歴史人口学の世界 (岩波現代文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006002725

作品紹介・あらすじ

近代的な「国勢調査」以前の社会において、その基層をなす人びと、家族といった身近な存在から人口を推計し、社会全体の動態を分析する「歴史人口学」。現代世界が抱える最大課題である人口問題(少子化・高齢化から人口爆発まで)にも重要な示唆を与える。その先駆的第一人者が平易に語り下ろした入門的概説書の決定版。

感想・レビュー・書評

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  • すごい気の遠くなるような作業を経て、過去の社会状況が復元されていく過程はすごい。人の出入りを何家族分、何年分もまとめていくだなんて、どれだけの時間がかかるのだろう。現在は技術も進んでいるから、この本がまとめられた当時よりは作業効率は上がっているのだろうか?

    記録をとり続けてきた藩や村の役人たちは、当初の目的とは違うとはいえ、後世に多大な貢献をしている。こんな膨大な資料を、当時の人はどれだけ有効に活用できていたのか少し疑問。

    少子化による人口減が叫ばれて久しいが、過去にも人口減はあり、地方から都市への人口流出も普通にあり、かなりの割合の人が都市に流れた。これは現代も同じか?そして、都市は死亡率が高い。西国では土地の売買も盛んで、家計や収穫量次第で家族の規模が可変的だった。地方は、家計に関わらず多産多死。現代とどこが同じで、どこが違うのか、比較するような本があれば読んでみたい。歴史人口学の成果が見てみたいと思った。

  • 2020年7月読了。

  • 「武士の家計簿」という映画があった。こんなことを丹念に調べてる物好きな人もいるのだなあと思っていた。本書については何の予備知識もないまま、タイトルだけに引かれて買って読んでみた。国勢調査をはじめ、統計資料から読み解くということはわかる。あまり細かい年齢にこだわらない地域や時代の調査では、一の位が0か5の年齢が多くなるという話はよく納得できる。しかし本書のすごさはその後の章からである。古文書を読み解いて、一つの家族の歴史まで読み取っていく。ミクロデータから読み起こした家族史の記述はすごいとしか言いようがない。いまはパソコンの威力をふんだんに使っているのだろうけれど、それまでのカードによる整理など考えただけで気が遠くなる。こういうことが何かの役に立つのかという議論は横に置くとして、こういう研究にお金(税金)をかけることができるというのは、日本が幸せな国だからなのだろうと思える。

  • タイトル通り、歴史人口学についての入門書として適している。
    江戸時代のミクロ世界である庶民の家族形態について、宗門改帳を分析して浮かび上がらせるという手法によって、成心を去らせることが出来、また分析段階において多大な労力がなされていることが理解できた。

    著者の速水融氏は正に、日本歴史人口学の先駆者である。彼の功績を称賛したい。

  • 江戸時代の宗門改帳等により町や村の住民の動向を長期間に渡り再現する歴史人口学のパイオニアによる概説書。意義、方法、具体的事例、今後の課題等について平易に語っている。江戸時代中期以降の人口停滞は、都市の高い死亡率と農村からの出稼ぎにより説明できる等多くの興味深い成果が示されている。日本は、基礎的な史料が奇跡的に残っているそうで、今後も今までの歴史的常識が覆される発見が期待できそうだ。

  • いろんなところでその成果が用いられている速水さんの「歴史人口学」。早いところ読んでおくべきだったと後悔。歴史学というと、緻密な史料読解からの、細かなな歴史的事実を積み上げというようなイメージがついてまわる。この本は、その緻密な史料読解を膨大におこない、統計処理をかけて、マクロ的な傾向を導き出している。都市では人口が減るから、農村から都市への出稼奉公という名の労働人口移動でバランスをとっていたことや、土地取引が労働力人口の増減と呼応しているということなど、興味深い視点ばかり。

  • 本当にマニアックな世界。
    数百年前の、ごく平凡な人々の人生をたどる・・・・など、どこか「のぞき趣味」的っぽくもないではないですが。
    コンピューターも充分に使用できなかったときに、この緻密な調査と研究には脱帽です。
    ただ・・・・、やっぱり、惹かれる学問分野ではありませんね。

  • 1月前に読んだ。民俗学とかの本を読んでいるとちょくちょく出てくる速水融氏。
    もっと早くに読んでいればよかった。
    読み進めていて今年一番わくわくした本ではなかろうか。
    同時に自分マニアックだなー、と今年一番自覚させられた本であろう。
    乱雑ながらざっとメモを残す。

