曲説フランス文学 (岩波現代文庫 文芸2)

  • 岩波書店 (2000年1月14日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784006020026

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  • 本書はもともと『へそ曲がりフランス文学』と題して1961年に光文社カッパブックスから出版されている。著者渡辺一夫は正統的な文学史には到底及ばないという謙遜もこめて『曲説フランス文学』としたかったようだが、出版社の意向で「へそ曲がり・・・」となったらしい。今となっては出版社の真意を知る由もないが、評者としては原題の「へそ曲がり」に親近感を持っている。というより「へそ曲がりの精神」はある意味で渡辺のユマニスムの核心とさえ言えると思うのだ。渡辺自身もそれは「皆が何の疑いもなく受け入れているものに対して、首をひねったり、皮肉な目を向けたり、これを風刺したり、罵倒したりして、反省を求めること」だと言っている。人間が自分の考え出したものや作り出したものに、逆に使われ、その機械や奴隷になる時、その機械的なものを「笑い」倒して、「生命の流れ」を取り戻すこと、これが渡辺のユマニスムだ。

    イタリア・ルネサンスの大抒情詩人ペトラルカは女性賛美を高らかに歌い上げた滔滔とした文体で一世を風靡したが、それがあまりに繰り返されると月並みに堕す。ペトラルキスムの流行に棹さす「ラ・プレイヤード」詩派のデュ・ペルレーも、「ペトラルキストを排す(1558)」を書いて硬直化したその様式を風刺した。時代は下って17世紀の古典主義や18世紀の擬古典主義には、感情や空想の奔放な世界よりも、人間の理性によって統制された世界に対する信頼があったのだが、それが形式に流れ当初の精神を失ってしまったために、そこから脱出しようとしたのが19世紀のロマン主義である。さらにはロマン主義に溺れた自己を冷静に見つめたスタンダールは写実主義を切り開き、ミュッセはロマン主義の機械や奴隷になり下がった文壇の滑稽を笑い飛ばした。渡辺の描くフランス文学史には節目節目で健康な「へそ曲がり精神」が発揮される。「曲説」でも何でもない、堂々たる壮見と言ってよいではないか。

    欲を言えば渡辺にはもう一捻り「へそ曲がり精神」を発揮して、思考停止に陥った戦後民主主義や平和主義を笑い飛ばして欲しかったという気もする。もっともそれはフランス文学と何の関係もないし、渡辺の次の世代の仕事と言うべきなのかも知れない。

  • via 松岡正剛「多読術」

  • 111夜

  • 読みやすいのでお勧め

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著者プロフィール

渡辺 一夫(わたなべ・かずお):1901-75年。東京生まれ。東京帝国大学文学部仏文学科卒業。東京大学名誉教授。フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』全5巻の翻訳(岩波文庫)をはじめ、フランス文学に関する著訳書多数。『渡辺一夫著作集』全14巻(筑摩書房)がある。

「2025年 『敗戦日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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