曲説フランス文学 (岩波現代文庫 文芸 2)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006020026

作品紹介・あらすじ

ラブレー研究で知られるフランス文学の泰斗が、わかりえたことだけを綴ったというフランス文学探究。中世から現代までの文学的な題材を論じながら、著者の深い人間洞察・批評精神が披瀝される。ラブレー的ユーモアを穏やかに変奏しつつ、イロニーと博識が充満する。きまじめにして抱腹絶倒のフランス文学通史。

感想・レビュー・書評

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  • 本書はもともと『へそ曲がりフランス文学』と題して1961年に光文社カッパブックスから出版されている。著者渡辺一夫は正統的な文学史には到底及ばないという謙遜もこめて『曲説フランス文学』としたかったようだが、出版社の意向で「へそ曲がり・・・」となったらしい。今となっては出版社の真意を知る由もないが、評者としては原題の「へそ曲がり」に親近感を持っている。というより「へそ曲がりの精神」はある意味で渡辺のユマニスムの核心とさえ言えると思うのだ。渡辺自身もそれは「皆が何の疑いもなく受け入れているものに対して、首をひねったり、皮肉な目を向けたり、これを風刺したり、罵倒したりして、反省を求めること」だと言っている。人間が自分の考え出したものや作り出したものに、逆に使われ、その機械や奴隷になる時、その機械的なものを「笑い」倒して、「生命の流れ」を取り戻すこと、これが渡辺のユマニスムだ。

    イタリア・ルネサンスの大抒情詩人ペトラルカは女性賛美を高らかに歌い上げた滔滔とした文体で一世を風靡したが、それがあまりに繰り返されると月並みに堕す。ペトラルキスムの流行に棹さす「ラ・プレイヤード」詩派のデュ・ペルレーも、「ペトラルキストを排す(1558)」を書いて硬直化したその様式を風刺した。時代は下って17世紀の古典主義や18世紀の擬古典主義には、感情や空想の奔放な世界よりも、人間の理性によって統制された世界に対する信頼があったのだが、それが形式に流れ当初の精神を失ってしまったために、そこから脱出しようとしたのが19世紀のロマン主義である。さらにはロマン主義に溺れた自己を冷静に見つめたスタンダールは写実主義を切り開き、ミュッセはロマン主義の機械や奴隷になり下がった文壇の滑稽を笑い飛ばした。渡辺の描くフランス文学史には節目節目で健康な「へそ曲がり精神」が発揮される。「曲説」でも何でもない、堂々たる壮見と言ってよいではないか。

    欲を言えば渡辺にはもう一捻り「へそ曲がり精神」を発揮して、思考停止に陥った戦後民主主義や平和主義を笑い飛ばして欲しかったという気もする。もっともそれはフランス文学と何の関係もないし、渡辺の次の世代の仕事と言うべきなのかも知れない。

  • via 松岡正剛「多読術」

  • 111夜

  • 読みやすいのでお勧め

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著者プロフィール

フランス文学者。1901年、東京生まれ。1925年、東京帝国大学文学部仏文科卒業。東京高等学校(旧制)教授を経て、48年、東京大学教授、62年、同大学名誉教授。文学博士。1975年、逝去。主な著作に『フランソワ・ラブレー研究序説』『フランス・ユマニスムの成立』『フランス・ルネサンスの人々』『戦国明暗二人妃』『世間噺・戦国の公妃』『世間噺・後宮異聞』など、おもな翻訳書にエラスムス『痴愚神礼讃』、ラブレー『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』など。



「2019年 『ヒューマニズム考 人間であること』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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