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Amazon.co.jp ・本 (344ページ) / ISBN・EAN: 9784006004743
作品紹介・あらすじ
学問分野ごとに仕切られた分類の枠を排し、混沌状態に立ち騒ぐ日本語言説の総体を、徹底したテクスト読解を通じて横断的に俯瞰することで、「理性」「時間」「システム」という現在に直結する近代日本の特異性を描き出し、「表象空間」のダイナミズムを浮かび上がらせる。毎日芸術賞特別賞受賞作。(全三巻)
感想・レビュー・書評
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松浦寿樹の『名誉と恍惚』という長編小説を読み、著者のことを初めて知り、他の著作も読んでみようと思っていた矢先この作品に出会った。
前後逆になるが、彼はこの本で明治の表象空間と日本精神を分析し、当時を象徴する人物像を主人公にして『名誉と恍惚』を描いたと言っている。
内容は濃密だが表現が複雑で、一連の流れと部分部分の生半可な理解しかできずまとめるのに苦労した。
後半は取り敢えず端折ることにする。
彼はフランス文学者で詩人、映画評論家でもある。『花腐し』で芥川賞を受賞した小説家で多くの小説や評論を書いている。東大仏文学の教授時代、初代の表象文化論学会会長を務めた。
「表象」は「言説」と読み替えてもいいらしいがわかりにくい概念だ。「表象空間」という捉え方も結局最後まで釈然としないままだ。作者の思考の深さや発想の清新さはわかるが、読解力がついていけないもどかしさも感じた。(中)・(下)と最後まで通読して全体としての理解や納得を求めることにする。
この作品は博学多識な筆者が学問分野を超えて明治期の文化や政治、歴史の精神を遡ることから始める。事象の底流に貫く思潮や制度、理論の構成とその因果関係を独特の視点で分析する。
最初は「国体」の話から始まる。
北畠親房の『神皇正統記』、本居宣長・平田篤胤を経て藤田幽谷に続く尊王論や国学思想の系譜がもとになる。1825年会沢正志斎の『神論』から攘夷と開国、維新を経て伊藤博文による1889年の『大日本帝国憲法』(井上毅・伊東巳代治)と『教育勅語』(井上毅)の発布で形作られる。1925年の治安維持法で民権主義や共産主義から守り、戦時には穂積八束の弟子上杉慎吉が美濃部達吉の天皇機関説批判で国体明徴を言い、1937年文部省の『国体の本義』発表に至る。
著者は1945年太平洋戦争敗北までを振り返り、時勢便乗イデオローグの有象無象が演じた役割よりも国体観念の真の作者は自己組織化(プリゴジン)のメカニズムに創出され進化した観念であったという。強いられた開国に始まる神経症的脅威に対するもので「内なるまとまりと外への働きかけを効率的に実現するための巧緻なる狡知に満ちた言説であり・・・政治性を戦略的に体現した概念装置」であった、とまとめている。
次に内務省中心の警察官僚国家について。
薩摩藩出身の伊知地正治が仏軍人デュ・ブスケに習い「私考草案」を書く、それは栗本鋤雲や福澤諭吉ら洋行エリートの知見にも負い、土地への人民の帰属を確定し殖産興業と治安の維持など強大な権限を内務省に集中させた。川路利良は「内務省の本質は治安の維持である」という警察官僚国家確立の立役者であり大久保利通の腹心として活躍した。強権的な管理思想、隠密警察による不良分子摘発の目的意識、恩着せがましい家族主義と民衆蔑視、予防を本質とする行政警察という公安警察を作り、特高警察に発展させる。
次に制度を表象するツールとしての記号、日本語の書き言葉の進化に話題を進める。
言文一致体への啓蒙、漢文訓読の伝統のなかで明治初期の日本は近代的国民を創出するために一挙に膨大な量の言説の生産・流通・消費を実現しなければならなかった。それは話し言葉でも漢文でもなく、漢文の訓読(読み下し)で作られた「漢文体(漢文崩し)」になった。意味の出自は西洋語で表記は中国語という二重の他者性を背負った言語記号が「国語」の一要素として自然な日本人の思考と行動を違和感なく律するようになっていく。
西周による西洋起源概念の漢語への翻訳、森有礼の英語採用論などもありながら、明治の言説の言語態にとって漢字というツールは最重要の不可欠要素だった。
