初めて人を殺す―老日本兵の戦争論 (岩波現代文庫)

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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006031053

作品紹介・あらすじ

中国の戦線で、捕虜の刺殺訓練をさせられた著者。以来六十余年、戦死した友の眠る故郷の墓地で、八月十五日の靖国神社で、半世紀近くたって参加した戦友会で。自身の戦争体験や、軍隊、戦争そのものの正体を問い、老日本兵は、歩き、考え、書く。「お前は中国でいったい何をしたのか」、終わらない問いを抱え記したエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 顔も名前も知っている、厨房のスタッフを度胸試しに殺すことになった場面はとても衝撃的だ。
    井上さんの番では肉塊になっていたが、確かにさっきまで、
    命を懇願し、喚き叫んでいた人間だった。

    他の章の詩や、数々のエピソードで、
    今迄何となく知っていた、或は見聞きしていた戦争についての事象は、
    教科書掲載や物語化の段階である程度のフィルターにかかっていたのかもという思いに至らせてくれた。

    これを読んで、筆者の「自分は悪く無い」アピールを感じるというような解釈もあるようだが、単にそういうことだけではないと個人的には感じた。

    とにもかくにも、従軍した兵隊の記憶というのは得難く、重い。

    色々なことを明かしてくれている。

  •  著者は詩人で大学講師(当時)。1942年に召集、中支で歩兵として訓練を受け、現地での「治安維持」作戦に参加した後、通信部隊に転じる。敗戦後は自らの従軍体験・加害の体験を積極的に語り、「英霊」の声から戦争指導者や昭和天皇を呪詛・告発する詩を書く。「中央公会堂脱出記」は、天安門事件後の集会で、中国人たちによって日本右翼から守られた体験について書いたもの。

     著者は、元戦友たちと顔を合わせ、メールのやり取りをしながら、自己の体験がまぎれもない加害に他ならぬこと、そして、そのような認識を持ちながらも、意識できない認識の〈穴〉をいくつも抱えてしまっていることを冷静に、淡々と語っていく。「善良な」市民としての戦後を送ることができた「日本人」の一員としての自分と、自らの過去を恥ずべきもの・秘すべきもの
    として生きねばならなかった元慰安婦たちの過ごした時間との圧倒的な落差に、筆者は眩暈を覚えながら問いかける。自分たちと慰安婦たちとの関わりは、主人と奴隷の関係に過ぎなかったのか? 自分たちも同様に、奴隷だったのではなかったか?

     《同じだ》と言った瞬間に、そこに責任の否認の声がすべりこむ。《違う》といった瞬間に、過去の自分が置かれていた位置との不整合という感触が前景化する。そしてまた、《同じだ》と言いたいのだが、そうすることは許されないのだという別の声もする。これらの〈声〉のはざまに、総力戦下での兵士たちの加害意識を考えることの難しさがあると思うし、記憶との対話、不断の問い直しへと向かって行く契機もあるのではないか?

     井上は言っている。戦争にはそれなりの「愉楽」があり、だからこそ人間は戦場でも耐えることができるのだ、と。また、井上は「一人前の男になる」という発想が、戦場での「善良な」帝国軍人たちの振る舞いをいかに根深く規定していたかについても述べている。
     この二つのエピソードは、戦争や戦場が決して極限の時空でも、特殊な境涯でもないことを教えてくれる。日常と地続きのところに戦争はあり、戦場とはいえ日常の価値観がひっくり返るわけではまったくない。とすれば、「戦争は、戦場体験者にしかわからない」ということにはならない。

  • 戦争を知らない自分は何も言える立場じやないけど、著者は何もかも人のせいにしたいのだなと思った。
    読んでもいやな気持ちになっただけだった。

  • 自分は悪くない、教えられたし、やらざるを得なかった、…というような空気が漂う体験談……。(すみません)

    大岡昇平を読んだ後なのでよけいに…あまりに主観的で。
    最後に掲載されていた詩の表現と言葉の選び方からも……。

    この詩が自問自答というならば、どこか自分とその他の戦友と一線を引いたような、自分は反省している、悪いのは国と軍のお偉い方…という空気は私の勘違いなのだろう。

    もう少しあの時代に対して客観的な視点が欲しい。
    そうでないと、今、私が立っているこの時代の状況が「おかしい」のか「おかしくない」のか、分からない。「正義」は目に見えなくて、戦争への熱情は、冷めてから気がつくもので、気がついた時にはいつでも遅いのだから。

  • 単純に、知らなければならないと思い読んでみました。
    自分の予想と違って、連綿と当時の体験を並べているのではなくて
    基本的に回想で、思ったほど残虐で辛くなるシーンが山ほど、というわけではなかったです。
    筆者が詩を書く人だということが作用しているのかもしれませんが。

    もちろん虐待の実態であるとか、それでも誇らしく思った気持ちとか
    そういうことは書いてあるのですが、自分的にちょっと驚いたのが
    冒頭の詩。
    内容は、靖国に祀られた戦友が筆者に語りかけており、ここではなく故郷に帰りたい、
    自分たちは死なせて天皇陛下は長生きをして・・・
    という感じ。
    ここまでストレートに、戦争に行った人の口から天皇批判を聞くことがなかったのもあり、
    靖国神社の意義というかあり方というか、中国から言われるから、ではなくて
    本当に遺族の意思を尊重してもっときちんと考えられないのかなと思いました。
    分祀や法人化で片付く問題ではない気がしますが・・・

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