またの名をグレイス(下) (岩波現代文庫)

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感想 : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006023027

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  • 催眠術でグレイスから真相を聞き出すことになり、いよいよ佳境へ。しかし彼女の口から出た言葉は・・・。ここで起こったこと自体は予想の範囲内だったけれど、ではそれが憑依なのか多重人格なのかそれともグレイスの狡猾な芝居なのかとなると見分けはつかない。まあグレイス自身が得をする話ではないので芝居の線はないのかもしれないけれど。

    ただ実体がどうであれ「グレイスの中のメアリー」がそれを行ったというなら、やはり罪を償うべきはグレイスだと個人的には思うのだけれど、たしか海外では多重人格者の別人格が犯罪をおかした場合当人は罪に問われないという例は聞いたことがある気がする。ひとつ矛盾を感じるとしたら、メアリーは確かに気は強かったけど嫉妬で人を殺すような残忍な娘じゃなかったよね?という点かな。

    いずれにしても、どこからが嘘で、何が真実か、誰にも見極めることはできないまま。グレイスがサイモン医師に語った内容も彼に「受けそうな」内容をあえて創作したのかもしれないし、疑い出せばそもそもグレイスの生い立ちからして証明する家族は誰も出廷しておらず自己申告のみ、名前も過去も嘘ではないと断言できないし、メアリーの墓石はあるけれど、それが本当にグレイスの語ったメアリー本人だということも証明できる人間はいない。

    ジェローム・デュポン博士がジェレマイアだというのもグレイスの妄想かもしれないし、そもそも行商人自体はどこの屋敷にも来ただろうけど、そのすべてがジェレマイアだったかどうかも怪しい。とはいえ行商人のジェレマイアは、スナフキンみがあって好きだったし、彼が本当に名前を変え仕事を変えひょうひょうと生き続けているのならそのトリックスターぶりはとても好きだった。

    りんごの皮むき占いで、イニシャルJの男性と結婚すると出たグレイスが、Jのイニシャルを持つ人間に過度に期待していたのかもしれない。共犯のジェイムズ、笛吹き少年ジェレミー、ジェームズ・サイモン医師、そしてジェレマイア。でも牢獄のことも英語では Jail とも言うし、人生の大半を監獄で過ごしたグレイスは監獄と結婚したと言えるのかもしれない。

    裁縫が上手で、家事仕事をてきぱきこなすグレイスのことは個人的には嫌いではなかったのだけれど、しかしやはり殺されたナンシーの服を平然と着て法廷に立つ感覚には、やはりゾッとするものを感じた。終盤、彼女の赦免のために奔走してくれた親切な娘さんに対しての、とても優しいけれど美人ではないという内容の述懐などにも、なにか致命的な欠落のようなものを感じて、二重人格だろうがなんだろうが、それを生み出したのは彼女自身だし、結局グレイスはやはり「女殺人犯」だと思った。

    それにしてもサイモン医師の使えなさっぷりときたら酷い(彼とその周辺だけが架空の人物だけど)。グレイスからではなく、家主の人妻から、どうせ逃げるならもっと早い段階で逃げ出すべきだったね。冷静に自己分析できるということと、その分析を自分の人生に生かすこととは別問題らしい。

  • いやー凄い。

  • 上下巻纏めて。
    実際にあった事件をモチーフにした長編小説……というと、実録もののミステリを連想するが、本書は当時の社会情勢やジェンダー論に主眼を置いている(つまりパズル的〝真相はこうだった!〟的な〝結論〟は、本書の構造としては、無い)。
    『侍女の物語』『オリクスとクレイク』辺りとはかなり雰囲気が違うので、最初は戸惑うが、こういうタイプの長編も面白いので、『昏き目の暗殺者』も文庫にならんかな〜などと……。

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著者プロフィール

1938年生まれ。英語圏を代表する作家。『侍女の物語』は女性の抑圧をめぐるディストピア名作として世界でロングセラー。『誓願』『昏き目の暗殺者』『洪水の年』など。ブッカー賞をはじめ受賞多数。

「2021年 『デカメロン・プロジェクト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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