定本 丸山眞男回顧談(上) (岩波現代文庫)

著者 :
制作 : 松沢 弘陽  植手 通有  平石 直昭 
  • 岩波書店
4.20
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006003517

作品紹介・あらすじ

晩年の丸山眞男が、自らの生涯を同時代のなかに据えてじっくりと語りおろした回顧談。興味深い事実と臨場感あふれる語り口によって、昭和史の一断面を生き生きと伝える貴重な証言である。『丸山眞男集』刊行の準備として五年余りにわたって行われたインタビューの記録に、読解を助ける詳細な注・補注を添える。上巻は生い立ちから敗戦前後まで。

感想・レビュー・書評

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  • 丸山の晩年である1988~94年に実施された聞き取りに、詳細な注記を付けたもの。上官は敗戦までがおもに収録されており、学生生活の回顧や同僚への人物評が面白い。ただ、丸山の二人の師のうち南原繁については詳細に語られている一方で、長谷川如是閑についての記述が少ないのは残念であった。

  • 何十年も前の学生時代や学者になりたての頃のことをよく覚えているものだ。日本の政治思想史の泰斗が成長する過程で読んだ本や考えたこと、議論した内容を細大漏らさず克明に記録し再現していることに只々驚愕だ。特に戦時・戦後の厳しい時代の東大を中心とする社会科学系学者(法学・経済学・文学など)の実像が綿密に活写されている。それぞれの人となり、専門や講義の仕方、問題が起こった時の対処の仕方など偏りなく纏められている。丸山真男という炯眼を通しての描写だけに、学術上の複雑な歴史的論争も明快に整理され、天皇機関説も軍部の絶対的な空気の中で日本が全面戦争へ舵を切る大きな転換点となったことがよくわかる。
    朝日新聞の記者であった父や京大に通う兄の影響、更に取り巻く人たちとの交流で大学に入る前から学問や専門分野への土地勘はあった。そういう意味で彼にとって育つ環境の影響には大きいものがあった。中学・高校時代は左翼運動にはあまり良い印象は持っていなかった、一回落ちて入った一高では運悪く二度も検挙され、獄中で大いに涙する件はリアルだ。その後も特高に見張られ、軍隊に二度招集される。こうしたことが後の人生にナイナスに作用した形跡はなく、かえって地に足をつけ学ぶテーマを絞りそれに向けて突き進むことになる。激動の環境下ブレることなく政治思想史研究への信念を貫き通した生き方は流石である。終戦直後の天皇制否定も宜なるかなである。
    若い時、尾崎顎堂から受けた自由思想の衝撃が一生を通して彼の思想の根幹をなす。「天皇陛下といえども、法律によらずして、私有財産に一指もふれることはできない。自然権、前国家的権利、実定法以前の権利としての私有財産権、個人の自由権というもの、いわゆる天賦人権論、ホッブスからロック、スピノザ、ルソーにずっと伝わってくる自然法の考え方」‥‥マルクス主義では否定しているこの自由論がベースになって彼の自由主義・反ファッショの思想は構築されていく。又、社会科学は認識主体と認識客体とは分離できないのではないか、認識することが一つの実践になるその宿命を負っているのではないか、価値判断を完全に排除して成り立つのか、当為と存在の峻別に対する疑問、などを抱えながら思考を重ねた。
    マルクス主義が荒れ狂った時代にあっても、当時の東大では冷静に対応し純粋のマルキストになる人は極めて少なかった、反して思想を理解せず時流に流され暴発行動に走るお粗末さに自誡も含めて感じるものが多かった。

  • 前半は、『坊っちゃん』的な、戦前・戦中に東大に行くような若者の学生生活や軍隊生活が著者のそこはかとない江戸っ子感を持って描かれていて面白い。後半からやはり当時の政治学会関連の話になってきて、いろんな個人名を知らないとわからないことが増えてくるので、やはりちょっと読者を選ぶかな。当時の日本を、学会はどう受け止めて対応してきたかを語る貴重な資料であることは確か。

  • 160730 中央図書館
    研究者・丸山のオーラル・ヒストリーである。この巻では、若き日の丸山が、歴史の節目に立ち会った時に、何を考え、どのように行動しようとしたのか、交友関係はどうだったのか、ということがわかる。それは丸山の思想的ポジションや研究にあたっての発想の切り口を形成する背景にどのような影響があったのかを調べるという面では有意義かもしれない。
    ただ、政治家や経済界で実績を残した人のオーラル・ヒストリーのように、歴史事実を自ら招来したり操作したという当事者の証言ではない。したがってダイナミズムという点では物足りない。もちろん、丸山という昭和の大秀才は、どのように育ったのかという下世話な興味であれば十二分に「面白い」。

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