犯罪と精神医療―クライシス・コールに応えたか (岩波現代文庫―社会)

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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006030513

感想・レビュー・書評

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  • 1982年、つまり今から35年も前に書かれたこの本の筆者の痛切な問題意識が、今もリアルに響く。悲しいことに、たぶん、今の日本の状況もそんなに変わっていない。(調べたい)

    戦前からの精神障害者は管理、収容するという発想。1960年代に、精神病院はどんどん建設され、社会に適応できない人が大々的に収容されていく。患者1人あたりの医師の数も看護師の数も異常に少なく、なんらケアもされていない。

    そんな中で、患者本人や家族がどれだけ医療を必要としていても、医者はそのクライシス・コールに気づくこともなく放置し、殺人事件が起きてしまう。これでもかというほどの事例。

    「精神障害者の事件は突然起きるから野放しにしてはいけない」というのは一つの神話で、医療が無力で、ケアができていないだけだということがよくわかる。


    事件が起きた後に、精神科医や家族のせいにするだけでは足りない。もっと以前に、システムとして、より専門性を持った医師が、一人一人の患者のケアにあたり、地域とのつながりも作れる、そんな仕組みを作らなければ事件はなくならないだろう。

    その筆者の主張は今も変わらない。
    相模原の事件を考えるならぜひ読んでほしい。
    あの容疑者はたんなる加害者ではない。医療制度の不備の被害者でもあるのだと思わされてくる。

  • 1980年ごろに書かれて、20年後に再出版されたときに読み、さらに10年近くたって再読した。つまり書かれている内容は30年前のことなのだが、現在の司法における精神医療の取り扱いと比べて読むのがよい。筆者は2002年の再販の前書きで「この20年何も変わっていない」と述べているが、その後の10年、触法精神障害者を取り扱う環境は「医療観察法」ができて大きく様変わりした。一方精神医療の体制整備は遅々としてすすんでいない。この状況について筆者がどう考えているかを聞いてみたい気がする。蓄積された症例検討の資料としてもこの本に記載されていることは学術的に価値があると思う。

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著者プロフィール

1944年生まれ。長浜赤十字病院精神科部長などを経て、現在、関西学院大学教授。専攻は比較文化精神医学。1999年2月の広島県立世羅高校・石川敏浩校長の自殺についての検証をきっかけに、君が代強制に苦しむ教師たちの精神医学にかかわる。著書に、『虜囚の記憶』(みすず書房)、『子どもが見ている背中』(岩波書店)、『させられる教育』(同)、『戦争と罪責』(同)、『喪の途上にて』(同、講談社ノンフィクション賞)『コンピュータ新人類の研究』(文藝春秋、大宅壮一ノンフィクション賞)など多数。

「2009年 『教師は二度、教師になる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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