幻の朱い実 下 石井桃子コレクション II (岩波現代文庫 文芸253)

  • 岩波書店 (2015年2月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784006022532

感想・レビュー・書評

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  • 押しが強い蕗子さんと主人公との交流を描いた第一部は房総での風景なども含めて良かったけれど、主人公が結婚し蕗子さんが肺病で入院してからの二部は新生活が始まった友人に毎日のように速達の手紙を書いて自分が欲しいモノを持って見舞いに来るよう催促する蕗子さんが重かったし、主人公が70台になってからの第三部は蕗子さんの堕胎経験を必死になって突き止めようとする主人公の気持ちがやはり重かった。

    篤い友情とこの重さは時代的なものかもしれないけれど、ここまでくると読者としてノスタルジーを追体験できなくなり、長々と読んできたのにいきなり仲間外れにされたような気持ちになりました。
    若い頃に同性と短くも濃い~友情があり、間もなく自分も死を考えるような世代の方には最後まで楽しめるお話なのかもしれません。

  •  この本を読んでいたのは一年前なのだが、今になっても響いてくることがある。図書館に返却してしまったのでうろ覚えだが、解説か何かで、石井桃子さんご自身が「明子は家庭を取ったことにより蕗子を捨てたのだと思っていただいても構わない」と仰っていた、と読んだ。これは、人生の出会いと別れを振り返って初めて言える、とても深い言葉ではないだろうか。
     明子は最期まで蕗子との関係を断つことはないものの、いつでも好きなときに駆けつけるわけには到底いかなくなる。家庭をもつという選択をすること自体が、「家族」を優先する生き方を選択するということである。できるだけ全方位を大事にしようと努めることもできるかもしれないが、自立した一人の人であるならば、大事にしたい全ての人にくっついて生きるわけにはいかない。生きる道は皆いつか離れていくのであり、それでも自分の道を歩もうとすることは、明子のように、日常に紛れて意図せずとも実は取捨選択しているということをはらむ。
     家庭は一つの例でしかないと思うが、これに限らず人間には、どうしても仕方のないことがある。生きるとはそういうこと。晩年の石井桃子さんが、自身の来し方やご友人へのどんな思いとともにこの小説を書かれたのかを想像すると、とても静謐な気持ちになった。

  • 下巻。
    第2部までは戦前を舞台にしていたが、第3部は戦後暫く経ってからを舞台にしている。よって主人公の明子はすっかり老婦人になり、夫も既に亡くしている。
    この第3部では、第2部の終わりに結核で亡くなった友人、蕗子の過去にあったある出来事が、登場人物にとっては重要な意味を持っている。明子が古い手紙を必死に調べる姿を見ていると、蕗子に対する感情も愛憎半ばしたところがあったのかもしれないなぁ、と、ふと思う。
    決して明るいストーリーではない。まだ戦争は始まってはいないが、何となくきな臭い時代が作中の大半を占め、戦後の第3部でもどうしようもない別れはやってくる。ラストシーンで見られる烏瓜は、あの日、蕗子の家で見たものとはまるで違っている。タイトルにもなっているが、『幻の朱い実』とは、『もういなくなってしまった人』であり、『過ぎ去った時代』でもあるのではないか?
    それでも、作品の雰囲気が非常に明るいのは、矢張り闊達な文体で描かれる、女性同士の友情がとても華やかで楽しそうに見えるからだろう。
    ところで、この作品、児童文学作家が書いたせいでもないだろうが、何となくこの小説は『少女小説』なのでは? ……という気がしている。
    幻想の中の少女性、現実を忘れる一時の夢としての少女小説を書いたのが吉屋信子だとすれば、本作はビルドゥングスロマン、教養小説としての少女小説ではないか、というようなことを読んで思った。

  • 社会に出て間もない女性がひょんなことから同世代の同性と知り合い親友になる。自分の結婚や親族の介護などを経ながらも親友とはお互いに欠けがいのない存在になる程親交を深めるが、病弱な親友は若くして亡くなってしまう。その親友が、自分には見せなかった面でどんな生き様でどんな思いを抱いていたのかということを、数十年後、年老いてから当時の手紙などをひっくり返しながら振り返り回想するという、石井桃子さんの自伝的小説。

    私の妻にとってはそういう親友は誰だろうか、とか、私の大学時代の仲間内にもそういう親友同士の女性たちならではの絆があるだろうなとか、いろいろ思い起こされて、胸が熱くなる小説だった。

    親友だとしても、親友だからこそ、見せない一面がある。
    それでも相手の存在は必須だし、相手を思う気持ちは誰よりも強い。そんな関係って大切だよなと思う。
    自分にとってそんな存在は誰だろう、いるだろうか、いたとして、自分は相手の見えない一面まで理解に努めた経験があるだろうか、とも思った。

