死のクレバス―アンデス氷壁の遭難 (岩波現代文庫)

制作 : Joe Simpson  中村 輝子 
  • 岩波書店
3.95
  • (20)
  • (18)
  • (19)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 141
レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006020224

作品紹介・あらすじ

氷壁初登攀の成功から一転して骨折、墜落、宙づり、パートナーによるザイルの切断という絶望的な状況に陥ったクライマーは、いかにして「死のクレバス」から生還したのか。孤独と不安、パートナーへの猜疑、死への恐怖など、極限状況における人間内部の葛藤と傷ついた肉体との格闘を自ら記した、迫真の山岳ノンフィクション文学。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 「どういうわけか、しつこく繰り返される単調なメロディーが抜け出てくれず、その歌詞も忘れたいと思いながらカリマーと取り組んでいた。…“指輪をつけた褐色の娘が…トラ、ラ、ラ、ラ…”…いろんな考え事の合間を縫って意味のない歌だけがしつこく口をついて出てくるのだった。」(235ページ)

    日本国内で3千メートルに満たない山をたまにチョロッと趣味で登る私にとって、ジョーやサイモンの“登攀”には全く及ばないことは百も承知。
    なのでジョーの体験した極寒、孤独、恐怖、激痛、飢え、渇きに自身の体験を重ねるなんて、おこがましいにも程があるのもわかってます。

    でも、映画「運命を分けたザイル」を見たときに、ジョーが悪戦苦闘するさなかに、なぜか「ボニーM」の能天気な曲が頭の中をリフレインするシーンがあって、ジョーにとって極限ぎりぎりの場面なのによりにもよってその歌かい!と思って大爆笑したのを覚えている。

    つまりそれは、山登りでつらくて苦しくて心臓が口から飛び出そうなくらい逼迫した場面で、その「なんでこの時に?」というような曲が頭の中を駆け巡るというのは、私も体験したことがあるから(笑)

    私の場合、それは昔の(1970年代初めの)特撮番組のテーマ曲だ。
    標高が上がって疲労が蓄積され、物言う気力も完全に削がれたような苦しい上り坂の場面で、頭の中にファイヤーマンの「地球が地球が大ピンチー」とか「変われー変われー燃えるマグマのファイヤーマン」という子門真人のシャウトが脳内を駆け回る。
    これって何でなのだろう?
    だって、普段の生活で、例えば電車に乗っていたり人と待ち合わせをしているときとかも含めて、そんな曲を思い浮かべることなんか全くなかったから。
    ファイヤーマンの歌なんか自分の日常生活からまったく隔絶された歌だ。頭の片隅にすらないという自覚しかない。
    なのに、なんで「こんな時」に「こんな曲」が頭の中に出てくるのか?
    そもそも、この「追い詰められたときに思い浮かぶ曲」というのは、その人の人生経験や体験とどういう連関性があるのだろうか?

    手塚治虫「アドルフに告ぐ」では、日本人の主人公がナチスドイツの拷問を受けて意識朦朧となったときに早稲田大学校歌が口をついて出るというシーンがあるが、そういう普段は脳内の引き出しの奥深くにしまわれている歌や曲が切羽詰まった場面で唐突に飛び出てくるというのは、脳の機能上、どうなっているのだろうか?
    これって学術的に解明されてないと思う。解明されたら面白いのに…

    以上、少し本の内容から離れすぎたけども、“意味のない脳内リフレインの1曲”が具体的体験により描写されているというこの一事だけでも、この本は貴重である。

  • 100殺!ビブリオバトル No.05 午前の部 第2ゲーム [チャンプ本!]

  • Touching The Void という原題に美しさを感じる。

  • ここ最近読んだ本の中でダントツにおもしろい。山岳ドキュメンタリー本の極北だと思う。後半読みながら自分自身も寒さと痛みをひたすら感じながら読んでいた。自分なら死ぬ自信があるし、やはり、ザイルを切ると思う。映画「運命を分けたザイル」の原作らしい。映画も見てみたい。

  • 死を覚悟したが、諦めずに生還したジョーの凄さに感動した。

  • クレバス=雪渓などにできた深い亀裂。壁面は垂直、割れ目の幅は1m~。深さは10m前後~。底に氷のとけた水が溜まっていることも。

    ここまでで既に息を呑む…

  • 運命を分けたザイルの原作ともなっている本。とにかくどうしてこの人たちが生還しているのかが読んでいるうちに信じられない気持ちになってくる。

  • アンデスの氷壁で吹雪につかまり骨折、滑落、パートナーによるザイル切断。で、生還したジョーがかっこよすぎる。ラストで思わず落涙。甘っちょろい死ぬの生きるののお涙頂戴など吹っ飛ぶ感動。

  • 前半、のろのろ、後半一気に読めました。

    最初は登山用語がわからずどんな過酷な山を登っているか
    イメージがつかめませんでした。

    後半、絶望的な事故の後で以下に
    生還するか、極限の人間はそんな時どんなことを
    考えながら行動しているのかというところには
    引き込まれました。

    意思の力で本当にすごいことが
    成し遂げられるんだな、と感じました。

  • 山岳ノンフィクション、と一言でまとめてしまうには、
    あまりに壮絶で緊張感に満ちた恐るべき一冊。

    ペルーアンデスのシウラ・グランデ峰に挑む著者とパートナー、
    前人未踏の氷壁を踏破し、
    ベースキャンプに戻ろうとした際に悲劇は始まる。
    予想よりはるかに険しい下降ルート、すくむ足腰、
    思い出す恐ろしい山岳事故の記憶、
    それでもどうにかそれらを抑え込んで歩を進めるが、
    そこで著者が滑落、骨折。
    まずここれだけでも心臓が縮こまるが、序の口に過ぎない。
    この後も、骨折した状態で山を下り、
    暗闇の中クレパスの真上で宙吊りになり、
    更にそこでパートナーが2人を結んでいたザイルを切り離したため、
    底の見えないクレパスの中に投げ出される…。
    いや、もう、言葉にしただけで鳥肌がたつ。
    ドラマでもない映画でもない小説でもない、
    全ては純潔なるノンフィクションである。
    クレパスなんて、想像しただけでも吐き気がするくらい未知なる恐怖だ。
    そこから脱出し、片足を引きずりながらベースキャンプを目指す著者の姿は、
    もう「壮絶」としか言いようがない。
    しかも、この作品のもう一つの意味で壮絶なところは、
    単なる山岳ノンフィクションであるというだけではなくて、
    その状況ゆえに、極限状態に置かれた人間の生々しい姿が描き出されているところだ。
    骨折したパートナーと共に氷壁を下るのは自殺行為であって、
    その選択を迫られた時に人は何を考えどう動くのか。
    また、「ザイルを切断する」という極めて劇的な、
    しかしおそらくそこで本人たちも自覚しえない驚くほど大きな責任が伴う決断が、
    どのように状況や心理状態に影響を及ぼしたのか。
    こういったリアリティはなかなか他の作品では見受けられない。
    読み進めるうちにぐん、と引き込まれ、
    気がつくとあっという間にその世界観に呑まれている。
    これがノンフィクションであるために、
    二度と同じ手法では書かれることがないことを思うと、
    この作品そのものがひとつの山の「頂点」ではないかと思う。

    泣いた。

全21件中 1 - 10件を表示
ツイートする