新編 愛情はふる星のごとく (岩波現代文庫 社会 76)

著者 :
制作 : 今井 清一 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 70
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006030766

作品紹介・あらすじ

大きく眼を開いてこの時代を見よ…ゾルゲ事件に連座し、獄中にあった尾崎秀実は、妻と娘に宛てて手紙を書き続けた。死刑囚家族への思いやり、透徹した人生観、切実かつユーモアを湛えた書物とグルメ談義は時代を超えて切々と読者の胸をうつ。一二〇通余を精選、従来の削除部分を原本によって復元した。

感想・レビュー・書評

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  • 死ぬと分かっていても知識を得つづけることに意味はあるのか。いや無い。だが作者は死刑を宣告された後も、知ることだけのために本を読み知ろうとする。経済的価値や即物的な価値から超越したところにものの価値を見出すことこそ生きるということなのだと勇気付けられた。

  • 終戦まで生き延びていれば、と思わずにいられない。
    「私は人類の不幸を少くするためには、三つの課題があると 一つは無智を撲滅すること、二つには病気をやっつけること、第三には貧乏を社会からとりのぞくこと だと思います。」

  • 日本史上最大のスパイ事件とも形容されるゾルゲ事件に連座し、逮捕・
    投獄された尾崎秀美。新聞記者であり、評論家であり、近衛政権では
    ブレーンでもあった尾崎。

    彼が獄中から妻・英子と一人娘・楊子へ宛てて書き綴った手紙を収録し
    たのが本書である。

    日本を共産主義者へ売ろうとした男。共産主義者のスパイが裏の顔で
    あるのなら、表は夫として、父としての顔だろう。

    逮捕されるまで、尾崎は自身の使命を家族にも秘していた。だから余計
    に自身が逮捕された後の母娘の生活を気遣っている。

    日々苦しくなるであろう戦時下の暮らしにどう対処するか。疎開をするな
    らどこが適当か。処分する家財とその方法など、事細かに綴っている。

    治安維持法の下での逮捕・投獄だ。獄中から出される手紙には当然の
    ように検閲があったろう。だから、自身の罪についての詳細は記されて
    いない。

    毎回のように書かれているのは読んだ本のこと、食べ物のこと、きっと
    こういう話であれば、当たり障りがなかったのだろうな。

    そして、13歳で別れを余儀なくされた一人娘・楊子の学業へのアドバイス
    と、楊子が尾崎へ送った手紙やはがきの誤字・脱字の指摘。これもまた、
    父親としての愛情の表れなのだろう。

    「死をもって国民に詫びよ」

    死刑判決を言い渡した裁判長は、尾崎にそう言った。刑が執行されたの
    は昭和19年11月7日。その朝、尾崎が綴ったはがきは、彼の死後2~3日
    後に英子夫人の元に届けられた。

    この獄中書簡集を読んで驚く。尾崎の広範な知識と、分析能力の高さに
    だ。ゾルゲ事件が露見するまでにも尾崎の評論は高い評価を受けてい
    た。もし、違う時代に生まれていたらスパイとしてではなく、学者か評論
    家として歴史に名を留めていたかもしれない。

    敗戦まで、尾崎を生かしておくことは出来なかったのだろうな。生きていた
    のなら、戦後、彼はどんな道を歩んだのだろう。

  • ゾルゲ事件に連座して逮捕、処刑された尾崎秀実の獄中書簡集。手紙に書かれた家族に対する、細かい助言から、彼の家族に対する愛情が浮かび上がってくる。
    また、本の差し入れの依頼が、細かく書いてあるので、当時の知識人が、読んでいた本がわかって興味深い。

  •  司馬遼太郎の何かのエッセイでしりました。
     家族への手紙はこんな風にかくのね。
     なぜこんなお金持ちの裕福な人が、共産主義に傾倒していったのかが、手紙からは分かりませんでした。検閲があるから書けなかったのでしょうか。でも、最後の編者の解説でなんとなく理解できました。

  • すごく頭のいい人だったんだな、というのがハッキリと伝わってきます。書評、食べ物の考察……とエッセイとしての面白さもある。そして何より刑執行を待ちながら一切揺るがない家族への思いやりがすごく伝わってくる。いろんな面から何度でも読み返せます。

  • ゾルゲ事件で逮捕された尾崎秀実の獄中書簡集。「人生にはいろいろな苦しみや悲しみがあっても、やはり生きてゆく値うちのあるものです」に心を打たれます。

  • とても美しい文章。

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