- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006022334
作品紹介・あらすじ
「手のひらを太陽に」の作詞者でもある戦中派の作者が、自身の風変わりなホップ・ステップ人生を語る。銀座モダンボーイの修業時代、焼け跡からの出発、長かった無名時代、そしてついに登場するアンパンマン-。手塚治虫、永六輔、いずみたく、宮城まり子ら多彩な人びととの交流を横糸に、味わい深い人生模様が織り上げられていく。
感想・レビュー・書評
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アンパンマンのやなせたかしの94歳の生涯を振り返る。奥手と言いながら何にでも挑戦。周りの人との出会いも大切に、そして多彩。中でもこの前読んだ、永六輔さんとの出会いがでてくるには、わたし自身のなかでの赤い糸を感じる。青島幸男、前田武彦、いずみ・たく、宮城まり子、そして吉行淳之介と私が物心ついたときに周りにいた人ばかり。
一つの転機になった詩の本「誌とメルヘン」1973年創刊、どんな本だったのか興味ありますな。近くの図書館で目にすることはできるんでしょうか・・一度調べてみます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
先日読んだ「ぼくは戦争は大きらい」は戦争中の事を書いていたが、この本はやなせさんの人生(戦争中の事は少なめ)を書いている。
やなせさんの人生とは実に面白い。ご本人は漫画家で漫画家として食べていきたいのに、何故か一風変わった人が集まってきて、やれミュージカルの舞台装置を担当してくれだの、やれ映画の評論を書いてくれだの、リサイタルの構成やら詩集の出版やら、とにかく色々な話しが舞い込んできて、それを全部引き受けちゃう。なんで本職でもないのにそんな話が来るのかな~と不思議に思っていたようだが、人を呼び寄せるのもやはり人柄なんじゃないかな。
飄々とした文章、たまに毒も吐き、でも全体的になんだか温かい。まさにアンパンマンもそんな感じ。「なんのために生まれて、なんのために生きるのか」人生も半ばが近づいた今更だけど、私もちょっと考えてみたくなった。 -
♫
なんのために生まれて
なにをして生きるのか
答えられないなんて
そんなのは嫌だ!
♫アンパンマンのマーチ♫
この歌を聴くたび、私は「みんなは答えられるんだろうか?作詞をしたやなせさんは答えられたんだろうか?」と思っていた。
本書には「これはアンパンマンのテーマソングであり、僕の人生のテーマソングでもある。」とある。
やなせさんがアンパンマンの最初の絵本を出版したのが53歳の時。テレビアニメが売れて、大ヒットとなったのは70歳を目前にしてからだという。それまでは、自分自身がどういう方向に進んでいるかもわからず、来た仕事はなんでも引き受けたという。
三越に入社しデザイナーとして働いた。現在でも使われている三越の包装紙。洋画家の猪熊弦一郎画伯がデザインした斬新なデザインにMitsukoshiの文字を書き入れたのはやなせさんの直筆だそうだ。
詩人として詩集を出したり、「手のひらを太陽に」の作詞をしたのもやなせさんだ。
なぜ自分に白羽の矢が立ったのかよくわからないという仕事がどんどん舞い込んできて、ことごとく成功させている。
困った時のやなせさんとも言われていたそうだが、でも本人は満足していない。漫画家として成功したいという思いが強く、”自分のやりたい事はこれじゃない”ということをはっきりわかっていたんだろうと思う。
そういう意味では、"何をして生きるのか"の答えを持っていたのだろう。
この本の構成は、やなせさんご自身の人生を、起承転結に分けて書いてある。”転”の章が54歳、”結”が70歳の時だ。無名時代が長かったと本人は言うが、それぞれのエピソードが短編小説のように続いている。
同い年の奥さんが75歳で亡くなり、すっかり気力がなくなってしまっているが、一方でアンパンマンが大ヒットし数々の賞を取っている。自身は65歳までしかライフプランを想定していなかったと言っているが、「作家は人生で作品を書くべきだ、というのがぼくの主張だ。だから自分自身の人生も、自分できちんと書かなくてはいけないと思う。」「今までに過去をふりかえってみたことはほとんどない。いつも、現在と未来だけを見ていた。」と常に前を見て前進している。この本自体が、76歳の時に執筆した本であり、奥さんと二人三脚で生きてきた人生を振り返り、今後は一人で生きていくという決意の表れだったのではないかと思う。
"初心忘るべからず"を地で行く人だ。無名時代のエピソードが晩年の布石に思えるのは、積み上げた経験値をフルに使って前進していたからだろう。
「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行えません」これがアンパンマンに託されたやなせさんの思いだ。アンパンマンは最初は大人向けの話だった。だが、大人よりもこどもにうけた。こどもにこどもだましは通用しないと本人は言う。だからやなせさんはそのままの思いをこどもにぶつけた。
これが、こども向けのアニメと思っていたら、思わず主題歌にドキッとさせられる所以だ。
アンパンマンを描くために生まれて
アンパンマンにたどり着くためにこれじゃないこれじゃないと色々な事をして生きてきた
そう答えられるようになった時に『アンパンマンの遺書』を書いたのではないだろうか。
さて、私は何のために生まれて、何をして生きるのだろう?よくわからない。やなせさんも自分と同じ年頃はよくわからなかったそうだから、まぁいいか。
現在にもがいていれば未来に道が開けるんですよね?やなせさん。
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「正義とはお腹を空かせている人がいたら一斤のパンを差し出すこと」
という、やなせさんの正義観は、とてもストンと腑に落ちました。 -
この本を読んだ後、アンパンマンマーチをじっくり聴きました。
やなせたかしさんの思う正義、献身と愛。
アンパンマンを通してこれからの子どもたちにも伝わっていって欲しいと思いました。 -
やなせさんの人生記録。晩年になるまでヒット作に恵まれず、それでも色々な事をやられていてビックリします。詩人らしくリズムがいい文章です。
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大好きなやなせたかし先生の、遺書というより自伝に近い本。
三越の包装紙のデザインに関わった事や、
え!あの仕事にも関わってたの?!みたいなエピソード、名だたる著名人との交流が綴られている。
一貫して先生のスタンスは「どうして僕なんかにこんな大きな仕事の声がかかるんだろう」ですが、先生だからですよ。先生。
たまたま入った古本屋で手にしたサンリオ(山梨シルクセンター!)の幸福の詩集に出会えたから、私は今こうして生きています。死と限りなく近かった私を呼び戻して温かく包んでくれた、優しい詩集をありがとうございました。
来年の朝ドラ「あんぱん」が心から楽しみです。 -
まさに激動。
青春時代に戦争を生き延びて、一般企業の広報をやっていたことには驚いた。
サンリオの前の会社や手塚治虫などが出てきて昭和をタイムスリップしているような感覚になった。
アンパンマンのアニメが放送されたのが69歳。そこから90代まで仕事をし続けてアンパンマンを広めていくなんて、人生100年時代そのものだなと。
アンパンマンに込められた正義感や奥様への思いの文量の多さからやなせさんの人の良さが滲み出ていて好きにならざるを得ない。