自由の牢獄 (岩波現代文庫 文芸 128)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006021283

感想・レビュー・書評

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  • メタ小説ってありますよね、紙面から浮き上がってリアル世界に入ってきちゃうやつ。これらの話は丁度逆で、紙面の裏側とか奥に引きずり込まれそうな感じです。

    ■遠い旅路の目的地
    故郷の見つからない男が一枚の絵の中に見つけた。
    なぜか乱歩を「押絵と旅する男」を彷彿。

    ■ボロメオ・コルミの通廊
    遠近法リアルの不思議な廊下・・・ エッシャーの世界かな。

    ■郊外の家
    「ボロメオ・コルミの通廊」の読者がこんなんもあるで、と書いてきた手紙、という設定。
    ややこしいなあ。微妙にナチ絡み。

    ■ちょっと小さいのはたしかですが
    その車にはガレージがついています…?? メビウスの輪?

    ■ミスライムのカタコンベ
    指令に従うだけの「影の民」は幸せなのか?

    ■夢世界の旅人マックス・ムトの手記
    冒頭の”老寵姫”が凄いインパクト。
    「北京の秋」とカフカの「城」を足して2で割った雰囲気です。

    ■自由の牢獄
    これは完成度高いんじゃない?111枚の扉からどれを開けるか。考えているうちに…これもカフカ。「掟の門」だね。

    ■道しるべの伝説
    どこかへどこかへと旅を続けるうちに、道しるべは動かないから役に立つことに気付く。そうよね。
    ユルスナール「黒の過程」のゼノンに通じる。

  • 読後どっと精気を抜かれて落ちるように眠る。。

    鏡のなかの鏡や、ドグラマグラの感じに近い。
    夢か現か、境界線が混沌として…

  • 難しいなと思ってたけど、
    再読でエンデの言葉の景色に少し近づけた気がする。

  •  エンデのこの短篇集を読んでていいなと思ったのは、真理を突き止めようとすればするほど沸き起こる疑念に対して人間が無力であることを描き出してるところ。結局のところ何が真実だということが先延ばしになっていることがこの世には無数に溢れている。エンデは文学を解釈することを嫌ったそうだ。文学の答えを導き出そうとするのは正しい接し方ではなく、読む行為それ自体は「体験」であり旅をすることなのだと言っている。そしてそんな体験の旅が本物ならばそれは経験となりその人を育てるのだと。というとなんだかこうして感想を書くのも気恥ずかしい感じになるが、とかく難しいことは考えずがむしゃらに読んで、その体験談をありのまま示せばよいのかなと思った。

  • この本に掲載されている8編のファンタジーはどれもが、現実はその人の主観で成り立っており、真実は人それぞれで違うのだということをあらためて教えてくれます。

    その中の一編『遠い旅路の目的地』では、たったひとつの絵を自分のものにするために、自身の資産を投げ出し、思いを寄せてくれる女性の心を道具のように利用する主人公が出てきます。周囲の人々から見れば、彼は冷たいエゴイストでしかありませんが、故郷を持たず、子どもの頃から根無し草のような人生を送ってきた彼にとっては、その絵を手に入れることこそが自分の故郷を持つことであり、人生において最も価値のあることなのです。

    その他にも、前を向いて歩いているときには何も変わらないのに、ふと後ろを振り返えると景色が巨大化して見える不思議な通廊の話(『ボロメオ・コルミの通廊』)や、外観はごく普通の民家なのに、ドアを開けて一歩中に入ると何故か建物の外側に出てしまうという不思議な家の話(『郊外の家』)など、私たちが今目にしている現実世界を疑いたくなるような話ばかりが集められています。

    私たちカウンセラーの仕事では、後ろを振り返ると景色が変わっていたり、建物があると思ってドアを開けてみたら外に出てしまったり、という体験は日常茶飯事のような気がします。それは、人間とは誰もがその人固有のファンタジーを生きているからではなのではないでしょうか。

  • ミスライムのカタコンベが好き。

  • 幻想世界で織りなされる無限に続くとも思われる虚無感と焦燥感が、これまでに読んだ小説と何かと似ていると思ったら、「百年の孤独」だった。

  • 「自由」ということをこんな風に考えたことはなかった。
    鏡のなかの鏡よりもとっつきやすいが、やっぱり不思議。

  • 読後、久々にひどく疲れた作品。
    それは悪い意味ではなく、作品の世界から現実の世界に戻るのにエネルギーが要ったから。
    短編一つひとつに世界がしっかりと描写されていて、頭の中(むしろ目の前か)に
    風景がバーッと広がる。
    それは現実と非現実がギリギリ接しているような、絵のような風景だ。


    さて内容だが、自分の意思や感覚というものについてぼんやりと思っていた事が
    びしびし書いてあった。
    今は、物も情報も思想も溢れていてどれを見る事も選び取る事も可能。
    それ自体には正解も不正解もなく、選び取る者の内側に全てがあるのだ。

  • 『モモ』や『果てしない物語』で有名なミヒャエル・エンデの短編集。短編ごとに異なる世界観の幅広さや予想以上に暗さが目立つ物語のあり方以上に、クンデラも顔負けの思弁的な内容に驚かされる。二十世紀中期のドイツという、時代の楔の最中で少年期を過ごしてきたエンデは現実と人間を徹底したリアリズムの眼差しで観ていくことによって、ファンタジーの重要性と役割について学んでいったのだろう。帰る場所なんてないのに、行く当てすらも見つからない―そんなあらゆるものから切り離されてしまった全ての子供たちに、この本は開かれている。

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