美は乱調にあり 伊藤野枝と大杉栄 (岩波現代文庫 文芸284)

  • 岩波書店 (2017年1月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (360ページ) / ISBN・EAN: 9784006022846

みんなの感想まとめ

女性の解放や社会変革を訴えた文筆家、伊藤野枝の波乱に満ちた生涯を描いた評伝小説は、彼女の情熱と人間関係の複雑さを浮き彫りにします。主人公は、恋愛やスキャンダルに翻弄されながらも、時代を生き抜く力強さを...

感想・レビュー・書評

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  • 伊藤野枝。わずか28年の生涯のうちに、内縁含め3度の結婚、7回の出産を経験し、夫であるアナーキスト大杉栄と共に甘粕正彦に惨殺された女性。

    沢木耕太郎セッションズで本書に触れられており、興味を覚えて手にした。いわゆる甘粕事件は、歴史の教科書に記載があるものの、ほんの1〜2行であり、まして伊藤野枝に関する記載はほぼない。このため、ほとんど予備知識がない状態で読み始めた。伊藤野枝が、平塚らいてうの雑誌『青鞜』で活躍した「新しい女」の一人であったこと、その『青鞜』をらいてうから引き継ぎ、立ち行かなくなって休刊させたことなど、初めて知ることばかりだった。

    その恋愛遍歴も凄まじい。初めの結婚は1週間で破棄し、英語教師をしていた辻潤の元に転がり込む。妻となり辻との間に2人の子どもをもうけるも、大杉に惹かれて辻とも離縁。大杉と所帯を持つ。ちなみに大杉はこの時既婚で、愛人もいた。ごめんなさい。とてもじゃないが好きになれない。ただ、恐ろしく活動的で、ぶっ飛んだ方だったことはわかる。圧倒され、1日で読了してしまった。

    本書は冒頭、瀬戸内さんの回想から始まる。そしてその後は目次も章分けもされないまま、延々と野枝の半生が描かれ、日蔭茶屋事件で大杉が、四角関係に苦しんだ愛人の神近市子に刺されるところで唐突に終わる。そう、これはまだ物語の半分でしかなく、続編の『諧調は偽りなり』への助走なのだ。

    なおこれは御歳98歳の瀬戸内さんが40代、まだ俗世にいて晴美と名乗っていた頃の作品である。つまり半世紀も前の作品(寂聴さん凄い!)であり、その後、新たな事実も見つかっている。たとえば辻の不倫相手については寂聴さんの創作との反証が親族から挙がっている。
    本書を読むと、当時の女性活動家のサロンの雰囲気が伝わってきて、「おお、この人とこの人が」と意外なつながりに驚かされる。そして、今も当時と同じ主張が女性からなされていることに気づかされる。歴史的事実と創作部分を明確にしたいなら、本書からさらに専門書にあたると世界が広がるように感じる。

  • 先日NHKの「風よあらしよ」を見て原作も読んでいたので、そのダイジェスト版の様な作りにガッカリした、そこで元祖野枝の物語とでも言うべき本書を読まざるを得ない。村山由佳の作は野枝主観の作品であったが、本作は野枝の周辺から描いた野枝の風景とも言うべき作品でノンフィクション風でもあった、それと辻潤が意外といい男に描かれており驚いた。しかし本書では神近市子の刃傷沙汰で終わっており、野枝と大杉栄の最後は描かれていない「諧調は偽りなり」を読めと言う事らしい、しかし甘粕大尉の話は気分が悪くなるので嫌なのだが。

  • 無政府社会主義者の妻として関東大震災直後に28歳の若さで惨殺された伊藤野枝と、彼女をめぐる人々を描いた評伝小説。

    高尚さや爽やかさは欠片もなく、通俗の極みという感じ。主人公の伊藤野枝も、それを描く瀬戸内寂聴の筆も。そしてだからこそ面白い。面白いのだが、感動からは遠い。

    伊藤野枝という人は平塚らいてうから雑誌「青鞜」を引き継ぎ女性の解放や社会の変革を訴えた文筆家だが、後世に残るような作品は一つもないどころか、当時ですら世評の高い代表作と言えるものもない。何ら社会を変革した成果もない。学校の恩師だった辻潤と無政府主義者・大杉栄との恋愛に生き、そのスキャンダルを(「青鞜」の関係者としては珍しいことではなかったようだが)なぜか自ら雑誌に公表し、ちょっとした有名人になった、今で言うとワイドショーやSNS頼みのタレントのような感じ。
    しかしその生命力と情熱は凄まじく、その悲劇的な最後と相俟って、小説のヒロインにと小説家が惹かれるのはわかる気がする。

