イスラ-ムの世界観: 「移動文化」を考える (岩波現代文庫 社会 161)
- 岩波書店 (2008年2月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006031619
作品紹介・あらすじ
イスラーム世界では、「うごき」が重んじられる。書斎にこもらず旅にでて学ぶ大学者たち、沙漠の奥から海にでて真珠とりをする遊牧民たち、さりげなく存在する「旅人保護の精神」、「無利子金融」の制度…。永年のフィールドワークから得た知見をもとに、偏った目的志向型社会のなかで、大事なことを見失いがちな私たちの生き方を根底から見つめ直させる比較文化論エッセイ。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
2023年度【国際学部】入学前知トラ「課題図書」推薦作品
OPAC(附属図書館蔵書検索)リンク
https://opac.lib.hiroshima-cu.ac.jp/opac/volume/502388?locale=ja&target=l -
(2019/8/6)
-----
『コーランを知っていますか』を読んだら、あれ、あれ、あの本を読みなおしたいと、本棚から出してきて読む。この本は、図書館で借りて文庫を読み、文庫の底本となった同時代ライブラリー版を読み、さらに元の単行本も読んでいる(バージョンが変わるにつれて多少の手入れがなされ、骨格は同じだが、衣が身に馴染んだ感じ)。
それから6年前に文庫を買い、ときどき読みたくなって、出してきて読む。私のメモによると2011年にも読んでるし、2013年にも読んでいる。
p.201の写真には、"「生きること」は「うごくこと」.人生の大半を移動して過ごす人たち"というキャプションがついている。そういう生き方のなかからイスラームはうまれてきたといえる。
なんど読んでも、この本のテーマである移動、動くという生き方に心ひかれる。「うごき」を重んじるイスラームの世界観にふれると、自分が開かれていく感じ。移動は、いく先々で、いろんな人たちとの出会いにつながる。
著者のいう"非構造的共生"の社会がもつ寛容さの一方で、「それなりに安定した平穏な世界が、民族紛争の絶えない世界へと変化していったのは、近代西欧がこの地域にはいってきてからである」(p.158)と著者は記す。すなわち「言語が政治的意味をもつようになり、公用語が設定され、一民族一国家の理念が浸透していったのであった」(p.158)と。
国民国家誕生のきっかけは"自由、平等、博愛"を叫んだフランス革命であったと著者が書いているところが、今回読んで、ぐわーんと響いた箇所。
▼…人びとの代表は「国民国家」の名のもとに、ひとつの言語、ひとつの民族で統一しようとする政府を誕生させた。「自由、平等、博愛」をうたいながら、国内ではバスク人など少数民族にフランス語による教育を強制し、他国を侵略したナポレオンの例を引くまでもなく、排他的な愛国主義が近代の西欧世界で吹き荒れたことは、歴史がかたるところである。
つまり、一民族一国家は、はじめから神話であった。(p.147)
著者は、こうした西欧的な国民国家の枠組みがもたらした"差別的共存"のまえに、イスラーム世界には「迎え入れる文化」といったものがみられるという。こうした共生関係は、「ことなるものをことなるものとしてあっさりみとめ、相手のもてるものをこちらにもらい、こちらのもてるものを相手にあたえるといった一種の交換である「トレード」関係による共生といってもよいものである」(p.160)というのだ。
そうしたゆきかいの中から、イスラームはうまれてきた。
▼[遊牧的、商業的な]点と線の世界のなかで、目立って大きい点のひとつである都市メッカは、古くから人びとのいきかう商業都市であり、多神教の巡礼地でもあった。さきにみたように、7世紀のはじめにこの地にうまれたムハンマドは、幼少のころから、隊商にくわわってシリア方面まで移動し、商業にたずさわっていたが、長じてイスラームをおこすことになった。西欧の学者たちによって、「砂漠の宗教」とされてきたイスラームは、都市にうまれ、都市から都市へはこばれていった都市の宗教であることは、いまでは定説になっている。
砂漠性気候とはまったくことなるインドネシアやマレーシアをはじめ、20世紀にはヨーロッパ大陸、アメリカ大陸にいたるまで、全世界に10億をこえるイスラーム教徒が存在することになった。宣教師をもたないイスラームの拡大は、ひたすら「ふつうの人びと」の点と線をたどる生活空間のひろがりのなかで、なされたことであった。
そこは、これまでみてきたような「移動」をつねとする人びとの世界であり、農民も遊牧民も都市民も、個人で、あるいは集団で、はるか遠隔の地に移動していく。…(略)… 目的が明確でないことさえある。気軽な移動が、ごくありふれた日常になっている。点にたどりつくことが目的ではなく、線上にあること自体が意味をもっている。(pp198-199)
この著者の『ゆとろぎ』と、『イスラームの日常世界』も、ともに何度か読んだ本だが、こちらもまた読みなおしたい。
(2015/3/29了) -
イスラムのそもそもの始まりに動の思想がみられる。
アラビア人は砂漠の民のイメージが強いが海の民。
イスラム科学と技術開発も大航海時代に貢献した。
旅の原型は巡礼にあるといわれる。巡礼は古来より多くの地で見られる。
目に見えるものより、目に見えないものを大切にする文化はイスラムの神や祈りといった宗教的な場面にも表れている。祈る対象はもちろん神である。
飛行機や自動車の登場など20世紀に入っておこった交通革命によって中東における移動性、それにともなうネットワーク的共生社会の存在はますます強化された。 -
最近読んだ本のベスト。
移動そのものこそ目的。
これこそ旅の本。