金環蝕 (岩波現代文庫 文芸 15)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006020156

作品紹介・あらすじ

時代は高度成長期、総裁選をめぐり巨額の買収が与党内で起こった。その穴埋めの政治献金を得るため、ダム建設の入札が、あるからくりとともに推し進められた…。政界・財界・官界を舞台にした一大疑獄と、野望と欲に取り憑かれた人々を活写し、政治腐敗、国費の濫費に対する国民の怒りを喚起した問題の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • いや、もう何というべきか。

    実在したと言われる昭和三十年代の汚職事件をもとにしたサスペンス。
    巨大ダム建設をめぐる受注合戦に与党総裁の泥沼の選挙。
    政界の急所を握る闇金融の帝王。
    官房長官の暗躍と名もなき官僚の犠牲。
    検察の正義と圧力。

    どんな本でもそうだが、読む「適齢期」というものがある。
    若いときに読んだら「なんて真っ黒なやつらだ、恥ずかしくないのか!!」となる。
    今読むと、じぶんがこの立場だったら、となる。

    別に今ならここの登場人物のようにわるいことをしてしまう、という意味ではないのだ。年を追うごとに背負う責任も増えれば、どんな仕事にも「のっぴきならない」場面というのは増えてくる。
    それを乗り越える義務感と権力欲は紙一重、ということが実感的に理解できるようになるということだ。
    ここに出てくる登場人物は、皆俗悪で最悪だが、同時に何らかの使命感、責任感を持って行動している。
    そこが一段と怖いのだ。

    登場人物たちの腹の探り合いの会話のリアリティ。
    闇金融の帝王が語る、「おれの身辺をうろつく怪しい奴は珍しくないが、そういう連中はだいたい一人。二人なら官憲」のリアリティ。
    公共工事の補償をめぐる官尊民卑のリアリティ。

    とことん読みやすいのでエンターテインメントとして満喫。

  • 政界を巻き込んだ不正入札事件(九頭竜川ダム事件)をモデルとした社会派小説。語り手が相当に饒舌なところがジャーナリズム的である(作中人物の視線に同化することなく、超然とした立場から滔々と官僚制批判などを展開する箇所が散見される)。一方、不正に関わった人々の心理も緻密に描写されている。特に電力建設(電源開発)の財部総裁は、不正入札を行うことへの抵抗感を持っており、自らの進退を含めて思い悩む描写などは立派な心境小説であると感じる。日本のこれからの土木行政を考える上で、こういう暗い過去について知ることには一定の価値があるものと考える。

  • 石川達三『金環蝕』岩波現代文庫 読了。九頭竜川ダム落札事件をモデルに、某党総裁選挙をめぐる汚職事件を描いた作品。巧妙なカラクリによって巨額の贈収賄事件が現実のものとなり、真実を知る者が次々に舞台から消されていく。我々は明るみにされた事実を忘れ去ってしまうことを訴えかけられている。
    2012/10/22

  • F-川のダム建設をめぐる巨大な汚職事件と、その中で暗躍する政財界の人びとの姿を描いた作品です。

    前半は、電力建設会社の財部総裁を中心に物語が進んでいきます。事の発端は、寺田首相とその周辺は、総裁選に勝利するためにかかった費用を賄うため、F-川ダムの工事を竹田建設に請け負わせようとします。ところが、財部はかねてから付き合いのある青木建設に工事を受注させようと考えており、そんな彼に大臣らを通じてさまざまな圧力がかけられることになります。

    後半は、財部が竹田建設からの賄賂を受け取ることで戦いの舞台から去ることになり、前科四犯ながら政界の闇に通じている石原参吉と、日本政治新聞社社長の古垣常太郎、そして与党議員でありながら大衆の人気を得るために汚職の追及を進める神谷直吉といった癖のある人物が入り乱れて、ストーリーがにぎやかなものになります。

    汚職をテーマにした政治小説ですが、意外にエンターテインメント性もあっておもしろく読める内容でした。

  • 金環食の日に思い出しました。(安直)
    政界の裏なんて興味もなかった大学時代
    でも、なんだかギクッとして読み返した経験があります。
    政界があんなんじゃいい政治なんて。。。とも思うのですが
    いまどき。。。。あんなん というぐらいの凄さもないのでは??

  • 時代は高度成長期。総裁選に多額の金が飛び交い、そのお金を政治献金で賄おうとする腐敗。この構図、今では考えられないと断言できるのかな?

  • 政治の世界こわい。やっぱりこういうのだめかもしれない。

    今でもこの腐敗した状況が変わっていないのであれば、
    もう浄化するのではなくてぶち壊したほうがましだな。

    ぶち壊すのなら命を投げ出す覚悟がなければいけない。

    --
    正義だけでは儲からない。正義を立てようとすると多くの場合損をするものであることは解っていた。(P85)
    献金という名前の賄賂が、寺田総理に贈られたことと思われる。それが総理大臣婦人の(内助の功)であったのだ。(P178)
    即答はしない。即答して得することは滅多に無いのだ(P205)
    人間のやる事なんて、どんなに極秘のつもりでも、あとからあとから、みんな解って来るもんだ。(P270)
    中央の政治家は理論的で。地方の政治家の方が現実的だった。(P298)

  • 石川 達三 / 岩波書店 (2000/06)

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