- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006022747
作品紹介・あらすじ
歪んだ裁判官人事行政のツケで、首相私邸への偽電話事件、女性被告人との情交、当事者からの収賄といった不祥事が噴出する。津崎守は、最高裁調査官、東京地裁の裁判長と順調に出世の階段を上がるが、突然、「招かれざる被告人」が姿を現す。やがて能登の日本海原発二号機訴訟が金沢地裁で結審し、村木健吾裁判長が「世紀の判決」を言い渡す-。
感想・レビュー・書評
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物語は徐々に現代へと近づいていく(自分の記憶とも符合することが多くなっていく)。そして、司法制度改革の流れを受けて裁判所組織に健全化の兆しが見える一方、原発訴訟で原告が主張し続けた原発リスクが東日本大震災の福島第一原発メルトダウンによって顕在化しところで終了。ラスト近く、黒沢葉子のゲスな謀略を蹴散らして津崎が最高裁長官に無事就任するくだりではスカッとした。
解説によれば、本小説の「実名部分はすべて、仮名部分も相当部分は事実に基づいているといわれ」ているのだそうだ。登場人物のモデルは、
弓削晃太郎:矢口洪一
村木健吾:竹中省吾
津崎守:特定のモデルはおらず「知り合いから色んな要素を入れて作りこみ」(by著者)だそうだ
あと政治家では、
権藤周介:後藤田正晴
桐谷誠司:前原誠司
くらいかな。
「日本海原発二号機訴訟」第一審でのやり取り(「日本海原発の近くにある邑知潟断層帯は、複数の活断層が接近して存在しており、これらが同時に動くとマグニチュード七・六程度の地震が起きる可能性がある」)が先日の能登半島地震を予言しているかのようでびっくり。震源は微妙に違うようだがマグニチュードはピッタリだ。
政治や行政と距離を置くことによって、司法に公正な判断が期待できるようになり、また人事が透明化して人格的・実務的に優れた裁判官が評価され処遇されるようになってきているのだとしたら、素晴らしいことだが、実際のところどうなんだろう。また、自分のステップアップを第一に考え、過酷な労働を嫌う昨今の若者気質は司法をどう変えていくのだろうか? こっちもちょっと心配。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文庫本上下巻合わせて、986頁の大部を読み終えた。
青法協問題で揺れる1970年代から、原発訴訟の裁判を経て、東日本大震災までの日本の司法を綴った法曹歴史小説と言ってもいいか。
著者の緻密な取材による司法の内幕の叙述に、いやがおうにも興味を掻き立てられた。
とりわけ、自らの信念で裁判官人生を貫いた村木健吾の生き方は、清涼感をもたらしてくれる。
フィクションの人物に、実在の人物が交わり、架空の名前に実在の誰を想定するか、考えながら読むのも一興。
戦後の司法の危機と言われた激動の時代の裁判官像を描いたこの小説は、法曹関係者ばかりでなく、裁判員制度がある現代、一般の人々も是非読んでおくべき作品ではないか。 -
取ってつけたように世相に関する記載が挟まれていて、年表を読んでいるような気分にさせられたのはやや興ざめしたが、それ以外は力の入った記述で、個人的な興味もあり一気に読了した。
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再読。読了後に参考文献一覧を見たら、検察講義案などの白表紙や過去の修習生団体が出した本など入手しづらいものまで挙がっていた。著者の本作にかける熱情の強さが表れているように思う。
下巻は、群像劇の趣が強くなった。退官後も権勢を維持する弓削、弓削の子飼でありながらエリートの矜持をつらぬく津崎、誠実な裁判官としての信念を貫く村木、欲望のままに突き進む黒澤、などなど。
著者は出世を目論む女性裁判官の黒澤に悪役を押し付けているが、少々不当だと思う。黒澤には信念がないような描き方をしており、弓削のように悪役でも新年のある男性とは明らかに描かれ方が違う。著者のジェンダー感が古いのではないか。不健康な色気を振りまく黒澤に対し、正義漢である村木の妻は何度も何度も「健康的」と描写される。悪女と賢妻という対比は、フェミニズムでいう主婦・娼婦モデルの引き写しとなっており、男性が女性を分断する際の枠組みである。強い違和感を持った。
あと原発の話がむずかしくてよくわからなかった。それは仕方ない。
楽しい読書だった。 -
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裁判長交代
天を恐れよ
最高裁調査官
招かれざる被告人
平成の風
鳴り止まぬ拍手
エピローグ
著者:黒木亮(1957-、北海道秩父別町、小説家)
解説:梶村太市(法学) -
めちゃくちゃ面白かった。
戦後の裁判所及び判例の積み重ねの背景にはこんなことがあったのかと大変興味深く読みました。
私は弁護士をしているので有名判例が書かれた文脈や裁判官という仕事について興味深く読みましたが、法曹関係者以外には専門的すぎたり、そもそも興味持てない部分が多いのではないかと心配になりました。
すごい取材力と骨太のストーリー、2011年7月からという連載開始のタイミング、産経新聞にて連載というところもすごい。 -
上巻に同じ。
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相変わらず見事な一冊。金融畑出身の著者が、取材の賜物もあろうけど、裁判所の中をここまでリアルに書けるのか。
著者のエッセイで、日本の裁判所には酷い目にあったので小説にしてやろうと思った、的な記述があったのですが、それをここまで純度の高いストーリーに仕立て上げられるのだから凄いものです。
下巻は昭和51年から平成23年まで、上巻よりも少し早いペースで進んでいきます。テンポが良く、かなり熱中して読み進められました。
原発問題や住基ネット訴訟、ブルー・パージ等の現実の出来事を軸にしながらも、舞台裏のドロドロした話として出世を狙う人たちの人事のゴタゴタなんかが出てきます。
なお、解説は完全なネタバレなので本編読了後に読むのが吉です。 -
経済小説家が法曹の世界を書く。法曹界の人には申し訳ないのだが、司法試験をパスしたあとのキャリアのことを全く理解していなかったことに気づいた。
裁判官、弁護士、検察官とたがいのキャリアは全く異なる。本書では二人の裁判官を主人公にし、それぞれのキャリアに切り込む。組織のやっかみや政治の影響などのなか一見異なる裁判官キャリアを積んでいく二人。が、任官後数十年経ったところでまた交錯するのが爽快。
新聞で何気なく書かれてある諸々の判決は、無味乾燥なものではなく裁判官達の熟考につぐ熟考の末にたどり着いた結晶に見えてくる。