狭山事件の真実 (岩波現代文庫) (岩波現代文庫 社会 202)

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  • Amazon.co.jp ・本 (500ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032029

作品紹介・あらすじ

四七年前の女子高校生殺人事件の被告とされ、今もなお再審を求める石川一雄氏の闘いは続く。当初全面否認した石川氏が、第一審死刑判決後までは女子高校生殺害の自白を維持したのはなぜか。本書は長時間インタビューで石川氏の内面に迫り、虚偽の自白を強いられた事情と典型的な冤罪事件に隠された謎を初めて明らかにした衝撃のルポ。再審開始は実現するか。今なお注目の事件を知る上での最良の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 冤罪の作り方、みたいなノンフィクション。全ての刑事事件において、被告人は公平な裁判を受ける権利を憲法は認めている。

  • 「狭山事件」は学生時代からよく目にして気になっていた事件である。内容はまったく知らず、埼玉県の狭山で起こった部落差別のことだろうくらいの曖昧なものであった。
    同じように「鎌田慧」というノンフィクションライターのことも気になっていたが、亡くなった時に新聞の追悼記事で初めて人となりを知る程度であった。
    今回、書店でこの本を目にして二つの気に掛かっていたことが交差しているので読んでみようと思った。
    最初からすぐに引き込まれ、知って然るべきことを今まで知ろうともしなかったことに自責の念と恥かしさを感じた。遅ればせながら読んで良かったと思う本であった。

    1963年5月、狭山市で16歳の女子高生強姦殺人事件が起こった。
    犯人とされた石川一郎は死刑執行待ちの監獄で舎監に文字を教えて貰い初めて文章が読めて書けるようになった、読み・書き・「知る」ことで「考える」こともできるようになった。逮捕された時彼は非識字者であり、仕事も定まらない24歳の労務者であった。
    そして取調べをした刑事の十年刑期の約束も自白をさせるための嘘であることを知り、言われる通り自供した自分に愕然とすることになる。
    読者は、人間にとって読み書きが出来ることの意味を痛感させられ、文盲には限られた狭い世界しかなく、普通に読み書きできる人にはその狭さがわからないことを思い知らされる。
    当時、直前に起こった吉展ちゃん誘拐事件が警察の初動ミスによる未解決で世間の目が厳しくなっていた。
    教育には程遠い同和部落の貧困のなか部落出身の石川は別件で逮捕され、警察と検察が杜撰で強引な取調べをし彼を死刑判決に導く。地元地域社会の強い差別環境も作用し、メディアもそれを煽り死刑判決で一件落着した。
    その後やっと実現した高等裁判所での再審の判決も死刑が無期懲役になるものであった。
    脅迫文や万年筆の証拠が捏造され、父のアリバイ作りと何よりも本人の自白を要因とした判決の構成が覆ることはなかった。司法も無情な差別に与した。
    事件の真相は時間とともに風化する。
    石川一郎は84歳の今も冤罪を主張して戦っている。

    鎌田慧は地道に現地を回り執念の調査と冷静な分析で、狭山事件が何であるかをもう一度解明していく。人間社会にあってはならない不条理を抉る説得力ある迫真のドキュメンタリーである。この作品は大きな力が弱者を蹂躙することに、人間として本能的防御反応が作動した傑作だと思う。

  • 著名な冤罪が疑われる「狭山事件」。この事件で雪冤が実現できていないのはまことに無念ですが、本書は狭山事件の発生、逮捕、勾留、裁判の過程を丹念に追う迫真のドキュメンタリーです。
    袴田事件などの判決文を読んでも思いますが、今の目で見ると、この時代の捜査は相当に杜撰で、物証についても、そもそも被害者など関係者の所有物なのか(関連性)自体が疑わしいものが少なからずある。これで有罪にされてはたまらんなという不正義が堂々と罷り通っている。八海事件を描いた映画は「真昼の暗黒」という印象的なタイトルでしたが、真昼の暗黒は確かに存在し、その漆黒が光で照らされることがない。不条理としか言いようがない。

  • 冤罪事件として有名な狭山事件だが、ほとんどなにも知らないまま映画「見えない手錠をはずすまで」を見に行こうとしていた。都合が悪くなりつきいち上映会に行けなくなったのでこの本を読んでみたのだが、映画よりも先に読むことができてよかった。
    文字を知らないと言うことの恐ろしさ、そして石川さんが獄中でそれこそ血のにじむような努力をして文字を学習していった部分が素晴らしい。それはあたかもヘレンケラーが水を触って言葉の意味に気がついたエピソードのような目の前がぱーっと開けてゆくような瞬間だ。
    映画はいつか必ず見に行こう。石川さんが心休まる日が来ることを願って止まない。

  • 昭和38年、埼玉県狭山市で女子高生が誘拐され身代金を要求する"脅迫状"が届く。
    身代金の受け渡し場所に現れた犯人は、張り込んでいた警察に気づき、金を受け取らずに逃走してしまう。
    捜査が難航する中、女子高生は遺体となって発見され、容疑者として被差別部落の石川一雄が逮捕される。
    石川さんは犯行を自供し、一審では罪を認め死刑判決をうけるが、一転して控訴無罪を主張する。
    控訴審で、
    ・石川さんは文字を読み書きできなかったこと
    ・兄(実は兄にはアリバイがあり犯人ではなかった)を逮捕すると言われ、身代わりとして自白したこと
    ・警察とは10年で出してやるとの約束を交わしそれを信じていたこと
    など冤罪事件であることが明らかになっていく。
    石川さんは獄中で文字を学習し、社会に無罪を訴え、仮出獄後の現在も無罪判決のために戦い続けている。

