十七歳の自閉症裁判――寝屋川事件の遺したもの (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032043

作品紹介・あらすじ

二〇〇五年二月、大阪の小学校で教師殺傷事件が起きた。犯人は対人関係にハンディキャップのある十七歳の少年。「凶悪不可解な少年事件」に少年審判や刑事司法はいかに向き合ったか。動機や責任能力をめぐり精神医学が直面した難問とは何か。真の贖罪・更生には何が必要か。綿密な取材から描く迫真のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • ー事件取材を続けてきて改めて痛感することは、孤立をどう防ぐかということだ。「自立」と孤立は異なる。「自立」とは、自分が生きていくために必要な「人とのつながり」を作っていくことだ。

    大阪の小学校での教師殺傷事件のルポタージュ。
    犯人は対人関係にハンデキャップのある十七歳の少年。

    ○少年犯罪の目的を考えるときに、「更正」を目指す為の審判と、刑事裁判となったときの「刑罰」の為の審判とのジレンマ
    ○少年犯罪、少年法の厳罰化の社会的アピールよりも「再犯」を防ぐ為の処遇内容について目を向けるべきである。
    ○広汎性発達障害がある犯罪者の責任能力と法との整合性について
    ○広汎性発達障害について法関係者、社会がきちんと知ることへの必要性
    の2点の問題提起が強いルポ。


    本書を通して、「広汎性発達障害」自閉症圏域で生きる人の世界を専門的な見地からわかりやすく解説してあり、その世界を垣間見ることができた。また、そのうえでの生きづらさについて丁寧な取材を通して、客観的に触れられていた。だからといって、それについての情状酌量といった話ではなく、それゆえに本当の「更正」を目指す上で必要なものは刑罰だけでは補いきれない障害の特異性。

    刑罰を考えるうえで、「社会感情」や「社会的影響」についてこれほどまでに影響があるとは知らなかった。ゆえに、社会の、わたしたちの理解の浅さも一因であると深く痛感した。少年法が「更正」を目指すためのものであることも、「更正」を考える時に一番適切な処遇というのはそれぞれケースにより異なるということ。事件の重大性が大きい程、きめ細やかな処遇が必要不可欠である。そう考えると、やはり量刑のみでの審判ではなくその後の「処遇」まで見据えた審判が必要なのだろうと感じた。しかし、その足かせとなっているのがやはり社会の認識にあるのだろう。

    そして、
    ー法体系では「責任」を担うべく「自己」という確固たる近代的個人概念が前提となっているが、そこにすでに、他人の表情や感情をキャッチする能力、とくに意図しなくても相互交流できる能力、といった対人相互性が前提となっている。しかし彼らは、その時点ですでにハンデキャップを持っている。このことを、法との整合性でどう考えたら良いか。
    この問題的には本当に根本的な概念を議論し直す必要があると痛感した。

  • 地裁の判決文に非常に苦労が偲ばれる。ただ、素人判断ではあるが、自閉症というより統合失調症に思えてならない (p.198で否定しているのは解離性障害ではないか?)。[more] そのためなのか判らないが、「人を刺す(ことで死亡する)」と「自分を刺す(ことで自殺する)」の2点が、どこまで一致していたのだろうかという疑問をぬぐえないままとなってしまった。この意味では高裁の「未必的殺意の限界線上」というのが司法の判断だろうか。
    厳罰化が社会の要請としてあり更生の場として(少年)刑務所の充実が図られるのであって、弁護人の言う「拡充を持って逆送をしやすくなる」というのは本末転倒の解釈に思える。また、刑務の現状を持って減刑をするのも本末転倒ではないか。
    ちなみに、犯行に及ぶ前のセーフティネットを拡充する必要性が最後にとってつけたように書かれているが、それも大事でありその点は他本の方が参考になると思う。

  • 2014.11―読了

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99226932

  • NDC(9版) 326.23 : 刑法.刑事法

  • 広汎性発達障害や、少年法・刑法、矯正のありかたなど、丁寧に書かれており、引っかかるところが少なかった。広汎性発達障害という概念の登場で、教育、医療、法が今後変わっていかざるを得ないことが本書からもよくわかる。

  • 前作の、著者の考えや分析や洞察とかがよかったので、前作よりかなり少ないのがざんねんでしたが、
    専門家たちの証言やことばインタビューなどはよかったです。特に十一さんのところ。

    意見陳述?っていうのかな、
    被害者のつらさしんどさはわかるけと、学校教育者なんだからもうちょっと言うことないの?うらみつらみばかりじゃない?
    そこの部分で正直なところ思った感想です。

    そんなこんなを含めて、考えることのできるよいルポです。

  • 裁判内容の引用が感情的にならず的確だった。著者の主観が入りすぎず、事実に即して分析するだけに止めてある。これが読み進めていく上で邪魔にならず読みやすかった。裁判所は熟慮して判断を下したと言えると思う。読んでいて、この様な事件を扱った事例が少数であるためか裁判所側の困惑を浮き彫りしていると感じた。

  • 広汎性発達障害への理解が深まった。少年院と少年刑務所の違いもわかった。とてもよく整理されていて、作者が提起している問題も明確に示されていた。

  • とてもよいルポルタージュになっている。きちんとした取材と感情的に傾かない論評が好感を持てる。裁判の引用が多いのがよい。レッサーパンダ帽の裁判はとてもひどいものだったが、それと比べるとこの事件はそれなりに前にすすんだ裁判内容になっている。がしかし高等裁判所の判断のしかたはあっけにとられてしまうくらいにドカチ頭杓子定規だった。

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著者プロフィール

1953年、秋田県生まれ。2001年よりフリーランスとして、執筆や、雑誌・書籍の編集発行に携わる。1987年より批評誌『飢餓陣営』を発行し、現在57号。
主な著書に『自閉症裁判』(朝日文庫)、『知的障害と裁き』(岩波書店)、近刊に、村瀬学との共著『コロナ、優生、貧困格差、そして温暖化現象』(論創社)、『津久井やまゆり園「優生テロ」事件、その深層とその後: 戦争と福祉と優生思想』(現代書館)がある。

「2023年 『明日戦争がはじまる【対話篇】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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