文楽の歴史 (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006002954

作品紹介・あらすじ

古浄瑠璃の時代から筆を起こし、竹本義太夫、近松門左衛門、植村文楽軒らの人と業績、人形遣いの技法、三味線音楽の展開を紹介する。明治に活躍した竹本摂津大掾、豊沢団平らの芸を語り、松竹の経営、文楽協会の発足、国立劇場の設立から現在まで、大阪に根ざした伝統芸能としての文楽の歴史を描く。

感想・レビュー・書評

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  • この本に関する神津先生のツイートを合わせ読むべし。

  • ・倉田喜弘「文楽の歴史」(岩波現代文庫)にかういふ一節がある。「浄瑠璃は、当初から三味線と一体だったと思われがちだが、それは違う。義太夫の活躍初期、宇治加賀掾も豊竹若太夫も、謡の名手であった。とくに加賀掾は、謡を強く意識している。義太夫も同様であったと考えている。三味線の有無は議論の分かれる第一の点である。」(「はじめに-文楽 の歴史を探る」2頁)正直なところこれは驚く。所謂古浄瑠璃の時代はともかく、義太夫まできてもなほかつ三味線の有無が議論になるのかと思ふ。それは自明ではないのか。義太夫節に太棹三味線は切つても切れない関係にあるのではないのか。考へてみれば、私はまともな文楽の歴史の書を読んだことがない。古浄瑠璃の時代も同様である。それだからこそ三味線の有無などといふことは考へたことがないのであつた。正に、私は「浄瑠璃は、当初から三味線と一体だったと思」つてゐたのである。そんな書を読んでゐれば、そこから「三味線や人形の歴史は多分に無視されてきた。」(同前1頁)のに気づいてゐたはずである。無知 と思ひ込みの為せる業であつた。本書からこれに対する解答が与へられるかといふと、事はさう簡単ではない。無視されるには無視されるだけの事情がある…… さう、史料がないのである。無い袖は振れぬ、書きたくても書けないのである。「そこで本書では、演繹や帰納、一口で言えば推測も交えて、可能な限り歴史の 構築を試みた。」(同前)といふことになる。あくまで少ない史料と状況証拠等から考へるのである。先の三味線の問題、筆者は当初から浄瑠璃と三味線が一体であつたのではないと断言するのだから、これはまちがひないのであらう。問題はその後である。
    ・本文は第一章「文楽の夜明け」に始まり、第八章「文楽の国家保護」に終はる。松竹の時代から国立文楽劇場に至る最近の動きを含めて、正に文楽、人形浄瑠璃の通史である。最初は古浄瑠璃の時代である。仮名草子作者浅井了意によれば、「虎屋喜太夫は『太平記』を語るが、平家琵琶、幸若舞、謡曲などをつき混ぜ たようなフシだ。」(5~6頁)素人考へでも、ここに三味線の入る余地はなささうである。宇治加賀掾の芸論の冒頭、「『浄るりに師匠なし、只謡を親と心得べし。』と言い切る。」(7頁)謡曲に三味線が無縁であることからすれば、かう言ひ切られてはここにも三味線の入る余地はない。ところが、加賀掾は「扇子拍子は、語り出すさきのくらいをすゝめんとおもふか、しづめんと思ふ時はうつへし。」(8~9頁)と書いてゐる。古浄瑠璃が謡如きものであつたとしても、 どうやら三味線と全く無縁であつたのではなささうである。ただし、それは現在の義太夫とは違ふ。「三味線はどう弾いてもよい。浄瑠璃のフシと関係なく、演者の気分任せである。」(10頁)つまり、古浄瑠璃の時代は現代からは想像もつかないやうな浄瑠璃が語られ、(もしかしたら)三味線が弾かれてゐたらし い。その加賀掾一座に入つたのが後の竹本義太夫であつた。竹本座創設の後、「義太夫は段ごとの語り口はもとより、フシの『三重』『ヲクリ』『フシ落ち』、 あるいは感嘆詞などを整理して、徐々に楽曲の体裁を調える。」(20頁)この頃には三味線の使用は増してゐたらしい。番付に三味線弾きの名が載つたりもし た(18頁)。しかし、その三味線を具体的に記すことはできないらしい。どんな三味線を使つてどのやうに弾いたのか、これは分からないらしい。三味線弾きの名しか分からない状況なのであらう。残念である。義太夫はどんな三味線で語つてゐたのか、是非知りたいと思ふ。本書がその手引きになるかどうか。

  • 橋下行政でにわかに注目された感もあり、それを受けての執筆のような気もする。
    補助金削減に対して苦言はされていないが、やはり文化遺産として残されていくことを希望されている。
    歴史ということではありますが、明治後半、昭和に入る頃、戦後まもなくから、他の娯楽に押されて、何度か衰退の憂き目にあっている。
    今後も、歌舞伎のようなある種の人気を興業努力とみなすことは浄瑠璃にはできないだろうな。
    それを何とか努力しろというより、完全に無形遺産として保護する方向性を見出だした方がいいと思う。

  • 写真や図版が多くて、索引がキッチリしていると嬉しいなぁ~

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    「古浄瑠璃の時代から筆を起こし、竹本義太夫、近松門左衛門、植村文楽軒らの人と業績、人形遣いの技法、三味線音楽の展開を紹介する。明治に活躍した竹本摂津大掾、豊沢団平らの芸を語り、松竹の経営、文楽協会の発足、国立劇場の設立から現在まで、大阪に根ざした伝統芸能としての文楽の歴史を描く。岩波現代文庫オリジナル版 」

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著者プロフィール

一九三一年、大阪市生まれ。大阪市立大学経済学部卒。NHKに勤務。編著書:『一八八五年ロンドン日本人村』(朝日新聞社・一九八三年)、『日本近代思想大系18芸能』(岩波書店・一九八八年)、『近代日本芸能年表』全二巻(ゆまに書房・二〇一三年)、『川上音二郎欧米公演記録—付・貞奴の女優養成—』(ゆまに書房・二〇二〇年)、ほか多数。

「2020年 『くどきぶしの世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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