    まず、江戸時代の宗門改帳が世界的にみても貴重な人口調査の歴史資料だったという事実が興味深い。
    西欧でも教区簿冊と呼ばれる洗礼時の名簿くらいしかなかったが、
    日本ではその西欧のキリスト教を拒絶したがために毎年全国で記録された宗門改帳が土地台帳、人口台帳、戸籍簿の代わりをなしていたとは。
    その詳細な記録をたどっていくだけで、一族の歴史がドラマのように想像できてしまう。

    定量的な観測がほとんどできない時代だけに、この研究で今まで「定説」とされていた多くの歴史の見方が証明され、また同じくらい多くの見方がひっくり返されたのではなかろうか。

    江戸時代はあまり変化のなかった260年間、とらえられがちだが、
    それはあくまで全体の数字の話であって、内部では様々な新陳代謝が繰り返され、その形を維持していた。
    「階層間移動が地理的移動と組み合わって、ひとつのメカニズムとして機能していた」
    その機能とは、人口を限られた資源にみあった規模に抑えること。

    まず土地移動でいうと、常に農村部から都市への大量の人口移動があった。
    人口が密集して土地も食料も衛生状態も恵まれない都市では、出生率が低く短命。
    逆に農村では出生率が高く、長生きする。
    故に人口が余剰しがちな農村では、出生感覚の延伸か出産停止年齢の早期化というかたちである程度人口制限が必要だった。
    それでも余剰する人口は出稼ぎや奉公といった形で都市へ流れてくる。
    現在は平均出生率が2.1あれば人口はキープできるといわれるが、
    江戸時代の農村に限って言えば人口を維持するには4人は必要だった。
    逆に都市は農村から人口を吸収し続け、死亡させ続けることでその規模を維持した。

    まさに人の面では都市の発達を農村が支えていたわけで、
    現代に置き換えれば都会を支える地方という構図が浮かび上がる。
    でも、出生率が低くなった現代の地方都市では、到底今の都会の発展を支えきれないということは自明。

    階層間の移動でいうと、
    土地をもたない小作層は子供をたくさん作れないので、絶家のリスクを受け入れざるを得ない。
    実際、後継ぎがいなくなり家が途絶えると、そこは裕福な農家の二男、三男が分家というかたちでその穴を埋める。
    新田開発で土地が増えたのは事実だが、土地が増えた分だけ分家で人口が増えるという以上の変動があった。

    「比較的規模の大きい農業から夫婦ひと組とその直径家族を単位とする農業へ変わった」
    戦後に核家族化が進んだわけではなくて、江戸時代から家族の小規模化というのは今よりゆっくりではあるけれど着実に進んでいた。

    丹念に丹念に資料を整理するだけでこういった多くの発見がある。
    とはいえ調査自体にかかる手間は相当なものだと想像する。
    今やデジタルの時代だから、ちょっと工夫すればこうしたデータ管理や分析も効率的にできるだろう。
    また単純に現代の戸籍を調査するだけで、巷で飛び交う様々な言説の検証ができそうだ

    <以下引用メモ>
    ・地域ごとにみると東日本は減少、中央日本は停滞、西日本は増大という傾向。
    ・人口重心の東進。
    ・全体の80%は直線距離にして4キロ以内、村内婚も含めれば88%が地理的に近いところとの間で婚姻関係を結んでいた。
    ・出稼奉公の経験のあるものはないものに比べ、4.4歳結婚年齢が高くなっている。
    ・江戸時代の都市では人間いつ死んでもおかしくなかった。
    ・小作層に生まれた女子はその4分の3が出稼奉公を経験した。
    ・地場産業、手工業の発展、それから交通業の中心といったところへ労働力の移動をもたらした。
    ・出稼奉公は一時的な労働移動ではなく、永久的な移動であった。
    ・出稼奉公はこの村にとって余剰となる人口を、他所とくに都市・町場に押し出し、村の人口を適正水準に保とうとする機能をもっていた。
    ・すでに存在していた小作層が後継ぎがいなくて絶家しても、その跡を上層からの分家が埋める、という作用
    ・東北地方で世帯規模が大きいのは、子供が多いからではなく、一家に住んでいる世帯数が多いこと。
    ・このような波動が繰り返されるので、中央日本から西日本にかけては土地取引が激しくなる。

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著者プロフィール

慶應義塾大学・国際日本文化研究センター・駒澤大学名誉教授

「2014年 『西欧世界の勃興[新装版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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