またの名をグレイス(上) (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006023010

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  • 『侍女の物語』が1985年。『またの名をグレイス』が1996年。読んでいて思うのは、この2冊はステージを変えた変奏曲だ、ということだ。前者は架空の国(未来のアメリカではあるけれど)が舞台のディストピア文学で、後者は実際の事件に題材をとった歴史文学だという違いはあるけれど、どちらも主人公は侍女で、様々な階層の様々な立場の男たちに都合よく使いまわされる立場に置かれているところが同じ。キリスト教社会にベットリ張り付くミソジニーを、アトウッドは決して見逃さない、そして容赦しない。「女である」ことの罪によって、16歳の少女を、30年も牢獄に閉じ込め、狂人のレッテルを貼り、観察対象としてモノ化することを強いた自国の過去を読み手に突きつける。
    ただ、こう書いていながら、作品の魅力はそこじゃないなぁ、とも思ってしまう。とにかく美しいとしか言いようのない描写がずーっと続くので、時間を忘れて読み耽ってしまう。特に後半、グレイスの過去語りのシーンが本当に美しくて、ぐいぐい引き込まれる。彼女が語る生活の一コマ一コマが、いわゆる「古き良き」暮らしぶりそのもので、まるでターシャ・テューダーの絵本を読んでいるよう。一番は、バター作りのシーン。足で踏んでペダルを回す機械でミルクを攪拌しながら手は裁縫をし、出来たバターには塩を混ぜ、家紋入りの容器に入れて固めて地下室に置き、バターミルクはとっておいてビスケットを作り…なんていうのを読んでいると、これがゾッとするような展開が待つミステリーで、がっつり重い告発小説だというのを忘れてしまう。そして朝焼けのシーンの何とも風情のあること!ここだけでも読む価値があると思う。
    そして、キルト!!キルトが気になるーーー!!!章ごとのタイトルがキルトの模様の名前なのは後半で分かるんだけど、そしてそれらが繋がると大きな絵(つまり、種明かし)になるという仕掛けなのだろうけれど、じゃあどういう絵になるのよーーー????気になるので、まずは下巻をポチる。 

  • ふむ

  • 上下巻に分かれた本を読むのは、すごく久しぶりだ(5年ぶりだった)。

  • ネトフリのドラマを見て興味を持ちました。
    映像で見ていたこともあって、読み進むにつれのめり込んできました。
    下巻も楽しみです。

  • 沈黙には暗い愉悦が見え隠れし、語る眼差しは獲物を絡めとる。その実、彼は欲望を彼女という器に注いでいるだけなのだが。2019年のベスト。発行年ではなく自分が読んだ年の。

  • とても面白い。これは訳も素晴らしいのだと思う。

  • 主人公の名はグレイス・マークス。実在した「女殺人犯」。1843年、カナダの田舎町で女中をしていたグレイス(当時16才)は、同僚の男性使用人ジェイムズ・マクダーモットと共謀して、雇用主である地主トマス・キニアと女中頭のナンシー・モンゴメリーを殺害して逃亡。逃走中は親友であったメアリー・ホイットマンの名を偽名として名乗っていた。逮捕後、ジェイムズのほうは絞首刑となるがグレイスは終身刑となる。

    15年後、懲治監に入れられているグレイスは模範囚として、日中は監長の自宅で働いたり監長夫人の趣味のサロンに出入りを許されているが、サイモン・ジョーダンという若い野心家の医師がグレイスの精神分析をするために訪れるようになる。物語はこのサイモンの調書的なものや手紙、グレイス自身の話、さらに多用されるエピグラフなどさまさまな断片で構成されている。

    グレイス自身は事件当時の記憶がなく、自分は無実であると主張しており、世論はグレイスを悪い男に唆され共犯者に仕立て上げられた被害者とみるむきと、処刑されたジェイムズが証言したようにグレイスのほうが稀代の悪女で、主人キニアのお気に入りであるナンシーに嫉妬するあまりジェイムズを誘惑して殺人を実行させたとする説に分かれ、たとえば監長夫人のような人物はセレブの慈善事業の一環としてグレイスを擁護、無罪を証明する活動をしたりしている。

    マスコミは現代と同じく面白可笑しく事件をスキャンダラスに取り上げるだけで嘘だらけ、これまでにグレイスの鑑定をした医師も、彼女を狂人であるとする者もいれば、あれは巧妙な演技だと主張する者もいて、誰もグレイスの「正体」を見抜けない。北アイルランドからの貧しい移民で苦労人のグレイスは淡々としており、何もかも諦観しているように見える。果たして真実は・・・?

    上巻の時点ではまだなんとも五里霧中。ただ大勢の弟妹の世話をしながら移民してきたグレイスの生い立ちや、女中としての毎日の細々した仕事、さまざまな名前や由来のあるキルト作りについて、カナダに来て最初の勤め先で仲良くなったメアリー・ホイットマンとのエピソードなど、あの時代を生きた一人の女の子の物語としてそれだけでも十分面白く読めた。メアリーがいた頃は女中とはいえ毎日楽しく、職場を転々とした後ついにキニアに雇われ、気まぐれなナンシーにちょっと意地悪されたりしているのも、カルピス名作劇場のアニメを見るような感覚だった。

    しかし気になるのは、グレイスがショックで気絶し目覚めたときに自分がグレイスでなくメアリーであるかのような言動をしたこと、あとクリスマスにメアリーから手袋を貰ったはずなのに後半で自分は誰からも手袋を貰ったことがないから持っていないと言っていたり、もしかしてメアリー=グレイスは同一人物なのか?それとも二人はどこかで入れ替わったのか?という疑問がふと沸いたりもする。下巻が楽しみ。

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著者プロフィール

マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood):1939年カナダ生まれ、トロント大学卒業。66年にデビュー作『サークル・ゲーム』(詩集)でカナダ総督文学賞受賞ののち、69年に『食べられる女』(小説)を発表。87年に『侍女の物語』でアーサー・C・クラーク賞及び再度カナダ総督文学賞、96年に『またの名をグレイス』でギラー賞、2000年に『昏き目の暗殺者』でブッカー賞及びハメット賞、19年に『誓願』で再度ブッカー賞を受賞。ほか著作・受賞歴多数。

「2022年 『青ひげの卵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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