- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006002732
作品紹介・あらすじ
尖閣諸島問題についてのメディア報道には重大な欠落がある。日中両国の主張を歴史的にどう評価すべきなのか。最も注目すべきは、アメリカが曖昧な姿勢を取り続けていること。アメリカの戦略を解明する点で本書は独自性を持っている。国有化では解決できず、「固有の領土」論が説得力を欠く理由も明らかにする。さらに「北方領土」や竹島問題の解決策も踏まえ、日本外交を転換することで「尖閣問題」を打開する道筋を指し示す渾身の書き下ろし。
感想・レビュー・書評
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だろうなと思っていた通りだったり、すっかり騙されていた事を知ったり、尖閣問題だけでなく、北方領土や竹島問題も含め問題の本質をあぶり出す良書。メディア、政治家に騙されない為に必読
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25年程前、助教授として「比較占領史」を講じておられた頃、豊下氏の講義を聞かせて頂いた。ベルリンの壁が崩壊し、昭和とともに冷戦が終わりを告げようとしていた。まさに歴史の転換点であった。高坂教授など保守派の先生方の著作に親しんでいた当時大学三年生の評者には、氏の主張に共感できないところも多かったが、立場の違いを越えて、説得力のあるその論理展開に毎回新鮮な知的刺激を与えられた。氏はその後教授昇進を待たずして保守派の政治学者が主流を占める母校を去った。四半世紀を経た今、本書を読んで、ようやく時代が氏に追い付いたという感慨を禁じ得ない。
尖閣問題を扱ってはいるが、本書を貫くのは戦後日本外交の基軸であり続けた対米追従路線に対する根底的批判である。それは、日中間に領土問題の火種を残し、米軍のプレゼンスを正当化するという、米国の「オフショアバランシング」戦略を直視することを回避してきた親米保守派の急所を鋭く射抜くものだ。最大の同盟国米国にとって日本はコマの一つに過ぎないという、日本外交の危うさは冷戦期とポスト冷戦期を通じた圧倒的な米国の「力」の前にそれほど表面化してこなかったが、米国の衰えが誰の目にも明らかとなりつつある今、急速にその矛盾を露呈し始めた。
もちろん本書においても著者の主張には到底同意し難い点はいくつもある。竹島の放棄は論外であるし、中国のミサイル攻撃から沖縄を守ることが難しいからと言って、沖縄が「生き残る」ために、余りに身勝手かつ近視眼的なその「自治体外交」を持ち上げるにとどまらず、軍事的な防衛努力を事実上放棄し、「国境をこえて多くの関係者が・・・議論を交わし、交流を深め」ることによる「信頼醸成」に期待するなど、著者自身でさえ「荒唐無稽」と自覚するような、かつての非武装中立論さながらの展望を平然と語るのは理解に苦しむ。従軍慰安婦や靖国などの歴史認識問題についても、政権への瑣末な揚げ足取りに終始し、ことの本質に踏み込もうとしないのはいただけない。
しかし本書の最大のテーマである対米関係について言えば、現状認識としては著者の主張にほぼ全面的に同意する。二島返還論を切札とした対露協調路線も然りであり、それは安倍政権の本音とも大きな隔たりはないはずだ。にもかかわらず「自己目的」ではない「手段」としての対米基軸外交はなおその有効性を失っていないのではなかろうか。豊下氏もそれを否定はしてないように見える。外交というのは二枚腰が肝要である。互いに相手の腹の底を見透かしながら、時には釘を刺しつつも、そこは「敢えて」見て見ぬ振りをして、適度な距離を保って利用し合う、それが健全な「友好」の姿というものだ。「戦後レジームからの脱却」とは本来そのことであろう。 -
【由来】
・amazonで見て興味はあったが図書館でたまたまあったので。
【期待したもの】
・尖閣ということで、ちょうど「転換期の日本へ」を読んだ後でもあるので、それがきっかけではあるが、この本を選んだのは、表紙のイメージに何となく惹かれた、というのが正直なところ。
【要約】
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【ノート】
・「転換期の日本へ」と説明が重複する箇所が出てくる。なるほどこうやって知識とか色眼鏡とかが形成されていくんだな。違う傾向のものも併せて読んで、自分なりの視点を養いたい。今のところ、所謂左派が多い。また、どの本に何が書かれていたのか、少し入り交じってしまっている。もう一度、借り直して整理が必要かも。対象は「転換期の日本へ」「「領土問題」の論じ方」と本書の3冊。あと、「新・帝国主義の時代」も混入してるかも。
【目次】
序 章 「領土問題」の歴史的構図
1 日米中関係における「尖閣問題」
2 「領土問題」と「歴史問題」の交錯
第一章 忘れられた島々
1 「領土認識」の誕生
2 「クリティカル・デート」の設定
第二章 米国の「あいまい」戦略
1 分岐点としての「田中発言」
2 「中立の立場」と米中和解
3 台湾にとっての「尖閣問題」
4 「オフショアー・バランシング」戦略
第三章 「尖閣購入」問題の陥穽
1 「国有化」という問題
2 なぜ「購入」は三島なのか?
