密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006031367

作品紹介・あらすじ

沖縄返還交渉で、アメリカが支払うはずの四百万ドルを日本が肩代わりするとした裏取引-。時の内閣の命取りともなる「密約」の存在は国会でも大問題となるが、やがて、その証拠をつかんだ新聞記者と、それをもたらした外務省女性事務官との男女問題へと、巧妙に焦点がずらされていく。政府は何を隠蔽し、国民は何を追究しきれなかったのか。現在に続く沖縄問題の原点の記録。

感想・レビュー・書評

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  •  TBSのドラマ『運命の人』を見て,ノンフィクションも読んでみた。国民に対する政府の重大な背信行為である密約問題が,ものの見事に男女の醜聞にすり替えられてしまったことを批判していく。地裁でのやりとりが詳しい。
     著者は外務省事務官だった蓮見さんと同年同月生れで,同じ女性ということもあり因縁めいたものを感じつつ取材・執筆している。もっとも蓮見さんには批判的。「自力で外務事務官のポストを得た四十路の女が、人形のように相手の一方的な意思によって蹂躪されたというのは、あきらかに誇張」p.312
     利用されるだけ利用され,捨てられた哀れな女というふうに世間に受け止められ,それが西山記者の有罪にもつながり,国民の知る権利が制限される結果になったことを問題視している。
     ドラマでは夫が外務省勤めだったが,そうではないらしい(埼玉県庁とか)。他にも細かい違いが多々あって興味深い。やはり事実はドラマほどドラマチックではない。
     ドラマでは,弓成の「そそのかし」が争われた裁判は最高裁で有罪にひっくり返ったが,実際は高裁でひっくり返って最高裁は上告棄却。
     ドラマでは,三木は自分が漏洩させたことが発覚しないよう書類を焼いたりするが,実際はすぐに上司に告白してる。
     あと,ドラマでは三木がすべてを失ったことを強調していたが,本書には毎日新聞から示談で一千万円くらいもらったことや,発覚当時に社会党の人から三十万円の見舞金を受け取っていることが載ってた。意外,というか,よく考えるとまあそうなんだろうなというところ。
     ドラマでギバちゃんがやってた弁護士が,砂川裁判の裁判長だった伊達氏だったとはしらなかった。伊達判決ってたしか超有名じゃなかったっけ。
     沖縄返還に際してアメリカが払うべき軍用地補償費を,日本が肩代わりしたというのが問題とされた密約だったようだが,これがどの程度問題だったのか僕はよくわからない。どんぶり勘定とは言わないまでも,こういうのは他のいろんな費用と合算してざっくり総額が決まるようなものじゃないのかな。思いやり予算とかのほうがずっと額も多いし。
     一つ本書の書きぶりで気になったのは,本当は日本が貰うはずの四百万ドルを,日本が払うことになったのだから日本の損害は八百万ドルだという主張(p.52,276)。なぜそういう計算になるのか意味がわからない。
     「本来収入となるべきところを支出するのであるから」(p.52)二倍になるのは当然という感じでさらっと書いてるのだが,肩代わりってことは,アメリカが日本政府を通じて払うところを,日本政府が自腹で払うということだから,二倍にならないのでは。批判の勢いあまっての計算ミスなんだろうか。

  • 澤地久枝『密約 外務省機密漏洩事件』を読む。
    沖縄に関する何冊かのすぐれたドキュメンタリーを
    読み込んでいくと、戦後の日米関係にぶち当たる。
    「沖縄」に日米関係の過去現在未来が凝縮されているように
    僕には思えてくる。

    雑誌「通販生活」2010年秋冬号掲載
    「落合恵子深呼吸対談」のゲストが澤地であった。
    その対談内容にも惹かれるものがあり、
    澤地の二番目の著作である本書『密約』を取り寄せることにした。
    1978年から実に28年間絶版になっていた著作が、
    2006年、岩波現代文庫の一冊として復刊していたのだ。

    国家と個人の利害が相反したとき、
    およそ個人に勝ち目が少ないことは歴史が証明している。
    毎日新聞の記者だった西山が、
    外務事務官だった蓮見から情報を入手し、
    佐藤内閣が沖縄返還に関し、
    アメリカと密約を交わしていたことをあばく。

