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Amazon.co.jp ・本 (430ページ) / ISBN・EAN: 9784006023119
作品紹介・あらすじ
革命の父レーニンの後に現われ、人々が「全民族の父」とみなし、神とあがめたスターリン。だが、その正体は自由な芸術を検閲によって弾圧し、政敵を次々と粛清する、さながら中世の異端審問官のような独裁者であった……。同時代人の証言もまじえ、スターリン支配下に現出した恐るべき大粛清の実態を暴き、独裁者の内面に文学的想像力で迫る。『磔のロシア』と同時代の事象を、スターリン権力の側から一点透視法的に描き出す。文庫版には、主な登場人物の紹介付き索引を付した。
感想・レビュー・書評
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人は自己決定を恐れ、自己決定の自由を放棄する。
それも喜んで。
責任回避の安易な生き方は、自己の生き方を誰かに決めてもらうことだ。
大審問官はいつの時代にも生まれ得る。
大審問官=ヒトラーを選択してしまったドイツ人の
エーリッヒ•フロムは、「自由からの逃走」(Escape from Freedom)において、大審問官にすべてを委ねる人間の心理を分析した。
ミルトン•フリードマンによる徹底した、ほとんど常識ハズレともいうべきリバタリアンは、<自由からの逃走>を戒める厳格なルールと考えることが出来る。
そうでもしなければ、人は容易に大審問官にすべてを委ねたがるのだ。
ファシズム国家ナチス•ドイツを敗北に追い込んだのはソ連だ、とロシア人は信じている。
ナチス•ドイツとの独ソ戦におけるソ連の戦死者の数を見れば、ロシア人の主張も否定できない。
独ソ戦のソ連の戦死者は2000万人(!)なのだ。
世界をファシズムから救ったのは、イギリスでもアメリカ合衆国でもなく、ソ連だ。
それが2000万人もの死者を出したドイツとの戦いにおける、ソビエト=ロシアの基本認識だ。
レーニンが脳卒中を起こさなければスターリンはソ連のリーダーになっていない。
レーニンは明白にスターリン排除を決めていた。
しかし、排除の行動を起こす前に、レーニンは倒れた。
スターリンという名は、ニックネームだ。
「鋼鉄の人」を意味する。
しかし、本人は病弱で、猜疑心が強かった。
それを糊塗する画面が、強そうなニックネームだった。
独裁者=大審問官になったスターリンは何をしたか?
敵対者、敵対するかもしれない政敵、そして人民、少なくとも2000万人を虐殺している。
それは過小評価で、5000万人を虐殺したとも言われる。
独ソ戦ででのソ連の戦死者を遥かに凌駕する人々を殺したのだ。
大審問官の時代とは、こういう時代だ。
それは毛沢東時代の中国でも同様だ。
スターリンが恐れたもの、それは、帝政時代、かれが、皇帝のスパイだったという事実だ。
その事実を消し去るために、行った手段、それは当然、暗殺•虐殺だ。
大審問官の登場は決して許してはならない。
だが、大審問官は、「自由からの逃走」を図ろうとする人々のそばにそっと寄り添ってくる。
その顔は、英雄の顔をしている。
慈悲深い顔をしている。
そして、大審問官にすべてを委ねた時、破滅が訪れる。
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第1章 奇跡 大審問官の誕生―一九二四‐一九二九
第2章 暗雲 二発の銃声―一九二九‐一九三四
第3章 神秘 大テロルの時代―一九三五‐一九四〇
第4章 聖戦 ナチス・ドイツとの闘い―一九三九‐一九四五
第5章 権威 「われは国家なり」―一九四六‐一九五三
著者:亀山郁夫(1949-、栃木県、ロシア文学)
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