3 米軍管理下の尖閣諸島
4 「軍事紛争」というシナリオ
第四章 領土問題の「戦略的解決」を
1 「北方領土」という呪縛
2 「歴史問題」としての竹島問題
3 竹島問題の「大胆な打開策」
4 「固有の領土」と「固有本土」
第五章 「無益な試み」を越えて
1 「中国の脅威」をめぐって
2 歴史に「新たな答え」を
3 問われぬ「中立の立場」
4 「領土問題」の確認を
第六章 日本外交の「第三の道」を求めて
1 「海洋国家日本の構想」の射程
2 「騎士と馬」関係を強化する道
3 NPT体制「崩壊」への道
4 沖縄「理想主義」の破綻
5 「安全保障のジレンマ」からの脱却
あとがき
【岩波の紹介文】
尖閣諸島問題をめぐって,今年に入って大きく状況が変化したことはいうまでもありません.4月に石原都知事(当時)が言明した東京都による尖閣諸島購入問題によって,尖閣諸島問題は改めて大きな関心事となりました.東京都が募った基金には,15億円に迫る勢いで寄付金が集まりました.野田内閣による国有化方針の閣議決定を経て,日本領海内に中国の海洋監視船が侵入し,日本政府による尖閣諸島国有化に抗議する中国国内の反日デモは100以上の都市に広がったのは,つい2か月前の9月のことでした.
今も状況は変化していません.今後も外交の場で,そして尖閣諸島周辺の海上で何が起きるのかは予断を許さないものがあります.最悪の場合,日中の軍事衝突が起きないという保証はありません.
もちろん2年前の2010年の時点でも,中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し,外交問題に発展したという事実が存在していました.この十年を遡ってみても,この島をめぐって対立が続いてきたことは言うまでもありません.それにしても,なぜ今年これほどまでに大ニュースとして,全国民が関心を持たざるをえないニュースになってきたのでしょうか.そのこと自体を冷静に検証してみる必要がありそうです.
本書は岩波現代文庫オリジナル版であり,全篇が書き下ろされた書物です.豊下楢彦先生は国際政治論・外交史の立場から,この尖閣諸島問題についてどのようなアプローチをしているのでしょうか.一言で言えば,尖閣諸島問題についてのメディア報道とは異質の視点で,問題にアプローチしています.国際政治論・外交史を研究する専門家として,実に広い視野と深い問いかけで,この問題を考察しているのです.
たとえば,石原慎太郎氏がなぜこれほど尖閣問題にこだわった狙いとは何であったかが分析されています.そして日本と中国の対立が生じている中で,アメリカが実に曖昧な態度を取り続けているその真意とは何かが徹底的に抉り出されています.また日本政府の主張にある「尖閣諸島は日本固有の領土である」という主張が,実は極めて危うい論拠に立っていることも白日のもとにさらしています.そして尖閣問題だけではなく,「北方領土」問題や竹島問題も視野に収めた上で,いかにして領土問題の戦略的解決を図っていくかが構想されています.
何としても日中両国の軍事衝突を避けなければいけないという思いで,著者はこの問題がはらんでいるあらゆる問題群に眼を配り,歴史をふりかえり,未来への提言を行っています.尖閣諸島問題について,どんな意見をお持ちの方であっても,本書から大いに刺激を受けていただくことが可能だと思っております.
尖閣諸島の領有権をめぐる日本,中国,台湾の主張を検討した上で,歴史的にも国際法の上でも尖閣諸島が日本の領土であるという見解を著者は示しています.にもかかわらず,そのことを確認するだけでは,この問題を解決することにはつながりません.なぜなら,同盟関係にあるアメリカですら日本政府の立場をはっきりと支持していないからです.このような中で,アメリカにはっきりとした立場をとらせ,日本外交の新たな道を見出すことがいかにして可能になるのでしょうか.そのことをぜひ本書の中から読みとっていただきたいと思います.
小社において尖閣諸島問題で書物を刊行するのは初めてです.著者渾身の一冊を読んでいただき,この問題について多くの方と語り合っていただければ幸いです. -
珍しく赤線いれながら読んだ。世界にはいろんな矛盾があるなー、って漠然と思ったけど、今となっては記憶もおぼろげ。とりあえずどの国も、自分の国が一番なんだ。当たり前か。日本はもう少し我を通してほしい。
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尖閣を中心に懸案の領土問題を、双方の言い分を的確にまとめ、歴史的経緯や地図も載せて読みやすい。いずれの領土問題にも米国が影を落とし、解決させないことで米軍のプレゼンスを高めています。大国政治の非情さはネオリアリズムの言う通りですね。領土問題は安全保障問題でもあります。オフショアコントロール戦略をとる米国、G2を目指す中国の狭間で、生き抜かなければならない日本人なら必修の書籍でしょう。第6章を書くなら別の機会でしょう。
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積読..
