赤い高粱 (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006020798

感想・レビュー・書評

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  • 下劣か崇高か 快作か怪作か 迸るエネルギーがあることは間違いない

    2012年ノーベル賞を受賞した莫言の作品。映画「紅いコーリャン」の原作である。
    本作は「赤い高粱一族(紅高粱家族)」として全五編で構成される。本書にはそのうち、前半二部(「赤い高粱」「高粱の酒」)が含まれる。1989年徳間書店刊の「現代中国文学選集・第6巻」の復刊として2003年に出ている(訳文には多少手を入れたそうである)。
    その後、ノーベル賞受賞を受けて、ということだと思うが、2013年3月に、「赤い高粱一族」後半三部(「犬の道」「高粱の葬礼」「犬の皮」)が「続・赤い高粱」として、本書と同じ岩波現代文庫から出版されている。こちらはおそらく、徳間「現代中国文学選集・第12巻」が下敷きになっているものと思われる。
    先日、『変』を読んだのもあって、読んでみた。

    映画も見ていなかったので、纏足の少女が嫁入りをすることに端を発する一族の物語、という程度にしか予備知識がなかった。色が鮮烈だという印象も抱いていた。
    だが読み進めて行くと、鮮烈というよりは、むしろ「どぎつい」と言った方がよいような物語である。色だけではない。暴力的な描写、激しいうねりを孕む筋立て、気性の荒い登場人物たち。多くの人物が命を落とし、大地を血に染める。体液や汚物がアジアの大気に満ちる臭気となり、激烈な物語が展開する。

    特に第一部は抗日が主軸に据えられた話である。この中の日本兵によるエピソードが掛け値なしに現実の姿であるならば、許し難い蛮行と言うしかない。暴力的な描写を読む苦痛とともに、それが自国民であることの断罪を絶えず感じながら読み進めるのはなかなかに苦行である。著者は

    『赤い高粱一族』は抗日戦争を語っているようですが、その本当の中身はわが村人たちが語っていた民間の伝奇(=荒唐無稽な物語)なのです

    と述べている。
    が、この部分、冷静に読むのは難しい。

    物語は時空を往き来する。第一部の最後で主要な登場人物が死んでしまうのだが、第二部でも在りし日の姿が現れる。
    行きつ戻りつしつつ、類い稀な高粱酒を作り上げた一族の愛憎の物語が紡がれていく。
    抗日描写がそれほどないこともあって、二部の方が読みやすい。名高い盗賊との顛末、役人に巧みに取り入る大胆な女主人など、「何だそれ」と思うような意外な展開も多いが、読み応えがある。

    本書中にはいくつか、数の誤りや人物の取り違えなど単純ミスであると思われる箇所がある。それもあってか、いささか荒削りな印象も受ける。

    著者はマルケスに影響を受け、また解説等でもよく引き合いに出されるようだ。『百年の孤独』も『エレンディラ』も読んだのはずいぶん前なので、無責任な印象になるが、少なくとも、物語の流れにもっと気持ちよく流されていたように思うのだ。
    本作には、もっと荒々しい、もっとプリミティブな何かが流れているように思われる。迸るエネルギーがある作品であることは間違いない。

    だが、さて、「続」を読むかな・・・?というと、いささか躊躇われる。読むとしても少々時間を置こうかなというのが正直なところだ。

  • ノーベル賞受賞で初めて著者を知った。中国人の同僚からも勧められ、一度読んでみたいと思っていたが、なかなか手が出せずにいたところ、図書館で見つけて借りた。

    死に満ち溢れた物語である。老僕の死、盗賊の死、僧の死、酒造家父子の死、村長の死、親戚の死、兵隊の死、女の死、子どもの死、祖母の死。血と体液と臓腑の飛び散る凄惨な死ばかりである。高梁はそれらの死を見下ろし、また死の犠牲者にもなる。物語の時間は行きつ戻りつしながら、一族と土地の記憶、すなわち歴史が語られる。

    歴史の語り方ということにには少し興味があった。過去から時系列に従って語るのが必ずしも最善の方法ではないのではないかと。文学が提示する語り方は、歴史の語りにも参考になるのではないかと思った。

  • 村上春樹のノーベル賞受賞に期待が高まる中、見事に持っていかれたことでその名を知り、一度はその著作に触れてみたいと思っていた莫言。「百年の誤読」を参考に、本作をチョイス。で、そもそも”高粱”って何ぞや、ってところから。でもそれを知ったところで、かの植物を身近に感じられた訳でもなく、結局ぼんやりしたイメージしか思い描けなかったけど。でも物語としては十分に楽しめました。続編があるみたいだから、まだ作品の全貌が姿を現した訳ではないけど、本作収録の2章分だけでもかなりの熱量。中国史は好きでよく読むけど、中国文学には初めて接した今回。面白いんだけど、やっぱり日本軍の愚行は題材になりやすいんか…って、結構複雑な気持ちも。恨み辛みって感じじゃなく、物語の有効なスパイスって感じではありますが。

