戦争 (岩波現代文庫 社会 155)

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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006031558

作品紹介・あらすじ

『俘虜記』『野火』で知られる著者が、自身の戦争体験を語る。数々の小説とはまたちがった、作家の雰囲気が漂う著作である。「なにか事があれば、ひどい目にあうのは、またもやわれわれ国民ではないのか。」軽妙な語り口の裏側に、戦争への激しい思い、埋み火のような執念がゆらめく。文庫初収録の作品。

感想・レビュー・書評

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  • 大正デモクラシー期に思想形成したはずだが、同世代の丸山真男らと対照的。「いつか来た道とは思わない」と、当時の左派のキャッチフレーズを容赦なく粉砕。戦場体験者だからだろうか直感めいたものがあるのかもしれない。でも核戦争や権力の横暴には強く警鐘を鳴らす。是々非々で社会を見つめているようだ。
    「戦争に行かなかった人とは話が合わない、何か違和感がある」と語り、復員兵や特攻崩れの狼藉に共感を示すのが印象的。戦後を生きざるを得なかったた戦中派の人々の気持ちに寄り添っているように見える。

  • 大岡昇平の戦争前後に渡る体験談。野火と俘虜記を読了された方にお薦めします。

    内容はやはり暗いのですが、口語体なのでどこかしれっとしていて、却って現実味を持てるというか、「生の声」といったような近しい感覚で読めました。
    大岡昇平がスタンダリアンだと知って『野火』が理解できたような気がします。


    特に俘虜体験の章が興味深いです。
    「初めは俘虜生活そのものを書くつもりだったんですが、結局、収容所の中でアメリカ人に飼われてキャッキャといってた状態と、民主主義だとかなんとかいわれてワイワイやってる現在の状態(GHQ占領期)と同じではなかろうか、どうもあらゆる点でよく似ているぞということに気がつく訳ですね」
    「日本全体が強制収容所なんだ」(マッカーサー)
    「戦場から我々には何も残らなかったが、俘虜生活からは確かに残ったものがある。そのものは時々私に囁く。「お前は今でも俘虜ではないか」と」
    「俘虜収容所の事実を籍りて、占領下の社会を風刺するのが意図であった」


    あとがきにはインタビューをした70年代当時の風潮が色濃く窺えます。

  • ざっくばらんとした語り口だけれど、「戦争」を経験したものでないと語れない戦場の様子など重く響いた。

  • 語り下ろしという手法で編纂されたエッセイ。小説 俘虜記とセットで読むと、情報が補間、強化される。特に、戦前からの著者の就職事情や小林秀雄らとの付き合いに触れる事で、俘虜記の主役である著者自身の背景を色濃く知る事ができる。

  • 『レイテ戦記』を訂正加筆中の1970年夏、3日間5時間ずつ大光社の編集者の質問事項に回答するかたちで語り下ろした半生録。大岡昇平入門に。なお「あとがき」に付された『朝日新聞』への文章は、大岡昇平を剥き出しにして一読の価値がある。

    「われわれは昔から『なんとかなるだろう』とたかをくくる癖がある。実際それで戦後二十九年、なんとかやってきたのだが、この順応性の底にあるのは、自分一人なんとかなりさえすれば、他人はどうなってもいいというエゴイズムである。ところがこんどの危機はめいめいが勝手なことをしていては、とうてい乗り切れそうもない。柄にない説教めいたことはいいたくないが、何らかの意味で、他人といっしょに自分も助かる、という心構えがなければ、自他ともども一層ひどいところへ落ち込んでしまうような気がする」(『朝日新聞』1974.1.1)

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著者プロフィール

大岡昇平

明治四十二年(一九〇九)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和七年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和十九年三月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、二十年一月米軍の俘虜となり、十二月復員。昭和二十三年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『武蔵野夫人』『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『将門記』『中原中也』(野間文芸賞)『歴史小説の問題』『事件』(日本推理作家協会賞)『雲の肖像』等を発表、この間、昭和四十七年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和六十三年(一九八八)死去。

「2019年 『成城だよりⅢ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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