    映画「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」は石川さんたちの"人間"を描いていたので、事件の詳細を知りたいと思い読んでみた。
    映画も本書も真犯人は誰だったのかという点については、記載が少ないのだがその理由もエピローグを読むとなんとなく見えてくる。
    何かの事件が起きるたびに「こんな事をしたのだからコイツは死刑だ!」と主張する死ね死ね団のような輩もいるが、村木さんの事件やPC遠隔操作事件の最初の4人の逮捕者などをみても現在もなお冤罪事件はおき続けている。
    死刑を求めるより前に取調べの全過程録画や全証拠の開示を進めて冤罪を減らす方が先だと思うのだが。
    自分が冤罪で捕まっても死ね死ね団は自分に死刑をもとめるのだろうか…。

  • 大学生の時に出会った「狭山事件」は、明治公園での支援集会における警察・機動隊によるものものしい警備だけが印象に残っています。
    そしてその集会で地べたにあぐらをかいて仲間のろう学生に手話通訳をしている学生を見かけた事も決して忘れません。
    最初は、背中のリュックを機動隊員につかまれて「持ち物検査」された警備の厳しさが「狭山事件は何か恐ろしいモノ」と思わせたけど、狭山事件に関する勉強を重ねるごとに「狭山事件は何か大きな権力が不当に押さえつけているモノ、権力にとって都合の悪い事件」ということが僕にもわかってきました。田舎の高校を出たばかりで「部落差別」なんて言葉も全然知らなかった僕を少しずつ育ててくれた裁判でもあったと思います。
    一方でそんな集会に参加しているろう学生とその仲間の学生を「羨ましく」感じたように思います。”僕もいつかあんな風に友人のろう者に社会問題を扱った集会で手話通訳できるようになりたい。””思想・信条でも共感できるようなろうの友人を持ちたい”と思ったものです。
    さて、私の尊敬する鎌田慧さんの書かれた「狭山事件の真実」は帯にこんな風に書かれています。
    再審開始は実現するか
     事件の謎を解く労作-典型的な冤罪はいかにしてつくられたか
     石川さんはなぜ偽りの自白をしたのか
    折しも7月30日『布川事件』の再審第2回公判が行われた事を新聞が報道していました。
     鎌田さんの書かれる文章には「安易な批判」や「感情的な判断」がありません。作中に登場する人物に寄り添い「事実」だけを一つ一つ丁寧に描き積み上げていくことによって、「事実」がどれほど「裁判結果」と隔たっているかを我々に強く教えてくれるのです。
     だから前半「第6章 私は殺していない!」が始まる前までは、石川さんがむしろ自分から進んで警察の誘導に乗っかって自白する様子に歯がゆい思いをしたくらいです。
     後半は
    「第7章 見送った死刑囚と文字の獲得」
    「第8章 不思議な『証拠物件』」
    「第9章 東京高裁・寺尾判決」
    「第10章 自分で書いた上告趣意書」
    「終章  『見えない手錠』をはずすまで」
    「エピローグ」
     石川さんが獄中において文字を獲得する経過に始まり、上告趣意書を書くまでが描かれていますが、あまりにも不可思議な「証拠」ばかりで、もし狭山事件が裁判員裁判で扱われることとなったら検察及び裁判官は世間の笑いものになるのではと思います。
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  • 「弘前大学教授夫人殺人事件」「死刑台からの生還」も読もう。

  •  子供のころ、新今宮の駅前のでっかい空き地に「石川さんは無実だ」と書いた大看板が立っていました。
     警察、検察のストーリに基づいて事件を作り上げる、という構図が現在とまったく同じでした。何十年たっても、その体質が変わらないことに恐怖を覚えました。

  • 昨今、検察の証拠改竄が話題になっているが、そもそも検察の緑でもなさはこのときからあったのだなと痛感。改竄というより、そもそも明らかにおかしい証拠が証拠とされたり、捏造されたりした。前からあったのだ。今回の証拠改竄は氷山の一角に過ぎないように思う。

    取調べの時に人格を否定するようなおどしがあるということは、しばしば話題になり、近頃取調べの可視化がなされそうであるが、そもそも行政の主人公は国民である。司法行政や公安機関のろくでもなさを監視していく必要があるだろう。

    逮捕された石川一雄氏は文盲であるのだが、文字を教えてくれた刑務官もいたそうだ。多少なりとも心温まるエピソードであった。

    石川一雄氏は今もなお再審請求を行ない続けている。仮にも政権交代がなされたのであるし、早急にやって欲しいところである。
    近頃やっと司法官憲もまとも裁判をするようになってきたように感じる。但し日本の司法府の組織は異常なところが多い。裁判官の独立をもっと図るべきであろう。

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著者プロフィール

鎌田 慧(かまた さとし)
1938年青森県生まれ。ルポライター。
県立弘前高校卒業後に東京で機械工見習い、印刷工として働いたあと、早稲田大学文学部露文科で学ぶ。30歳からフリーのルポライターとして、労働、公害、原発、沖縄、教育、冤罪などの社会問題を幅広く取材。「『さよなら原発』一千万署名市民の会」「戦争をさせない1000人委員会」「狭山事件の再審を求める市民の会」などの呼びかけ人として市民運動も続けている。
著書は『自動車絶望工場―ある季節工の日記』『去るも地獄 残るも地獄―三池炭鉱労働者の二十年』『日本の原発地帯』『六ケ所村の記録』(1991年度毎日出版文化賞)『ドキュメント 屠場』『大杉榮―自由への疾走』『狭山事件 石川一雄―四一年目の真実』『戦争はさせない―デモと言論の力』ほか多数。

「2016年 『ドキュメント 水平をもとめて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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