     「返還にあたり、本来、米国が支払うべきであった
      返還軍用地復元費用四百万ドル。
      日本はその肩代わり支払いに応じ、
      アメリカが支払ったように見せかける外交文書の作為を
      おこなった。
      それが私の追った「密約」のテーマである。」

      (本書 p.321「沈黙をとくー2006年6月のあとがきー」より
       引用)

      (注: 若泉敬が著書で明かした核に関する日米の密約と
       西山、澤地が追求した密約は内容が異なる)

    西山が蓮見と「情を交わして」情報を得たことが
    世間に暴露されるや、
    国家対個人の問題が、下世話な男女の下半身問題に
    たくみにすりかえられていく。
    ジャーナリスト、国家公務員としてのモラルを国家は突いてくる。
    そのさまを事件の発端から後日談まで
    硬質な筆致で追いかけ文字に定着したのが澤地の『密約』である。

    僕にとって圧巻は「第12章 告白2」である。
    思いがけない人物が現れ、その告白を澤地が書き留めたことで
    マスコミが作りあげてきた「被害者・蓮見喜久子」の像が
    揺らぎ始める。
    真実とはなにか。
    そのことを読者とともに考え抜くためにこの章は書かれた。

    僕たちは日々知らず知らず、
    顔なきマスコミの圧倒的多数の意見に流されやすい。
    事実関係を根気よく確認しながら自身の洞察を深めるより、
    一時的に感情をあおられ
    断定的な結論に一直線に向かう危険と常に隣り合わせである。
    他人の意見がいつの間にか
    自分の意見にすりかえられたことに気づくのは
    ずっと後のことになる。

    日本のジャーナリズム、ドキュメンタリーの系譜には
    女性作家の活躍が確かにあって頼もしい。
    澤地より二世代ほど前には、
    『閔妃(ミンピ)暗殺 朝鮮王朝末期の国母』の角田房子。
    最近の世代では『ルポ 貧困大国アメリカ』の堤未果。
    すぐれた仕事に男女の区別はないが、
    男性作家に明らかに欠落している視点を提供してくれることで
    僕たち読者はようやく複眼の思考を
    維持・更新できるように思えるのだ。
    澤地久枝の作品は今回初めて読んだが、
    そうした女性作家の系譜に連なるひとりであると思えた。

    1978年5月31日。
    最高裁上告棄却の決定、西山の有罪確定。
    それから、33年が過ぎようとするが
    沖縄密約問題の全貌はいまだ解明しきれていない。
    すべてを歴史の闇の中に葬ろうにも
    普天間基地移設問題が引き金となり
    鳩山内閣がつぶれたのは2010年、昨年6月のことだ。

    どの政党が政権を取ろうと、誰が総理になろうと、
    はたまたあなたや僕のような市井の一個人であっても
    日米関係に目をつむって日々をやりすごすことはできない
    現実がある。
    澤地の書いた本書はそうした問題を考えるための貴重な材料を
    僕たちに提供しているように思う。
    それは国家や大組織に立ち向かうことは到底かなわぬ
    とあきらめなかった一個人の仕事である。

    (文中敬称略)

  • 沖縄返還密約にかかる秘密漏洩裁判の傍聴記。何が国家秘密に当たるのかが争点なのかと思いきや、澤地さんも男女問題に多くを費やしている。物足りなさがある。いっそすべて削ぎ取ってしまえばよかったのに。
    裁判で、またマスコミで取材手法が大きく取り上げられたのはわかるが、それは枝葉である。

  • 資料的価値はどうなのだろう?
    著者のモノローグが多すぎはしないか。
    何より事件の本質よりも検察が誘導した方向に著者自身が絡め取られた感がある。
    そして本質には一切踏み込めずに終わった。
    この内容なら100ページ前後で良い。

  • 1971年の沖縄返還協定において、本来であればアメリカが
    地権者に対して支払うべき原状回復費400万ドルを日本政府が
    肩代わりした。

    1971年の沖縄返還協定における日米間の密約。国民の税金を
    政府がアメリカにプレゼントする。当然、外務省では外部へ公表
    の出来るような経緯ではない。それが漏れた。