  • 世界の小説を読む第4冊目中国
    「赤い高梁」莫言
    日本兵による暴虐が横行していた1930年代の中国山東省。「私」の祖父母が出会ったその日から、脈々と受け継がれる反骨の物語が始まる。実の祖父の様に可愛がってくれた使用人の生皮が日本兵によって剥がされる様、真っ赤な実がたわわに実る高梁の茂みの中で交わる祖父母、芳醇な酒の香りを嗅ぎながら育った父の幼少期、反乱分子同士の諍いー数々の鮮烈な情景が、順不同に描かれる。終始加虐者として描写される日本人として読むのは辛いものがあったが、どこか荒唐無稽な内容は、重い心で読むのではなく、もう少し違った心持ちと視点で読むべきなのではないかと思わせる何かがあった。ガルシア・マルケスのマジカルレアリズムに多大な影響を受けたと読んだが、そこまでファンタジー的な要素はない。

  •  マジックリアリズムとかいうものを勉強するために、読書会用で買った本。まあ抗日とか村人とかその歴史とか、縦軸横軸入り交じりたいへん結構なことだが、中国の書く日本が、本当に日本のことを書こうとしているかは、わからない。あえて日本の鬼達を書くことにして、いつのまにかその鬼が中国人のアイデンティティになっている。それを書いているのではと思った。
     つまり、鬼の国ときけば、日本がそうであるように思えるが、本当はそれぞれが鬼の国であり、中国のなかにある、中国人の心の中に飼っている鬼を描いている。
     もうひとつ、この作家は銃というものが好きなのだなと思う。銃は、農民を最強の戦士に変える。撃ち方さえマスターすれば、どんな達人や剣豪も、あっというまに倒せたり、参らせて命乞いさせることができる。この拳銃という存在、銃という機能や平等さに、民俗的なものを込めて、世界観をつくりあげていっているのが、この作家のマジックリアリズムの肝であるように思われる。誰にでも使えて、引き金一つで殺せる、その平等性、合理性にプラスして、封建的だったり肉体的な暴力さをもったような村の世界の「都会のやつらは良い思いをしているのだから、田舎のおれたちが少し悪いことをしたって、とがめられることはあるまい」的なノリとあわさり、グロテスクな、かつてない世界を生み出しているように思う。

  • 流れる真っ赤な血が放つ鈍い鉄の香りと、汗のすえた臭い、そして土の湿ったほこり臭さが雄弁に語る。軍隊の侵攻を受けるなかで生きる庶民の苛烈さを。

    1939年8月、中国山東省を進む日本軍を抗日ゲリラが奇襲して、双方に甚大な被害があった。その襲撃に関わった現地住民が物語の軸となる。タイトルの赤い高梁とは穀物のモロコシのこと。キビの一種で、食べるだけでなく焼酎の原料でもある。それは実る時、一面の畑を赤く染める。

    描写がひたすら生々しくて遠慮ない。貧しい原住民にとって、生きるとは命のエネルギーを燃やすことそのものであり、理由すら問わず、ひたすら命の限り振る舞うよう求められる。正義や理想、想像を許す余地がない。生きてゆくために食って飲んで寝て、その延長線上に日本軍との戦闘があるさまは、厳かですらある。

    2012年のノーベル文学賞・莫言氏の代表的な作品で、1989年に刊行された日本語訳の復刊だ。

    これだけでノーベル賞作家が分かったとはもちろんいえないけれど、なぜ受賞したかの一端は感じることができる。

  • 感想は続編に

  • 時系列を把握するのが若干難しい。

  • 抗日ゲリラ隊の司令である祖父と少年隊員である父、酒蔵の女主人である祖母。
    真っ赤な高粱畑のなかで飛び散る臓物と脳漿。血、酒、土埃に塗れた一族の歴史は神話に落とし込まれ伝承されます。
    高粱とはモロコシ。乾燥地帯で栽培され野生のものは全長3mにも達するそうです。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/58527

    舞台は作者の故郷である中国山東省。
    抗日戦争の時代を生きる一族の数奇な物語。

    著者である莫言は2012年にノーベル文学賞を受賞。

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著者プロフィール

中国・山東省高密県出身。小学校中退後、1976年に人民解放軍に入隊し、執筆活動を開始。『赤い高粱(コーリャン)』(1987年)が映画化され世界的な注目を集める。「魔術的リアリズム」の手法で中国農村を描く作品が多く、代表作に『酒国』『豊乳肥臀』『白檀の刑』など。2012年10月、ノーベル文学賞を受賞。

「2013年 『変』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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