言文一致体の登場で日本語の文字と音との関係はまた新たな段階に入る。翻訳王森田思軒の漢文訓読体の周密体は洋学と漢学の有機的な連関が理想的な成功を収めた代表例である。しかし周密体は言語的な表象空間の覇権を握りそこねて破れ去り黴臭い過去の遺物と化してゆく。言語を他者との関係で徹底的に省察した知性にのみ展開可能であった近代日本語論であった。
四迷の翻訳、子規の写生文、漱石の小説、鴎外の史伝等々がルター訳聖書のような決定的テクストではなかったが、それぞれが部分的役割を果たし「言文一致体」を精錬していった。
丸山真男は『福澤における実学の展開』で「学知の重心を倫理から物理へ移動させることを通じて、近代のとば口に立った日本の民衆の自然観や社会意識それ自体の革新をめざす画期的な試みであった」と言っている。啓蒙的合理主義というイデオロギーの普及、理性への信仰の原理を鼓吹した最大のイデオローグこそ福澤諭吉であった。 ・・・・・
以後中江兆民の徹底的な非戦主義の話へと続く。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【蔵書検索詳細へのリンク】*所在・請求記号はこちらから確認できます
https://opac.hama-med.ac.jp/opac/volume/481884 -
東2法経図・6F開架:B1/8-1/474/K
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【メモ】
さずかに三分冊で文庫化されるようだ。
[上]2024-04-12
[中]2024-05-15
[下]
【書誌情報】
著者 松浦寿輝
通し番号 学術474
ジャンル 岩波現代文庫 > 学術
刊行日 2024/04/12
ISBN 9784006004743
Cコード 0191
体裁 A6・並製・344頁
定価 1,760円
https://www.iwanami.co.jp/book/b643153.html
【上巻 目次】
凡例
はじめに
力線と結節点
なぜ「表象」なのか
文学と「近代性」
特権的な「表象」の運命
序章――「国体」という表象
国体、この神経過敏なるもの
不変/固有/空疎
魔王と脱構築
改造主体としての天皇
「表象=代表」のラディカリズム
第Ⅰ部 権力と言説
1 予防――内務省と警察(一)
「国ノ国タル所以ノ根元」
土地=人民の再編成
「予防」のシニシズム
2 仁愛――内務省と警察(二)
「保傅」としての警察
巡査の身体
洋服/和服
3 定位――戸籍(一)
「横」から「タテ」へ
拷問から旅券へ
相貌からDNAへ
4 逸脱――戸籍(二)
引致と説諭
「乙号」の人々
寅さんと「山の人」
5 網羅性――新律綱領・刑法(一)
新律綱領の恍惚
民主化された「知」
罪刑法定主義の逆理
6 有限性――改定律例・刑法(二)
「故失出入」という装置
「梟の首」の恐怖
ナンバリングの裏切り
7 抽象化――旧刑法・刑法(三)
「律」から「法」へ
「合法的支配」の出現
形象の抑圧
象徴界と威嚇
8 混淆――漢文体(一)
片仮名の註
「中国語の助けがなければ……」
混成言語態としての「国語」
9 アイロニー――漢文体(二)
漢学の失楽園
予言者は嘲笑する
「第二のルーテル」の出現?
10 プラグマティズム――福沢諭吉(一)
「決定論の泥沼」をめぐって
複数の言語態
「此一段は悪文の例なり」
11 啓蒙――福沢諭吉(二)
「時節」の到来
福沢諭吉vs.森田思軒
「啓蒙」というイデオロギー
12 演戯――中江兆民(一)
理性と自由
「啓蒙」の自壊
「吾等の臓腑、吾等の血汁」
13 地滑り――中江兆民(二)
歴史と寓話
反語・韜晦・皮肉
明治十四年の政変
14 正論――中江兆民(三)
正論は威圧する
「是れ一時遊戯の作」
正論の脱構築
15 新旧――中江兆民(四)
「新」という記号
士族の蘇生
超越と普遍
16 暴力――中江兆民(五)
「皇国之兵制一般」をめざして
法の措定、法の維持
国民総武装のユートピア
註
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