    持ち出したのは外務省勤務の女性事務官。持ち出させたのは
    外務省詰めの新聞記者の男性。ふたりは国家公務員法違反
    で起訴される。

    その裁判を傍聴し、事件の真相に迫ったのが本書である。今では
    ベテランのノンフィクション作家となった著者の第2作である。

    佐藤政権末期に起こった機密漏洩事件は、「機密はない」と
    主張し続けた国が裁かれるべき事件だった。本来であれば
    日本版ペンタゴン・ペーパーズとなるはずの事件だった。

    しかし、裁判の過程で問題はすり替えられた。女性事務官も
    新聞記者の男性も既婚者だった。そんなふたりは特別の関係
    にあった。これが「国家のスキャンダル」ではなく、「男女間の
    スキャンダル」に変質した。

    女性事務官は新聞記者の男性の強引な要求に屈しきれず、そその
    かされたのだと主張する。それは新聞記者の「取材の自由」「報道
    の自由」を逸脱する行為であると検察は非難する。

    だが、そうだろうかと著者は疑問を呈する。仕事を持った40代の
    女性が「好意さえ持っていなかった」男性の要求を突っぱねられ
    ないものだろうか…と。

    彼女は何かを役割を演じていたのではないか。「スクープの為
    ならか弱い女性を食い物にする男」の犠牲者としての仮面を
    かぶっていやしないか…と。

    被告人となった女性に温かい視線を向ける著者ではあるが、
    証言内容の分析は非常に厳しい。これが後に女性事務官を
    知るというX氏との邂逅と彼の告白で、「か弱い女」の仮面が
    剥がされて行く章に繋がるのだが。

    このX氏の告白の章は秀逸。外務省の臨時雇いだった女性は、
    異例ともいえる出世で次官や審議官付の事務官となる。もし
    やその出世の裏側には…。

    まるでカトリーヌ・アルレーの「悪女」シリーズを連想される
    妄想が暴走しそうになった。

    この女性事務官に関しては「世間が事件のことを忘れ、静か
    な生活をしたい」と語っていたはずなのに結審後もマスコミに
    登場して男性記者を非難する言動を繰り返しているんだよな。
    やっぱり、何か変なのだ。

    「おんなは被害者意識によって盲い、陰湿な逃げの姿勢に
    沈潜しているかぎり、おのれ一人の人生のいわば囚人となる」

    もし、女性事務官が男性記者を自分に繋ぎ止める為に貢ぎ物
    のように文書を渡していたとしたらどうだろう。「そそのかし」は
    該当しなくなるのでは…と考えてしまった。

    政権にとってこんなに都合のいい被告人はいなかったのでは
    ないだろうか。あらかじめ自身の罪を認めているのもあったが、
    女の涙は利用できるものね。男女間のスキャンダルに問題を
    貶めてしまえば、政権は傷つきさえしない。

    「しかし、自力で外務省事務官のポストを得た四十路の女が、
    人形のように相手の一方的な意思によって蹂躙されたという
    のは、あきらかに誇張であり、ためにする嘘がある。そして
    仮に、西山氏が「悪意の誘惑者」の一面をもっていたとしても、
    哀れな被害者という意識に埋没することを自らに許せない
    誇りを、蓮見さんにもってもらいたかったと思う。」

    同性としての厳しさと優しさが、この表現から感じられる。
    自ら「被害者」を演じることで女性事務官は自分で自分を
    貶めてしまったのではないか。

    尚、私は一番の被害者は発言の機会もなく、沈黙を通さ
    ざるを得なかった男性記者の奥様だと思うわ。

    骨太のノンフィクションは発行から30年近く経っても色褪せ
    ない。

  • 夏にまた沖縄旅行に行くってこともあり、このタイミングで読むことに。そもそもは、佐藤優絡みの書籍のどこかでオススメされていたはず。今に至るまで根本的解決を見ない基地問題に止まらず、沖縄返還には数多の闇があった訳ですね、やっぱり。意図的に表向きの良い顔しか見えないようにされているけど、そんな優等生的退去をする訳がないですよね、トランプを戴くことを是とするようなかの国が。でもそれが本題のはずなのに、どこかで男女のスキャンダルへと論点がずれていくという、未だに同じようなことが繰り返し行われているこの国の得意技が、本作でも存分に描かれています。当時の国民が味わったようなごまかしを、上手く追体験できるように構成されている本書。読み終わった後、自分自身もつい本筋を見失いそうになっていました。そういう意味でも貴重な読書体験になりました。

