黙阿弥の明治維新 (岩波現代文庫)

著者 : 渡辺保
  • 岩波書店 (2011年9月17日発売)
4.20
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006021900

作品紹介

河竹黙阿弥にとって明治維新の意味とは何であったか。彼の作品の「江戸情緒」や「江戸趣味」は本物か、「島鵆月白浪」の背景に存在する招魂社の意味は何か。明治維新以前の小団次らとの協働の検証と維新以後の散切物の読み込みを通して、黙阿弥こそが日本の近代演劇の始祖であると主張し、演劇史の書き換えを要求する刺激的な評伝。

黙阿弥の明治維新 (岩波現代文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 舞台は役者だけのものじゃなく、戯作者のものでもある。江戸から明治を生きたとある作者のスペクタクル。

  • ・渡辺保「黙阿弥の明治維新」(岩 波現代文庫)は例の如き明快な論旨に貫かれた書である。ただ、黙阿弥といつたところで、私は現 在も上演されてゐる作品しか知らないわけで、全集でも読んでゐればともかく、さういふ基本的な知識を持たない人間は、渡辺氏の主張をほと んどそのまま受け取るしかない。もちろん、それはそれで良いのである。この明快な論旨の展開を楽しめば良いのである。
    ・本書は昔の芝居にならつて、発端、一番目、中幕、二番目、大切といふ構成になつてゐる。二番目が長めであるが、ここは明治改元後ゆゑに いたしかたのないところである。最後の大切は「近代とはなにか--永井荷風『紅茶の後』」と題されてゐる。黙阿弥と荷風の比較を通して日 本の近代を考へるとでもいふ内容である。他とは少々趣が違ふが、いや、それも大切所作事と考へればかういふことで良いのであらうし、それ ゆゑにこそおもしろい。黙阿弥と荷風の関係、といふより、荷風の黙阿弥理解、これがポイントである。それを一言で言へば、「荷風は黙阿弥 の部分を認め、全体を認めようとはしなかった。つまり黙阿弥の生きた苦闘の全体を認めなかったのである。」(347頁)より端的に言へ ば、「荷風が愛したのは極端にいえば江戸の黙阿弥であって明治の黙阿弥ではなかった。」(348頁)といふことである。所謂江戸趣味であ らう。しかしそれに止まらない。「この視点こそ(中略)その後に進展した近代の思想であり、そして、現在の私たちまで規制している視点な のである。」(同前)問題は、これが「黙阿弥の不幸であった」(同前)といふことである。「荷風の視点によって、というよりも日本の近代 化の過程で、私たちが見失ったものは(中略)黙阿弥の作品の中に隠されているドラマの骨格であり、その骨格をかたちづくる言葉、なかんず くその力であった。」(366頁)現状では、黙阿弥は正当に理解されてゐないといふことである。その一例として、有名な「直侍」のそば屋 の間取りの変更がある。現在の舞台はかなり以前からのものであるが、黙阿弥の意図、指示とは違ふものだといふのである。黙阿弥は「江戸市 井の蕎麦屋の『生活』を細密に再現しようとした」(292頁)から、現先では店を閉ぢた後の生活の場も確保されてゐた。ところが現在はそ んな痕跡もない。「歌舞伎が様式や抽象性に傾いて『生活』を失ったからである。」(294頁)誤解を恐れずに更に引用すれば、我々観客が 「ひたすら名せりふ、音楽的な快感にのみ酔いしれた結果である。」(365頁)江戸の市井の生活は問題にならず、更にはそこで展開するド ラマに関心はなく、「ひとえに名せりふにしか目がいかない」からである。(同前)これは「荷風が歌舞伎を美術、音楽という部分から見て、 そのドラマとしての全体を見なかったこと」(350頁)につながる。長々と引用してきたのは他でもない。私はさういふ観客だからである。 何しろ黙阿弥の元のドラマを知らない。そば屋はああいふものだと思つてゐる。まして花井お梅は新内か新派の「明治一代女」、つまりは川口 松太郎の作品かと思つてをり、黙阿弥が花井お梅を書いてゐたなどとは思ひもしなかつた。しかもそれは「黙阿弥が到達した戯曲の精密さから いえば」(322頁)ほとんど最高傑作であるらしい。それなのに上演されない。新派の陰に隠れたからである。黙阿弥のお梅は「『明治』と いう時代と真っ向から対峙する一人の女」(345頁)であるといふ。荷風の望まないドラマの登場人物であらう。本書ではかういふ地点に至 るまで、論旨明快に黙阿弥が語られる。舞台によらない新・黙阿弥体験と言つておかうか。

  • 永井荷風が黙阿弥を部分的にしか見ないことが近代的である。近代とは部分の分析であり、抽出である。黙阿弥は近世に追いやられ、古典演劇の集大成であると見なされる。著者は黙阿弥の歌舞伎を総合的に、全体として見ようと試みる。
    江戸と東京のハザマに生きた黙阿弥は、決して時代に乗り遅れたのではなく、時代を先読みしていたのである。

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