大審問官スターリン (岩波現代文庫)

  • 岩波書店 (2019年9月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (430ページ) / ISBN・EAN: 9784006023119

作品紹介・あらすじ

革命の父レーニンの後に現われ、人々が「全民族の父」とみなし、神とあがめたスターリン。だが、その正体は自由な芸術を検閲によって弾圧し、政敵を次々と粛清する、さながら中世の異端審問官のような独裁者であった……。同時代人の証言もまじえ、スターリン支配下に現出した恐るべき大粛清の実態を暴き、独裁者の内面に文学的想像力で迫る。『磔のロシア』と同時代の事象を、スターリン権力の側から一点透視法的に描き出す。文庫版には、主な登場人物の紹介付き索引を付した。

感想・レビュー・書評

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  • スターリンと芸術家たちの関係をテーマにした1冊。
    スターリン体制下で、芸術家たちがどのような状況に置かれていたかは興味深かった。作家・劇作家が多いのは、著者が翻訳家でもあるせいだろうか。それにしてもブルガーコフは、こうして並べられてみると、つくづく不思議なポジションにいたのだな……。

  • 人は自己決定を恐れ、自己決定の自由を放棄する。
    それも喜んで。
    責任回避の安易な生き方は、自己の生き方を誰かに決めてもらうことだ。
    大審問官はいつの時代にも生まれ得る。
    大審問官=ヒトラーを選択してしまったドイツ人の
    エーリッヒ•フロムは、「自由からの逃走」(Escape from Freedom)において、大審問官にすべてを委ねる人間の心理を分析した。

    ミルトン•フリードマンによる徹底した、ほとんど常識ハズレともいうべきリバタリアンは、<自由からの逃走>を戒める厳格なルールと考えることが出来る。
    そうでもしなければ、人は容易に大審問官にすべてを委ねたがるのだ。

    ファシズム国家ナチス•ドイツを敗北に追い込んだのはソ連だ、とロシア人は信じている。
    ナチス•ドイツとの独ソ戦におけるソ連の戦死者の数を見れば、ロシア人の主張も否定できない。
    独ソ戦のソ連の戦死者は2000万人(!)なのだ。
    世界をファシズムから救ったのは、イギリスでもアメリカ合衆国でもなく、ソ連だ。
    それが2000万人もの死者を出したドイツとの戦いにおける、ソビエト=ロシアの基本認識だ。

    レーニンが脳卒中を起こさなければスターリンはソ連のリーダーになっていない。
    レーニンは明白にスターリン排除を決めていた。
    しかし、排除の行動を起こす前に、レーニンは倒れた。
    スターリンという名は、ニックネームだ。
    「鋼鉄の人」を意味する。
    しかし、本人は病弱で、猜疑心が強かった。
    それを糊塗する画面が、強そうなニックネームだった。

    独裁者=大審問官になったスターリンは何をしたか?
    敵対者、敵対するかもしれない政敵、そして人民、少なくとも2000万人を虐殺している。
    それは過小評価で、5000万人を虐殺したとも言われる。
    独ソ戦ででのソ連の戦死者を遥かに凌駕する人々を殺したのだ。
    大審問官の時代とは、こういう時代だ。
    それは毛沢東時代の中国でも同様だ。

    スターリンが恐れたもの、それは、帝政時代、かれが、皇帝のスパイだったという事実だ。
    その事実を消し去るために、行った手段、それは当然、暗殺•虐殺だ。
    大審問官の登場は決して許してはならない。
    だが、大審問官は、「自由からの逃走」を図ろうとする人々のそばにそっと寄り添ってくる。
    その顔は、英雄の顔をしている。
    慈悲深い顔をしている。
    そして、大審問官にすべてを委ねた時、破滅が訪れる。

  • 第1章 奇跡 大審問官の誕生―一九二四‐一九二九
    第2章 暗雲 二発の銃声―一九二九‐一九三四
    第3章 神秘 大テロルの時代―一九三五‐一九四〇
    第4章 聖戦 ナチス・ドイツとの闘い―一九三九‐一九四五
    第5章 権威 「われは国家なり」―一九四六‐一九五三

    著者:亀山郁夫(1949-、栃木県、ロシア文学)

  •  大粛清が見通せると思って買ったのだが、私はアバンギャルド程度しかソ連芸術を知らないためほとんど頭に入らなかった。
     当時、芸術とはオーケストラと舞台劇と少しの映画しかない、ということなのだろうか。そう考えると、現代は芸術というものが大衆化しすぎているのかもしれない。
     そうした限られた対象にあって、スターリンですら、すべてを見通せたわけではない。検閲とは無駄の多い作業で、銃殺や拷問といったインパクトのある処罰がない限り機能しないことが理解できた。

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著者プロフィール

名古屋外国語大学 学長。ロシア文学・文化論。著書に『甦るフレーブニコフ』、『磔のロシア—スターリンと芸術家たち』(大佛次郎賞)、『ドストエフスキー 父殺しの文学』『熱狂とユーフォリア』『謎とき『悪霊』』『ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光』ほか。翻訳では、ドストエフスキーの五大長編(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)ほか、プラトーノフ『土台穴』など。なお、2015年には自身初となる小説『新カラマーゾフの兄弟』を刊行した。

「2023年 『愛、もしくは別れの夜に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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