淋しき越山会の女王: 他6編 (岩波現代文庫 社会 31)

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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006030315

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  • 田中角栄失脚のきっかけの一つとして名高い「淋しき越山会の女王」ほかルポライター・児玉隆也さんの7編を収載。
    最近ちょっと田中角栄に興味があるものだから「淋しき越山会の女王」目当てで読んでみた。……思ったほど鋭い感じはせず、何というか外堀を埋めているようで、直接的に田中角栄を糾弾するわけじゃない感じ。解説で柳田国男も書いているし、何かでも見聞きしたような気がするんだけど、児玉さんのルポは情緒的だということだろうか。もともと児玉さんは「女性自身」誌のライターからキャリアをスタートさせたそうで、さもありなん。タイトルだって、「淋しき」とつけたことで佐藤昭さんに同情しちゃう人もいるんじゃないかな。私も、どちらかといえば田中角栄への興味が好意的な方向なので、「淋しき~」と同時に「文藝春秋」に掲載された立花隆の「田中角栄研究――その金脈と人脈」でなく、直球で糾弾する印象の薄い児玉さんのほうを読んでみたいと思った……ような気がする。
    「淋しき~」以外に収載されているのは、学生時代に自分の生い立ちと母への愛慕を綴ったような「子から見た母」、「チッソだけが、なぜ」「「若き哲学徒」の死と二つの美談」「『同期の桜』成立考」「学徒出陣後三十年」「ガン病棟の九十九日」。「淋しき~」よりこれらのほうが私好みで読み応えがあった。
    チッソが他の公害病の誘因社に比べ著しくたたかれたのはなぜかと問うたり、戦前の日本・朝鮮半島間を結んだ気比丸の沈没事件にまつわる美談が実は虚構ではないかとまとめたり、多くの人が兵士になったのに学徒出陣した学生だけが手厚く取り上げられることを指摘したりと、題材自体が自分の興味関心に沿っているし、当たり前に受け入れられている説に一石を投じるような視点もいい。
    そして白眉は「ガン病棟の~」。世のなかの事象を取り上げてきた人が病とともに過ごす自分のことを書く。50年近く前のがん闘病の様子がうかがえ、不治の病という認識濃い時代のなかでがんを抱えると、(情緒的な筆といわれはしても)落ち着いた鋭い筆力をもつ人でもこうなのかという気持ちの揺れがそこここで伝わってくるようで、読んでいて胸が痛かった。しかも、「ガン病棟の~」はいったん退院するところで終わるけど、まもなく亡くなってしまうことを知っているとなおさら。
    「淋しき~」で名を上げてから1年ほどでの死。38歳という若さだし、子どももまだ幼かったようだし、さぞ無念だったことだろう。情緒的だということは言い換えればやさしいということだと思う。そんなやさしいルポの書き手のその後の作品が読めないのは淋しきこと。

  • 児玉隆也という人物を知らない人は多いだろう。ルポライターということばもすでに風前の灯火である。しかし、週刊文春が注目されているこの時代だが、児玉氏が活躍した時期は、週刊誌の世界にも多くの伝説的なライターが存在した。丹念な周りから落とす取材と新聞などのメディアが出来ない取材対象の懐に迫る動きを使って、大きな事件にビビットに迫っていった。児玉さんが世の中に気付きを与えた事象は沢山ある。注目を集めてからたった数年でこの世を去らざるを得なかったにも関わらず。ノンフィクション作家がまだまだ認知度を得なかった時代を切り開いた児玉隆也の文章に触れて考えることは、現代でも非常に多い。そんな彼を手本にするメディア関係者が増えることを願ってやまない。

  • 20131209 ルポライターとは?という資質の問題について客観的に記述できるかどうか。という事だけでは無いと考えさせられた。子から見た母にルポの本質を見たような気がする。良い本だと思う。

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