- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006022525
作品紹介・あらすじ
晩秋の武蔵野、明子は、烏瓜の実がたわわに垂れる家で、女子大時代の先輩蕗子と運命の再会をした。ゆたかな才能をもてあますように奔放に生きる蕗子と、くもりのない批評意識をもって日々を真摯に生きる明子。二・二六事件前後の激動の時代に、深い愛に結ばれ自立をめざして青春を生きた二人の魂の交流を描く。第四十六回読売文学賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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昨夏図書館で借りて読んだ本で、単行本品切れを惜しんでいたら、うれしい文庫化。単行本の装丁や手触りが気に入っていたので、それが再現されなかったのが残念だけれど、評伝『ひみつの王国』を読むかたわらに置くためにはハンディな形で手元にきてありがたい。
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くまのプーさん、ピーターラビットなどの海外児童文学の翻訳で知られ、自身も多くの創作を著した児童文学者の、自伝的要素が色濃い長編小説。
時は2.26事件前夜。散歩の途中で庭にそびえる見事なカラスウリの木を見つけた明子は、その家の住人の蕗子が大学の先輩だとわかり、急速に親しくなる。肺病に侵されている蕗子は、明子とともに生き急ぐように日々を暮していくが、やがて死の床につく。
本書は、101歳で亡くなられた著者が87歳の時に上梓した作品だ。にもかかわらず、ディテールは鮮明であり、テーマの暗さとは裏腹に文体は生気に満ち溢れて、はるか以前に去った友へのどこまでも肯定的な郷愁が全編を包みこんでいる。著者の忘れ得ぬ悲しみが、打ち寄せる波のごとくに読む者の胸を打つ佳品。 -
めっちゃ好き〜少女小説読みたくなったからクララ白書を読み返そう
技巧を凝らしてるわけでもなく素直なのに遊び心のある言葉選びが素敵すぎる
育ちの良い野生児って感じ
なんだか素敵な服を集めたくなった
身長はこんなにないけどロングのダッフルを買おう… -
『クマのプーさん』や『ノンちゃん雲に乗る』の児童文学で有名な石井桃子さんの自伝的小説。
1930年代が舞台で今とは全然違う時代の若い女性2人の交流が描かれるのだけど、文章がとても薫り高く、自分の曾祖母の日記を読ませていただいているような甘酸っぱい気持ちになりました。
当時の汽車や街の様子も自分は知らないのに、頭のなかに各場面の情景や香りを感じられるような気持ちになれる本。
ノスタルジーが心にしみる秋にかつて自分も少女から大人へと成長していった女性たちが読むのにふさわしい穏やかで温かいお話でした。 -
時代が現代からするとかなり遡るだけに、会話の語調に慣れるのにしばらくかかるものの、その世界に入ってしまえば、あたかも朝ドラを見るかのようにその時代にタイムスリップ。
主人公明子が、石井桃子さんご自身をモデルにしているんだろうと想像しながら読んでいたので、実は破談になるのかと思っていたら、とてもしっくりした結婚生活が始まって、ちょっと意表を突かれました。でも、上品な、機知に富んだ会話は心地よく、思いもかけない比喩に巡りあうこともあり、下巻に行くのが楽しみです。 -
上巻だけで500P強、肝を据えての長期戦を覚悟したのですが無用の心配でございました。石井桃子さんの歯切れよい文章、主人公明子と蕗子の跳ねて飛び交う会話の掛け合いが楽しくずんずん読み進められます。二・二六事件前後の激動の時代、不穏な気配を打ち払うかのように手作りの料理やお洒落に工夫を凝らし、大らかな自然を慈しみ、自分らしさを失わずに日々の生活を営みます。そんないきいきした二人に心情が寄り添うほど、下巻に入るのを怖く感じます。当時は不治の病といわれた蕗子の病気、二人の友情の行く末が心配でなりません。
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久々に至福の読書の時間だった。主人公のひたむきさと、女友だちとの愛情に近い友情関係。自分らしさを失わずに生きていくためには、心からわかりあえる相手と、言葉を紡ぎあいつづける時間が必要なのだとつくづく納得した。二人の手紙のやりとりは、戦前なのだが、速達便や電報までつかって現在のメールのようにスピード感に溢れている。(宮地尚子)
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石井さんが書かれる友人との交流話が好きです。
この作品を読むと私が石井さんに惹かれる理由が分かります。
石井さんは翻訳のお仕事もしていて、それもとても分かりやすいです。
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
ぽんぽんと言い合う明子と蕗子がいい。
手紙は口語体で何だかその時代に迷い込むかのような気持ちになる。
石井桃子さんが若いときはこんな時代だったのかしら、と思いながら。
頑固な慣習がありつつ、人情がいい味を出している。 -
いい感触を得た。
素敵な人間関係をやさしく、素直な言葉で、短く表現していて、あっぱれさを感じる。
下巻を読むのが楽しみ。