    が、結局最後の幕切れは大杉のもう一人の愛人・神近市子の心理と凶行で終わっていて、構成や焦点がぼやけている感じ。短い生涯に7人もの子供を産んだ母親としての野枝が、大杉との不倫に溺れて二人目の子を里子に出した冷たさも含めて、深堀りされていないのも物足りない感じ。

    面白いけど残らない、残らないけど面白い。そんな感じの一冊だった。

    奇しくも今日経新聞に連載中の赤松良子の「私の履歴書」に、女性の地位向上に貢献した女性に戦後、政府が感謝状を贈ることになり、労働省官僚としてその選定や贈呈式の設営に奔走した話が出てきて、中でも感慨深かった授賞者が平塚らいてうだったとあった。けど、戦後日本の女性の地位向上はGHQの占領政策によるところが大きく、他の授賞者は知らないが、平塚らいてうの貢献ってあったのかなあ…とよくはわからないながらも疑問。



  • 今は僧侶の瀬戸内晴美さん、作家全盛期の作品。
    そこらへんの女性週刊誌も真っ青の、明治大正文人乱脈記。面白いぞー!

    日本の女性思想史に燦然と輝く「青鞜」をめぐる男女の交友恋愛が、生々しくて面白い。カッコいい話の裏には恋愛、生活、お金とモメモメ。

    特に伊藤野枝には圧倒される。垢抜けない田舎娘と語られながら、なんだろうこの勢い。時代に発情した娘ということしか言えない。バンバン男を変えては子供を産んで、めちゃくちゃ過ぎて、関わった人間は交通事故にあったようなもの。

    大杉栄はどうしてこんなにモテるんだろう。危険思想は男を輝かせるのか。ぜひ実物に会ってみたい。

    平塚らいてふや神近市子はじっくり伝記を読んでみたい。

    お騒がせ娘伊藤野枝と辻潤の家のすぐそばに野上弥生子夫妻が住んでいて夕飯をご馳走したりしていたというのも面白い。

    この時代の交流人脈は面白いな。

  • 同じ伊藤野枝について書いた「村に火をつけ、白痴になれ」とこの作品の大きな違いは、前作が徹底的に野枝がかっこいい、ぶっ飛んだ女であるの対し、こちらは荒削りで知識欲旺盛ではあるが、恋愛にめっぽう弱く、しかも自身はそれに全く気づいておらず、自分は一端の新しい女だと思っているというかなり酷な書かれ方だ。
    大杉に対しても、かなり辛辣だが、一方で辻に対してはそう悪くない書き方をしている。

    むしろこの作品を読むと、平塚らいてうと青鞜についてもっと識りたくなる。

    瀬戸内寂聴さんの本を読んだのは初めてだが、これをきっっかけにあれこれ読んでみたくなった。
    同性だからこそ、なんだかんだと恋愛の前では腰砕けな伊藤野枝を読み取り、ここまで描けるのだろうなと思う。

    どちらの作品も面白さは抜群だった。やっぱり伊藤野枝という素材とその周辺の人々が面白いというがあるのだろう。

  • 読書が趣味になった10代に読んでずーっと心に残ってる小説。伊藤野枝を主人公にした小説は他にもあるけど、この本が私の中では1番。明治から大正時代にかけて女性解放運動や無政府主義で活動した女性。とにかく自分を押さえ込むことは一切ない。それは恋愛に対しても。自分から願い出て引き受けた「青鞜」の運営もいい加減、離婚時に連れて出た息子.流二の養育を放棄する彼女を全く好きになれない。それにしても夫となった2人男性を虜にした魅力はなんだろう?それが知りたいのでこの本の続篇「快調は偽りなり」を読むつもり。