  • 2006年(底本1978年)刊行。ようやく事実の一端が垣間見えるようになりつつある沖縄返還に絡む日米間の密約。その密約を暴こうとするジャーナリストと情報提供者となった女性外務事務官との不適切な交際。一見すると下半身スキャンダルと目されるが、著者は「『情を通じたこと』と国民を欺いた政治責任が同じ秤にのるのなら、正義を愛する無頼漢になるしかない」との姿勢を貫き、一貫して佐藤栄作の政治責任を糾弾する。この観点から見た、国家公務員法違反事件の裁判傍聴録が本書。個人的には、保秘の重要性は十分理解しているつもり。

  • 熱い、本である。沖縄返還を巡る「密約」の存在に憤り、取材を進めていく。公判の様子はもちろん、当時の報道、雑誌特集などを丹念に拾い集めている。密約問題がいつの間にか「一組の男女の情事」という下卑た事件に収斂していく過程、その中で密約問題の真相究明を求める声がかき消されていく様子、その趨勢に抵抗できない無力感をありありと描く。
    そして熱さの一方で、驚くほどの冷静さを兼ね備えている。国家権力批判は通底するものの、事務官や記者に無闇にべったり、もしくは批判一辺倒に陥るのでなく、分析・記述しているのである。単なる問題意識の吐露でないところが、この本の魅力でもあると思う。
    そもそも密約ができたのがアメリカ議会対策であり、密約の存在を最初に公式に明らかにしたのもアメリカの情報公開制度である。外交に秘密は付き物であり、グレーなものも多々あろう。しかし、この件が本当に国家機密足るものだったか、その検証は必要であり、情報公開制度の充実は図られるべきである。
    最後に、この本を読んで記者有罪には疑問を持ったが、それでもやはり「正当な取材」には当たらないと考える。

  • [ 内容 ]
    沖縄返還交渉で、アメリカが支払うはずの四百万ドルを日本が肩代わりするとした裏取引―。
    時の内閣の命取りともなる「密約」の存在は国会でも大問題となるが、やがて、その証拠をつかんだ新聞記者と、それをもたらした外務省女性事務官との男女問題へと、巧妙に焦点がずらされていく。
    政府は何を隠蔽し、国民は何を追究しきれなかったのか。
    現在に続く沖縄問題の原点の記録。

    [ 目次 ]
    発端
    封印された会話
    不発弾
    自白→起訴
    出廷
    雷雨の法廷
    相被告人
    検察の論理
    最終弁論
    ひとつの幕切れ
    告白1
    告白2
    新たな出発

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • これを今読まなくてどうする!国民を欺き続けた政府。平然とウソをつく外務省。この国に民主主義はあるのか?この問題をライフワークとしている澤地さんの御健闘を祈りつつ。

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著者プロフィール

1930年、東京都生まれ。敗戦で旧満州より引き揚げる。中央公論社勤務を経てノンフィクション作家に。主な著書に『妻たちの二・二六事件』(中公文庫)、『火はわが胸中にあり─忘れられた近衛兵兵士の叛乱 竹橋事件』(文春文庫/岩波現代文庫)、『滄海よ眠れ─ミッドウェー海戦の生と死』(文春文庫)、『世代を超えて語り継ぎたい戦争文学』(佐高信との共著、岩波書店)、『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る─アフガンとの約束』(中村哲との共著、岩波書店)『原発への非服従─私たちが決意したこと』(鶴見俊輔、奥平康弘、大江健三郎との共著、岩波ブックレット)、『ほうしゃせん きらきら きらいだよ──「さようなら原発1000万人署名運動」より』(鎌田慧との共編著、七つ森書館)ほか多数。憲法「九条の会」「さようなら原発1000万人署名市民の会」呼びかけ人。

「2013年 『愛の永遠を信じたく候 啄木の妻節子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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