遠いリング (岩波現代文庫 社会 53)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (542ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006030537

感想・レビュー・書評

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  • 解説:高樹のぶ子、講談社ノンフィクション賞

    絆のテンカウント◆ジョーの戦記◆演歌◆復活の日◆青コーナーブルース◆B級パンチ◆ゴング鳴るとき

  • 大阪の天下茶屋にあった(当時)グリーンツダボクシングジム。このジムに在籍したプロボクサーやトレーナーなど10数名の人々について著者が2年間にわたり見続けて綴ったノンフィクション。登場するボクサーで一流と呼べるのは1980年代後半に世界ストロー級チャンピオンとなった井岡弘樹氏とそのトレーナーであるエディータウンゼント氏ぐらいで、それ以外のボクサーはアルバイトや他の仕事を持ちつつ、ボクシングへのこだわりや捨てきれない思いを燃やしながらジムに通う言わば「普通の人」です。一生続ける事などできないボクシングをいつ引退するのかの葛藤や、試合前に湧き上がってくる緊張や恐怖感、試合の勝敗によって突きつけられる挫折や歓喜を著者の後藤氏は丹念に拾いあげていきます。登場する人物の大半が「普通の人」であるだけに、著者が描く心の揺らぎには非常に共感できます。同じプロスポーツでもプロ野球やJリーグなどとはちょっと異質な、陰を感じさせるような雰囲気は当時、このジムが天下茶屋という場所にあったこともあって、「あしたのジョー」に非常に近いものです。ボクシングをテーマとしていますが、試合の描写よりも人物の心模様の描写に力点があって、ボクシングへの興味がなくても、どっぷりと著者が描く世界に浸ることができます。実際、私もほとんどボクシングは観ることはないですが、文庫本で500ページを超える長編にも関わらず、夢中で読みました。後藤氏が取材対象に向ける優しい眼差しが感じられる1冊だと思います。

  •  大阪のジムに通う無名のボクサーたちを綴ったノンフィクションです。
     たったひとつの勝利を得ることへの渇望、その困難さ。私のような凡人にとっては、チャンピオンの成功談よりも、こういう泥臭い話の方が身近というか、身につまされます。
     たとえ負けたとしてもやりきったと言える、そういう人生を私も歩みたい。

  • 私の愛する漫画「セコンド」と同じ時代に書かれたノンフィクション。本作はグリーンツダジム、セコンドはヨネクラボクシングジムと舞台は異なるが、エディタウンゼント氏や松本清司氏、西沢選手など同じ人物が登場する。タイプは違うが噛ませ犬も登場する。

    ボクシングに青春をかける若者達の現実であったり、その情熱や悲哀、ボクシングの光だけでなくどちらかというと影の部分が丁寧に書かれている。読む者の心に優しく染み渡る良質な文章で爽やかな読後感。この表現力は素晴らしいと思う。読んでて常々思う。

    【セコンドのレビュー】
    http://www.geocities.jp/gonzui_heartman/present/second/index.html

  •  エディ・タウンゼントの名を知ったのは、沢木耕太郎の『一瞬の夏』(新潮社、1981年/新潮文庫、1984年)を読んでのこと。ボクシング・トレーナーとして育て上げた世界チャンピオンは藤猛、海老原博幸、柴田国明、ガッツ石松、友利正、井岡弘樹の6人。赤井英和もエディの教え子だ。名伯楽という言葉は彼のためにあるようなものだ。

    http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100316/p3

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著者プロフィール

1946年、京都市に生まれる。1972年、京都大学農学部を卒業。
ノンフィクション作家となり、医学、スポーツ、人物評伝などの分野で執筆を重ねる。
『空白の軌跡』(講談社文庫)で第四回潮ノンフィクション賞、『遠いリング』(岩波現代文庫)で第十二回講談社ノンフィクション賞、『リターンマッチ』(文春文庫)で第二十六回大宅壮一ノンフィクション賞、『清冽』(中央公論新社)で第十四回桑原武夫学芸賞、を受賞。

2016年、書き手として出発して以降、2010年までに刊行された主要作品のほとんどが収録されている「後藤正治ノンフィクション集(全10巻)」の刊行が完結。

他の著者に、『関西の新実力者たち』(ブレーンセンター.1990)、『刻まれたシーン』(ブレーンセンター.1995)、『秋の季節に』(ブレーンセンター.2003)、『節義のために』(ブレーンセンター.2012)、『探訪 名ノンフィクション』(中央公論新社.2013)、『天人 深代惇郎と新聞の時代』(講談社.2014)、『拗ね者たらん 本田靖春 人と作品』(講談社.2018)などがある。

「2021年 『拠るべなき時代に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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