  • 『村に火をつけ、白痴になれ』の読書会@1003で知って、野枝に肩入れしすぎな栗原さんとは違う視点での野枝も読みたくて買った。3冊セットのボリュームにしばらく置いてたけど、読み始めたらするする読める!寂聴氏の著作を初めて読んだが、文章うめぇ〜。 1965年〜の連載なので、妹・子供を始め、生きていた野枝を知っている人への取材もしている。
    幼少期から、女学校時代、辻との結婚、青鞜加入、大杉との恋愛、青鞜のっとり、辻との離別、神近市子の大杉殺人未遂まで。こ、こいつらずっと恋愛してやがる〜〜!!!すぐ文章として発表しやがる〜〜!!辻と大杉の間で野枝が揺れるところで「自尊心」「虚栄心」という言葉が何度も出てきたのが印象的。辻が価値ある男と世間に認めさせなければ自尊心が許さない、不貞な女・節操のない女と思われるのは自尊心と虚栄心が許さない。野枝の幼さに容赦ない箇所も多々あるけど、よくよく考えたらこの人まだ20歳とかやったわ……パワフルさに年齢を忘れる……

  • 当時の価値観からはみ出した斬新な生き方を行動で示した伊藤野枝。しかし、瀬戸内寂聴さんの描く野枝に親近感を覚えるのは、これまでに読んだ野枝関係の本に比べて、野枝が美化されていないからだろうか。

    野枝の自己中な生き方、恋愛相手に対する露骨な媚態の描写から、野枝嫌いになるかもしれないが、そういう描写があるからこそ、親近感が生じてくる。

    大杉栄の「フリーラブ」は、たぶん多くの読者は共感できないのではないだろうか。そういう意味では大杉栄も特別な人間として持ち上げられていない。(政治的思想と出版活動には一目置くとして)ただ、大きな瞳と優しさをもつ大杉に、性的魅力を感じる女性は多かったのだろう。

    平塚らいてうと奥村博史の恋愛も、どこか現代のわれわれにも通じるところがあり、らいてうが「ふつうの女」に見えてしまう。我々と同じように恋に走ってしまうような人が、歴史に名を残すような行動を取るというところが興味深いのだが。

    奥村博史の魅力や生い立も詳しく、この点は新鮮だった。

    こうして読後感を言葉にすると、「みんな、そこらへんにいそうな人たち」というこになってしまうが、つまり瀬戸内寂聴さんは、人間の普遍的な側面(とくに恋愛をしたときに、人はどうなるのか)を描くのが徹底的に上手いのだと思う。

    本書の続編『諧調は偽りなり』上巻を読み始めましたが、これがまた面白いです!!!

  • 伊藤野枝の前半生(28才で夭逝するのでそもそも短いのですが)、辻潤との結婚生活から日陰茶屋事件までを一気に描いています。
    再婚した大杉と、憲兵に捕まり虐殺された経緯から、バリバリの社会活動家、というイメージが着くかもしれませんが、瀬戸内さんの丁寧な描写と確かな調査で、そのような印象は受けなかった。

  • 瀬戸内寂聴は「夏の終り」しか読んでいなかったので、もう一冊読んでみようと手にとってみた。
    平塚らいてうの「青鞜」を引き継いだ伊藤野枝という女性を中心に、その周辺にいる夫の辻潤と大杉栄、らいてうらを描いた伝記小説。
    先進的で活動的な女性だったのだろうが、結局のところ痴話喧嘩や恋文のやりとりを雑誌に載せたり、メディアがセンセーショナルに取り上げたりという下世話な話が多く、途中でどうでもよくなってしまった。
    226ページで挫折。もう読まなくていい。

  • 婚家からの出奔、師・辻潤との同棲生活、『青鞜』の挑戦、大杉栄との出会い、神近市子を交えた四角関係、そして日蔭茶屋事件―。その傍らには、平塚らいてうと「若い燕」奥村博史との恋もあった。まっすぐに愛し、闘い、生きた、新しい女たちの熱き人生。(e-honより)

  • この歳になって、この作家の小説を読むのは初めてなのでした。以前般若心経の解説本は読んだことがあったのですが、まそれとは全く違うお話でした。小説のストーリーよりも冒頭の紀行というか親族のインタビューをそのまま掲載しているような内容が、実にするどく迫って来るものがあって、いったいこの人はどんな人だったのかという気持ちを引き立ててくれていますね。で、終わり方がまた、えここまでなんですかひどいじゃあないですか、という終わり方。続きを読まなくてはいけない気持ちになります。でもすぐ読むかどうかはちょっと考えるなあ。だって疲れる。

  • 「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」(大杉栄)瀬戸内寂聴の代表作にして、伊藤野枝を世に知らしめた伝記小説の傑作が、続編『諧調は偽りなり』とともに文庫版で蘇る。婚家からの出奔、師・辻潤との同棲生活、『青鞜』の挑戦、大杉栄との出会い、神近市子を交えた四角関係、そして日蔭茶屋事件―。その傍らには、平塚らいてうと「若い燕」奥村博史との恋もあった。まっすぐに愛し、闘い、生きた、新しい女たちの熱き人生。

    ~~~~~~~~~~

    N○Kさんの番組で、伊藤野枝さんを見た。
    (悪女伝説だったっけな)

    悪女っていいよね...
    響きがね...

