プロト工業化の時代――西欧と日本の比較史 (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006003012

作品紹介・あらすじ

産業革命以前、農村部に展開した手工業は人びとの社会行動や家族形成にどう影響し、どのような意味で近代の工業化を準備したのか。「プロト工業化論」(F.メンデルス)を検証し、大塚史学とも対比する。歴史人口学と経済史の成果を踏まえ、西欧と日本を比較しながら、経済史の新たな理論構築を試みるパイオニア的研究。

感想・レビュー・書評

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  • 2013年(底本1985年)刊行。著者は一橋大学名誉教授。

     江戸時代において、工場制手工業が成立した、あるいは問屋制家内工業が成立したとされることがある。
     しかし、その言葉が真に意味するところは何か?。あるいは、明治時代、突如として日本国内において工業化(生糸や繊維を中心とする軽工業)が爆発的に拡大したのは何故か?。江戸期・明治期の連関を多少なりとも意識すれば、これらの関係性如何が問題点として遡上に載ることは容易に想起されるはずだ。ところが、これらの関連性を上手く解読した本はそうそうないのが現実である。

     本書は、イギリスないしフランス・フランドル地方を題材にしたプロト工業化理論を産業革命前の工業化の仮説として提示しつつ、その是非や日本における適応可能性を検討する書である。
     すなわち、イギリスにおいて機械設備を擁した工場を中核とする工業化が成立したのは、蒸気機関の普及といった技術的側面以外に、その前提としてのプレ工業化・プロト工業化が成立していたと見て、そのプロト工業化の内実を、実証的に検討する書である。

     まず、
    ① 本書は、いわゆる段階史観は採用しない。
     それは実証的な裏付けの乏しく、根拠がないからとするのだ。
     ただし、歴史的事象における前後の因果関係、あるいは相関関係を無視することはない。いやむしろそれを積極的に解明しようとするのだ。
     つまり、証拠に基づく事実如何=実証性を重んじ、そこからどのような因果律で後代の事象(ここでは、機械工業化、機械設備を備えた工場の成立)を解明しようとする上で、反知性主義的な史的解釈を徹底的に排していく。

    ② その上で、要因を精緻に分析し、それを地域毎で比較検討する。その極北が近世日本と産業革命前のイギリスとの比較だ。

    ③ 一方で、「プロト工業化」概念を、この地域差・時代差に関する分析検討の仮説モデルとして、比較検討のための物差しとしている。その上、歴史人口学の実証的な研究成果、家族制度史の実証的な議論の進展を叙述に反映させている点も付記しておくべきだろう。


     もっとも、正直、文庫本あとがきをまず読んでからの方が、本書における強弱の付け方を知ることができる。
     つまり、例えば、現在、そもそもこのプロト工業化論は、仮説モデルとしての価値については、実証性の観点で見ると相当薄れているのが議論の到達点だ。
     ならば、そこを主軸として叙述する箇所をじっくり読み込む必要性は大きくないことが見て取れる。ということがあるのだ。

     また、本書の議論の展開は単純ではない。
     それは、実証性を重視すればするほど、地域による農業生産力の差、市場との近縁、手工業の発達レベルによる違い、あるいは時代による違いなどを考慮要素とせざるを得ず、また、その帰結も一義的ではないことが見て取れるのだ。
     なるほど、貧困農家の副業として成立した家内工業が、産業革命への端緒だったことが妥当する場合もあれば、人口増が農村地域の工業化を進める場合もある。そして、後者の人口増の要因を見れば、地域の農業生産力の向上による場合と、市場性ある手工業の需要・生産拡大による場合といった違いだ。
     このような錯綜している状況は、決して、歴史的事象が単線的な過程を経るものではないものの、しかし、前代からの何らかの因果的な要因を想定せざるを得ないということもまた明らかにしているといえよう。

     歴史は解釈であるという言説が幅を利かせる中、歴史研究においては、実証性という、事実と証拠を重んじる姿勢が重要であるということを、本書は教えてくれる。

  • 廃れた理論であっても、思索に影響ありとなれば、文庫本で復活なんですね。
    学問の視点の置き方のような、姿勢のようなものは学びとれました。
    わきみちですが、日本だけを見て「昔は結婚は早かったから」と言ってましたが、西洋では昔は婚姻が遅かったんですね。
    普段の常識が間違っていたことに気付かされました。

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著者プロフィール

千葉大学名誉教授、昭和女子大学客員教授

「2018年 『医福食農の連携とフードシステムの革新』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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