    児童文学に興味を持って、それに多大な貢献をした石井桃子さんてどんな人だろうか、という動機で読んでみた。
    当然といえば当然だけど、児童文学で知られた方にも大人の人生がある、でもその反面、いつまでも若い頃の思いを大事にされている素敵な方なんだなと思った。

    プーさんの翻訳は病床の親友を楽しませるために行なっていたと知って、改めて読んでみようと思った。

  • 昭和初期、戦前戦後の時代を生きた人のその時の感覚が伝わるような、それでいて読み易い物語が読みたいなぁと探して、一か八かで上下巻買ってみたら、ドンピシャで好みに合うお話でした。
    石井桃子さんの筆致好きだ、もっと読みたい!と思ったら小説はこれだけなのね。70〜80代で書かれた作品なんて…まだまだその年でも習熟していくことがあるのね、と驚いた。40代の自分はもうこれから先はいろんな意味で下り坂だろうと思いがちだったけど、本人次第だわ。
    好き合って結婚したとしても、嫁いだが故の不自由さ、憤りを明子が感じるあたりが本当にリアル。萩尾望都の『10月の少女たち』という短編に通じるものも。どこか、こうなるとわかっていても大人になるために受け入れざるを得ないことのように、結婚という選択肢を選ぶ。明子の場合は、蕗子以外の居場所をつくらなければ、ということがきっと心のどこかにあった。もちろん新たな人間関係で得られる部分もあるんだけど。現代を生きる多くの人にも十分共感できる部分だと思う。

    『何者かが、ただひと言、あの世へのみやげに持たしてやるといったら、「愛している」という、日本語としてはなじめない言葉をいうしかないと思っていた』

    蕗子と明子はもう本当に理屈ではない、唯一無二の関係なのね。こんな人と巡り会えて羨ましいとしか思えない。
    上の台詞を明子は蕗子に言えなかった。そして、命が入れ替わるように子を授かった。

    明子と蕗子の掛け合いの様子を実写で見てみたいなぁ…。俳優さんは、最近の若い人はよく知らないから、蕗子には20代くらいの仲間由紀恵さんがなんとなく頭に浮かぶ。明子は誰だろう…第三部の頃だったら、最近の倍賞千恵子さんかな。

  • 1人の人生を体験した気分。
    途中泣いた。

  • 正直、小説としての構成の巧みさは感じないのだけど、それが逆にどうしても書き残しておきたいことを書いた
    という感じもして、なんだかとにかく作者と主人公の想いに打たれた小説だった。恋よりも純粋な強い想い。
    それに結婚って、親族って、面倒だねという気持ちもばしばし刺さってくる。

  • 1ヶ月かかって読み終わった!
    新たなる明子の課題が出てくるのが本当に明子らしくて笑った
    最高に濃密な読書時間だったなあ
    二度とこんな作品には出会えないだろうな
    たまらなかった
    本当は一番好きなのは明子と蕗子が出会った頃
    自分の中に眠る少女性を呼び起こされた気持ちになったし、少女性って何歳になっても持ち続ける感性なんだろうなと思った
    ない女学校の記憶が蘇る
    川上弘美さんの解説?も小説のおまけなんかではなく独立したとっても素敵な文章だった

  • 解説(川上弘美)によると、この小説は石井桃子79歳の時に書き始め87歳で上梓したとある。当然の帰結として、下巻は近しい人たちの病と死が重なり、老いゆくことの憂いや葛藤の描写が重々しくこれはちょっと身に堪えた。若くして死んだ親友蕗子との思い出を揺るがす種明かしも私には興醒めする内容であった。もっとも主人公の明子は家庭の切り盛りと仕事に精を出し、激動の時代を生きた女性の一生としての読み応えは素晴らしい。(あのクマの物語が翻訳された過程は多分実話なのだろう)故に我儘で自由奔放で一途な蕗子の孤独が遣る瀬無く心に残る。

  • 第3部に数十年後の明子たちが描かれている。

    明子と蕗子、またそのほかの人たちとも、手紙のやり取りがすごい。今のメールのように頻繁に行き交う。
    そしてインターネットなんてものがない時代、人と人との関わりが今よりももっと大事なものだったのだと教えてくれる。

    石井桃子さんが若い時の日本はこんな風だったのだろうか。

  • 三部はいきなり数十年後。
    必要なのかな・・と思いつつ読み進める。
    明子がもしかすると著者なのかな…とふと思った。

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著者プロフィール

1907年埼玉県生まれ。1951年に『ノンちゃん雲に乗る』で文部大臣賞受賞。1953年児童文学に貢献したことにより菊池寛賞受賞。童話に『三月ひなのつき』『山のトムさん』、絵本に『くいしんぼうのはなこさん』『ありこのおつかい』(以上福音館書店)、翻訳に『クマのプーさん』『たのしい川べ』『ちいさいおうち』(以上岩波書店)、『うさこちゃん』シリーズ、『ピーターラビット』シリーズ(以上福音館書店)など多数。

「2022年 『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー KATY AND THE BIG SNOW』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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