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領土問題の今後の戦略についての好著。目から鱗の事実、提案がいくつもあった。前著の集団自衛権よりも切れ味が増している。本の体裁、構成も大変に読みやすい。石原の発言意図に驚愕した。単なる馬鹿だと思ってたらいかんな。
・米国が2014年のリムパック(環太平洋合同演習)に中国海軍を招待する。かつては中国は仮想敵国だったのに。
・従軍慰安婦の安部発言は拉致問題と絡めて米国から二重基準だと糾弾された。
・決定的期日(critical date):その日までの事実は国際司法裁判所によって証拠として採用される。
・アメリカの「オフショアー・バランシング」戦略。尖閣を巡る日本と中国。沖縄駐留の正当化。かつてのイランとイラクも。
・横田基地の管制権から見ると首都圏の空域は植民地状態。そこに触れない石原の矛盾。
・北方領土で日ソ間の緊張状態を作り出し、米軍のプレゼンスの正当化を図った。オフショアー・バランシング。
・ドイツの場合、過去の克服は西欧諸国の信頼獲得に向けられ、ヨーロッパの地域統合の進展に結実した。日本の場合、アジアでの和解と信頼に格闘せず、米国の安全保障戦略の枠組みにのる形で戦後社会に復帰した。サンフランシスコ講和条約会議には中国と韓国の代表は招かれていない。
・固有の領土は国際法上の概念ではなく、日本の政府と外務省が考え出したもの。その後、各国が乱発している。
・ジャパンハンドラーの本質。ジャパン・「パ」ッシングであらわに。北朝鮮の危機を煽りつつ、北朝鮮へのテロ国家の指定の解除など。
・中国にとっての脅威は中国そのもの
・今日直面している課題は、戦後世界を主導してきた米国の影響力が低下する一方で、中国が「超大国」にむけて「前進」を続けているという状況において、日本がどうするかという問題。
・「非武装中立」と「重武装論」ではなく、最小限の軍備の必要性と有効性。高坂による陸海空軍の具体的提言。
・PAC3配備の下手ぶり。北朝鮮から原発を守っていない。米国の納税者の負担減のため売り込まれた。
・日中の安全保障のジレンマで難しいのが歴史問題であるが、解決の鍵を沖縄が握っている。沖縄は独自の外交力も持っている。
・日米基軸は目的ではなく、手段のはず。
・海上保安庁の巡視船の拒否力であっても、ネット社会では国際的に大きな影響を及ぼすことが出来る。専守防衛としての拒否力の重要性。
・2010年、沖縄を巡る言説変更、武器輸出3原則の緩和。2012年、JAXAの宇宙開発の目的を「平和目的に限定する」を外す、原子力基本法に「我が国の安全保障に資する」が盛り込まれた。
・国際海洋法条約をめぐって、アメリカと中国に加盟を促す。 -
結局はアメリカ次第…
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野田政権による国有化以後中国との関係を決定的にこじらせてしまった尖閣列島ですが、実際のところなんでここまで中国との間で意見の対立があるのか、きちんと知っておきたくて読んでみました。
読んでみて、納得がいきました。たしかに国際法上の所有権が日本にあることは確かなのでしょうが、台湾を植民地化したのとほぼ同じタイミングで日本への編入手続きが行われているため、台湾にとってはその日本への帰属は「植民地化の象徴」とみられていることで、それは韓国にとっての竹島も同じだとのこと。これではたしかに、国際法上日本の所有であることは間違いないと言っても、感情的に納得してもらうのは非常に難しそうです。しかも、アメリカが沖縄返還前には尖閣列島も自ら管理しておきながら、沖縄返還時に尖閣列島帰属についてはアメリカは関知しないと言い、以後その立場を継続しているというのも、たしかに中国と台湾については「領土問題が存在する」と主張するには十分過ぎる状況だとよくわかりました。
北方領土や竹島問題の歴史的経緯にも触れられていて、問題の全体をとても明確に知ることができたのは収穫でした。
ただ、後半で筆者の提案する解決策については、さすがにちょっとアメリカを感情的に敵視しすぎている感じで、ややついて行けない部分がありました。が、それなりに納得度は高いです。少なくとも、今の国の外交政策よりは建設的な提案のように思えました。 -
安倍首相や石原都知事は、どうしてわざわざ隣国の感情を逆撫でするようなことをするのだろうか。尖閣問題は一時、中国側から棚上げの意思があったのだから、そのときその意思を受け入れて、台湾も含めて周辺海域を共同で開発したほうがよほど賢い選択だったと思うのですが。領土問題に関心があるのは、政治家と右寄りの人たちであって、市井の人々の日常生活にはなんら影響はしないのでは。漁業に関しても三国で協定を結べば良いのだし。海上保安庁の哨戒には多額の税金が使われているのだし。それにしてもマスコミは悪感情を煽っている。