    聖女と呼ばれるよりは、むしろ悪女と呼ばれたい!

    ってそんなことはどうでも良いですが、
    明治~大正期の女性史ってすごーく激動で興味がつきません。

    最近は朝ドラなんかでもここらあたりの女性を取り上げることも多いですね。

    女性が目覚めた時期?
    意志を持って立ち上がり始めた時期?

    この時代の女性たちの闘いが、今の私達につながっていると思うと本当にありがたい...

    とは言え、そんな現代でもまだまだ女性蔑視もあり、
    男性と同等とはとても言えない状態ではありますが。

    ただ、個人的には完全に同等になる必要はないと思ってて...
    お互いの役割、それぞれの出来ること、を真摯にやっていけばよいのかな~と...

    って私のジェンダー論とかどうでも良くてね。
    伊藤野枝さんですよ。

    何と言うか、男性を翻弄し良くも悪くも利用したファム・ファタル...的な感じですが、
    残された写真を見ると必ずしも絶世の美女と言うわけではない。

    もちろん美女だけがファム・ファタルたりうるかと言えば
    そんなことはもちろんないんですが、なりやすいのかな、とは思ったり。

    こちらの本では伊藤野枝さんの前半生が描かれます。
    幼少期~結婚~辻潤との恋愛~離婚~大杉栄との出会い~辻潤との別れ...

    まだいまいち、辻潤や大杉栄について知らないのでw、
    このことがどれほどの意味があるのかは分かってないのですが。

    とにかく自分に生きた人、と言う印象を受けました。
    子供との関係や、「青鞜」に関する件など...

    神近市子さんのエピソード、大杉&野枝がクズ過ぎやしませんか...
    いやもう...ほんとこれ私でも刺すよ、たぶん...
    その前に見切りつけるか?
    でも心ってそれほど単純でもないし、つらいところ...

    このあと彼女は大杉栄との人生を過ごし、最後には彼と惨殺されるに至るのですが、
    まだ市子さん以外にその兆候は見えないのでこれからどのような後半生を過ごすのか。

    続編を楽しみに、できるだけ早く読もうと思います。

    そしてこれを機に、明治~大正期の社会派の活動、
    大杉栄やその周りのことも調べてみたいですねぇ。
    (たぶんやらないw)

  • こんな風に戦えるか?

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    「美はただ乱調にある.諧調は偽りである.」(大杉栄) 瀬戸内寂聴の代表作にして,伊藤野枝を世に知らしめた伝記小説の傑作が,文庫版で蘇る.婚家を出奔しての師・辻潤との生活,『青鞜』の挑戦,大杉栄との出会い,そして日蔭茶屋事件――.野枝,平塚らいてう,神近市子.恋に燃え,闘った,新しい女たちの人生.
    https://www.iwanami.co.jp/book/b279053.html

  • まず驚いたのは、冒頭に著者自身が福岡を訪れ野枝の娘や親族などゆかりの人々に会っている前章が収まっているのだが、近代史上の人物を実際に知る人々がまだ生きていたということ。
    ストーリー自体は史実に基づいているので、著者のストーリーテラーとしての力量とはまた別のところの面白さというべき。その面白さも下世話な感じ。野枝も栄もヒロイックに描かれることが最近では多い気がするけれど、読む限りではただただだらしくなく愛欲に耽っているだけという印象しかない。
    一応の終わり方が唐突。続編の『諧調は偽りなり』を読まないことには、読み終えたことにならない。

  • 2018年5月12日紹介されました!

  • 大杉栄氏は当時カリスマだったんだろうな。現代にはなかなか現れてくれないパーソナリティですね。

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著者プロフィール

1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終り』で女流文学賞、92年『花に問え』で谷崎純一郎賞、11年『風景』で泉鏡花賞を受賞。2006年、文化勲章を受章。2021年11月、逝去。

「2022年 『瀬戸内寂聴 初期自選エッセイ 美麗ケース入りセット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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