またの名をグレイス(上) (岩波現代文庫)

制作 : 佐藤 アヤ子 
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006023010

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  • 主人公の名はグレイス・マークス。実在した「女殺人犯」。1843年、カナダの田舎町で女中をしていたグレイス(当時16才)は、同僚の男性使用人ジェイムズ・マクダーモットと共謀して、雇用主である地主トマス・キニアと女中頭のナンシー・モンゴメリーを殺害して逃亡。逃走中は親友であったメアリー・ホイットマンの名を偽名として名乗っていた。逮捕後、ジェイムズのほうは絞首刑となるがグレイスは終身刑となる。

    15年後、懲治監に入れられているグレイスは模範囚として、日中は監長の自宅で働いたり監長夫人の趣味のサロンに出入りを許されているが、サイモン・ジョーダンという若い野心家の医師がグレイスの精神分析をするために訪れるようになる。物語はこのサイモンの調書的なものや手紙、グレイス自身の話、さらに多用されるエピグラフなどさまさまな断片で構成されている。

    グレイス自身は事件当時の記憶がなく、自分は無実であると主張しており、世論はグレイスを悪い男に唆され共犯者に仕立て上げられた被害者とみるむきと、処刑されたジェイムズが証言したようにグレイスのほうが稀代の悪女で、主人キニアのお気に入りであるナンシーに嫉妬するあまりジェイムズを誘惑して殺人を実行させたとする説に分かれ、たとえば監長夫人のような人物はセレブの慈善事業の一環としてグレイスを擁護、無罪を証明する活動をしたりしている。

    マスコミは現代と同じく面白可笑しく事件をスキャンダラスに取り上げるだけで嘘だらけ、これまでにグレイスの鑑定をした医師も、彼女を狂人であるとする者もいれば、あれは巧妙な演技だと主張する者もいて、誰もグレイスの「正体」を見抜けない。北アイルランドからの貧しい移民で苦労人のグレイスは淡々としており、何もかも諦観しているように見える。果たして真実は・・・?

    上巻の時点ではまだなんとも五里霧中。ただ大勢の弟妹の世話をしながら移民してきたグレイスの生い立ちや、女中としての毎日の細々した仕事、さまざまな名前や由来のあるキルト作りについて、カナダに来て最初の勤め先で仲良くなったメアリー・ホイットマンとのエピソードなど、あの時代を生きた一人の女の子の物語としてそれだけでも十分面白く読めた。メアリーがいた頃は女中とはいえ毎日楽しく、職場を転々とした後ついにキニアに雇われ、気まぐれなナンシーにちょっと意地悪されたりしているのも、カルピス名作劇場のアニメを見るような感覚だった。

    しかし気になるのは、グレイスがショックで気絶し目覚めたときに自分がグレイスでなくメアリーであるかのような言動をしたこと、あとクリスマスにメアリーから手袋を貰ったはずなのに後半で自分は誰からも手袋を貰ったことがないから持っていないと言っていたり、もしかしてメアリー=グレイスは同一人物なのか?それとも二人はどこかで入れ替わったのか?という疑問がふと沸いたりもする。下巻が楽しみ。

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著者プロフィール

Margaret Atwood 1939年カナダのオタワに生まれる。オンタリオ北部やケベックで少女時代の大半を過ごし、トロント大学に入学、ノースロップ・フライのもとで英文学を学ぶ。その後、ケンブリッジ、ラドクリフ大学で英文学修士号を取得。さらにハーバード大学大学院で学んだ後に、カナダ各地の大学で教鞭を執る。処女詩集『サークル・ゲーム』でカナダ総督文学賞を受賞。詩、長編、短篇小説から評論、児童書まで幅広く活動する。詩集『スザナ・ムーディーの日記から』(1970)、小説『食べられる女』(1969)、『浮かびあがる』(1972)、『侍女の物語』(1985)『Alias Grace』(1996)などで世界各国の文学賞に輝く。最新作『The Blind Assassin』(2000)でブッカー賞を受賞。評論集『サバイバル』(1972)ではカナダ文学とは何かを正面から問いかけた。邦訳書に『キャッツ・アイ』(マーガレット アトウッド 著、松田雅子、松田寿一、柴田千秋訳、開文社出版、2016年)、『負債と報い――豊かさの影』(マーガレット・アトウッド著、佐藤アヤ子訳、岩波書店、2012年)『死者との交渉―作家と著作』(マーガレット アトウッド著、中島恵子訳、英光社、2011年)『オリクスとクレイク』(マーガレット・アトウッド著、畔柳和代訳、早川書房、2010年)『またの名をグレイス 上・下』(マーガレット・アトウッド著、佐藤アヤ子訳、岩波書店、2008年)『ペネロピアド(THE MYTHS)』(マーガレット・アトウッド著、鴻巣友季子訳、角川書店、2005年)『良い骨たち+簡單な殺人』(マーガレット・アトウッド著、中島恵子訳、北星堂書店、2005年)『カンバセーション アトウッドの文学作法』(マーガレット・アトウッド著、加藤裕佳子訳、松籟社、2005年)『ほんとうの物語』(マーガレット・アトウッド著、内田能嗣 訳、多湖正紀・山本紀美子 共著、大阪教育図書、2005年)『昏き目の暗殺者』(マーガレット・アトウッド著、鴻巣友季子訳、早川書房、2002年)『闇の殺人ゲーム』(マーガレット・アトウッド著、中島恵子訳、北星堂書店、2002年)『寝盗る女 上・下』(マーガレット・アトウッド著、佐藤アヤ子・中島裕美 共訳、彩流社、2001年)『マーガレット・アトウッド短編集』(マーガレット・アトウッド著、Alan Turney編、久慈美貴 注釈、ロングマン・ジャパン、1998年)『食べられる女』(マーガレット・アトウッド著、大浦暁生訳、新潮社、1996年)『サバィバル』(マーガレット・アトウッド 著、加藤裕佳子訳、御茶の水書房、1995年)『Sudden fiction (2)』(「ハッピー・エンド」 Happy Endings 収録。ロバート・シャパード 著、ジェームズ・トーマス 訳、柴田元幸 著、文芸春秋(文春文庫)、1994)『ファミリー・ポートレイト—記憶の扉をひらく一枚の写真』(「偉大なる叔母たち」 Great Aunts収録。キャロリン アンソニー (Carolyn Anthony)編、松岡和子・前沢浩子訳、早川書房、1994年)『浮かびあがる』(マーガレット・アトウッド 著、大島かおり訳、新水社、1993年) 『青ひげの卵』(マーガレット・アトウッド 著、小川芳範訳、筑摩書房、1993年)『スザナ・ムーディーの日記』(マーガレット・アトウッド著、平林美都子 他訳、国文社、1992年)『侍女の物語』(マーガレット・アトウッド著、斎藤英治訳、新潮社、1990年→ハヤカワepi文庫(早川書房)2001年)『ダンシング・ガールズ マーガレット・アトウッド短編集』(マーガレット・アトウッド著、岸本佐知子訳、白水社、1989年)『描かれた女性たち 現代女性作家の短篇小説集(SWITCH LIBRARY)』(「急流を下る」 The Whirlpool Rapids収録。マーガレット・アトウッド・アリス マンロー・アン ビーティ 他著、岸本佐知子 他訳、Switch編集部編、スイッチ・コーポレーション書籍、1989年)などがある。

「2001年 『寝盗る女 (下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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