狭山事件の真実 (岩波現代文庫) (岩波現代文庫 社会 202)

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  • / ISBN・EAN: 9784006032029

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  • 「狭山事件」は学生時代からよく目にして気になっていた事件である。内容はまったく知らず、埼玉県の狭山で起こった部落差別のことだろうくらいの曖昧なものであった。
    同じように「鎌田慧」というノンフィクションライターのことも気になっていたが、亡くなった時に新聞の追悼記事で初めて人となりを知る程度であった。
    今回、書店でこの本を目にして二つの気に掛かっていたことが交差しているので読んでみようと思った。
    最初からすぐに引き込まれ、知って然るべきことを今まで知ろうともしなかったことに自責の念と恥かしさを感じた。遅ればせながら読んで良かったと思う本であった。

    1963年5月、狭山市で16歳の女子高生強姦殺人事件が起こった。
    犯人とされた石川一郎は死刑執行待ちの監獄で舎監に文字を教えて貰い初めて文章が読めて書けるようになった、読み・書き・「知る」ことで「考える」こともできるようになった。逮捕された時彼は非識字者であり、仕事も定まらない24歳の労務者であった。
    そして取調べをした刑事の十年刑期の約束も自白をさせるための嘘であることを知り、言われる通り自供した自分に愕然とすることになる。
    読者は、人間にとって読み書きが出来ることの意味を痛感させられ、文盲には限られた狭い世界しかなく、普通に読み書きできる人にはその狭さがわからないことを思い知らされる。
    当時、直前に起こった吉展ちゃん誘拐事件が警察の初動ミスによる未解決で世間の目が厳しくなっていた。
    教育には程遠い同和部落の貧困のなか部落出身の石川は別件で逮捕され、警察と検察が杜撰で強引な取調べをし彼を死刑判決に導く。地元地域社会の強い差別環境も作用し、メディアもそれを煽り死刑判決で一件落着した。
    その後やっと実現した高等裁判所での再審の判決も死刑が無期懲役になるものであった。
    脅迫文や万年筆の証拠が捏造され、父のアリバイ作りと何よりも本人の自白を要因とした判決の構成が覆ることはなかった。司法も無情な差別に与した。
    事件の真相は時間とともに風化する。
    石川一郎は84歳の今も冤罪を主張して戦っている。

    鎌田慧は地道に現地を回り執念の調査と冷静な分析で、狭山事件が何であるかをもう一度解明していく。人間社会にあってはならない不条理を抉る説得力ある迫真のドキュメンタリーである。この作品は大きな力が弱者を蹂躙することに、人間として本能的防御反応が作動した傑作だと思う。

  • 昭和38年、埼玉県狭山市で女子高生が誘拐され身代金を要求する"脅迫状"が届く。
    身代金の受け渡し場所に現れた犯人は、張り込んでいた警察に気づき、金を受け取らずに逃走してしまう。
    捜査が難航する中、女子高生は遺体となって発見され、容疑者として被差別部落の石川一雄が逮捕される。
    石川さんは犯行を自供し、一審では罪を認め死刑判決をうけるが、一転して控訴無罪を主張する。
    控訴審で、
    ・石川さんは文字を読み書きできなかったこと
    ・兄(実は兄にはアリバイがあり犯人ではなかった)を逮捕すると言われ、身代わりとして自白したこと
    ・警察とは10年で出してやるとの約束を交わしそれを信じていたこと
    など冤罪事件であることが明らかになっていく。
    石川さんは獄中で文字を学習し、社会に無罪を訴え、仮出獄後の現在も無罪判決のために戦い続けている。

    映画「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」は石川さんたちの"人間"を描いていたので、事件の詳細を知りたいと思い読んでみた。
    映画も本書も真犯人は誰だったのかという点については、記載が少ないのだがその理由もエピローグを読むとなんとなく見えてくる。
    何かの事件が起きるたびに「こんな事をしたのだからコイツは死刑だ!」と主張する死ね死ね団のような輩もいるが、村木さんの事件やPC遠隔操作事件の最初の4人の逮捕者などをみても現在もなお冤罪事件はおき続けている。
    死刑を求めるより前に取調べの全過程録画や全証拠の開示を進めて冤罪を減らす方が先だと思うのだが。
    自分が冤罪で捕まっても死ね死ね団は自分に死刑をもとめるのだろうか…。

著者プロフィール

鎌田 慧(かまた さとし)
1938年青森県生まれ。ルポライター。
県立弘前高校卒業後に東京で機械工見習い、印刷工として働いたあと、早稲田大学文学部露文科で学ぶ。30歳からフリーのルポライターとして、労働、公害、原発、沖縄、教育、冤罪などの社会問題を幅広く取材。「『さよなら原発』一千万署名市民の会」「戦争をさせない1000人委員会」「狭山事件の再審を求める市民の会」などの呼びかけ人として市民運動も続けている。
著書は『自動車絶望工場―ある季節工の日記』『去るも地獄 残るも地獄―三池炭鉱労働者の二十年』『日本の原発地帯』『六ケ所村の記録』(1991年度毎日出版文化賞)『ドキュメント 屠場』『大杉榮―自由への疾走』『狭山事件 石川一雄―四一年目の真実』『戦争はさせない―デモと言論の力』ほか多数。

「2016年 『ドキュメント 水平をもとめて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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