、もちろん日韓が本気で手をつけようとしていないせいもあるだろうが、そうしていられる背景をきっと全世界がつくっている。というのも、男たちが女性を慰みものにすることなんて、世界に掃いて捨てるほどあるからだ。「慰安婦」問題が解決することで、聖人面の化けの皮が剥がれる男たちがたくさんいるからだ。
そのとき、大国が何だとか、戦勝国だからといった言い訳が許されないことが目に見えているから、根本的な解決に向かわないのだと思う。
韓国では(「慰安婦」に限らないが)、両国の煮え切らない態度に業を煮やし、国籍放棄を願い出た人までいる。国どうしだと日韓条約で解決済みとされかねないが、韓国籍がなければ保証済み対象にはならないからだ。そこまでの手段を講じる人たちに、何という誠意のない態度をとっていることだろう。日韓条約で解決済みとする日本の態度もひどいが、国を挙げて日本を非難する韓国だって、自分自身への補償を求めている元「慰安婦」たちの声に乗じて代弁などしてほしくない。
国家どうしの話になれば、往々にして女性たちの声はかき消され、顧みられることがない。国と国の問題になることで、往々にして「男どうし」の話になってしまい、男と女の間での話ではなくなってしまう。家父長制的な論理がまかり通ってしまう。これほどまでに、世の中には大小の集まりが様々あるけれど、国というまとまりが益ないものに思えてならなかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
SDGs|目標5 ジェンダー平等を実現しよう|
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/719248 -
刊行直後には読み遂せませんでしたが、今回は読み切りました。「ヘイトスピーチってなに? レイシズムってどんなこと? (のりこえブックス)」を読んだ後でしたから、自分にとっての読みどころがあって、興味深く読めました。
-
私見
刑事裁判実務では「自白偏重司法」と言われるほど、被害者証言は時に補強証拠が脆弱であっても認められる。
しかし、歴史、特に戦争犯罪においては被害者証言は(処分されたことが明白な資料の不存在を理由に)軽んじられ、「公文書が見つからない⇒事実かどうか証明できない」と切り捨てられ、時に「カネ欲しさのでっち上げ」と非難されるという矛盾
メモ
慰安婦問題
三つの犯罪
過去
戦時強姦
現在
戦後半世紀にわたるその罪の忘却や被害認知の拒否
現在進行形や未来
長い沈黙を強いられ、告発したときにはカネ欲しさの嘘つき呼ばわり
キーセン観光、セックスツアー
カネの力で性的侵略?
慰安婦→民族の恥?被害者の恥?⇒×加害者の性犯罪へと変化
戦時強姦
権力支配誇示や弱者への攻撃を通じて連帯を確立する儀式
敵国兵士への象徴的侮辱
沖縄の韓国人慰安婦
当初は慰安所設置反対→軍「良家の子女の貞操を守るため」
沖縄差別→準占領地
韓国人慰安婦の存在により沖縄女性を守る?
1925年
醜業協定、醜業条約、婦女売買禁止条約
1932年
ILO強制労働条約
⇒公娼制度そのものが条約違反(韓国が日本だったとすれば、それを慰安婦問題責任回避のロジックに入れるのがそもそもおかしい?)
自由主義史観
西欧列強も同じような悪いことをしてきた→彼らはそれを謝罪していない⇒したがって西欧列強に肩を並べる日本は西欧列強並に振舞って当然、という論理
娼婦としての稼ぎ時や世界に見る娼婦の年齢層
ほとんどが十代⇒中高生
SNSや援交等の性的アクセスにさらされる年齢に戦争についての暗黒面を教えるのに、性についての暗黒面を教えないのは説明がつかない
60年代の日独若者比較
独「何よりもダメなドイツ」(エッツェンスペルガー)をもたらした親の世代の責任を問う世代間対立⇒スチューデントパワーの担い手がマスコミや教育現場なの社会の各層に散らばり、戦争責任の掘り起こしに努める
日「戦争を知らない子供達」というフォークソング等他人事 -
この本が最初に世に出たのは1998年であるが、今読んでも古いと感じないのは、状況がほとんど変わっていない(むしろ、悪くなっている)からだろう。
個人的には、最後に収録されている「アジア女性基金の歴史的総括のために」を非常に興味深く読んだ。
私も、国民基金(正式名称は「女性のためのアジア平和国民基金」)に対しては、あくまでも国家補償ではないこと、被害者や支援者の間に分裂を生んだことなどから、批判的な気持ちを持っていたが、「あのとき国民基金をつくらなければ、その後つくる可能性は非常に低かっただろう」という指摘にはハッとさせられた。確かに全くそうであろう。
この本の帯には「『慰安婦』問題は終わらない」とあり、323ページでも北朝鮮との国交回復が果たされれば、北朝鮮の被害者救済が課題になるであろうこと、中国では中国政府の協力が得られなかった為に基金事業は行っていないことが挙げられているが、まだ未解決の課題が残されているからこそ踏み込む余地があり、その為にも国民基金とは何だったのかを振り返ることは重要だろう。 -
上野節があいかわらずいい。
ぐんぐんアタマに入ってくる論調は心憎い。
少しも「おかしな」ところも無く、自らを学術のプロというだけのことはあります。
ジェンダーを再確認させてもらった。
二流国民という言葉もおもしろい。