なぜ日本は没落するか (岩波現代文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032050

作品紹介・あらすじ

このままだと日本は必ず没落する…。一九九〇年代末に著された本書は、二〇五〇年を見据えて書かれているが、驚くほど現在の日本がおかれた状況を予見している。なぜそうなるのか。日本人の精神性と日本の金融、産業、教育の構造的欠陥を舌鋒鋭く指摘し、唯一の救済策「東北アジア共同体」構想を示す。

感想・レビュー・書評

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  • この本のはしがきは一九九九年一月六日の日付です。
    そこで森嶋さんは、日本は今危険な状態にある。日本はどうなるかと誰もがいぶかっている。わたしも本書で、照準を次の世紀の中央時点―二〇五〇年―に合わせて、そのときの暴落しているかどうかを考えることにした。
    そのためには、まずなぜこんな国になったのかが明らかにされねばならない。それと予測が本書の問題である。
    と記載されています。

    この本で森嶋さんが心配して予測をした2050年よりもはるかに早い現在の二〇二二年の時点で、もうすでに日本の没落、日本人の衰退が顕著になってしまっています。

    現実を見ることは悲惨である。彼等の人生、そのためには、現在の彼らのでてきた背景をもう少し深く観察する必要がある。

    現在の日本はいたるところの部門で精神的に崩壊している。こういう人に「頑張れ」と言っても無理である。彼等でも再起可能なように環境を変えて、彼らを力づけてやることが、まず第一に重要である。

    没落した国民は、発言力が弱くなり、世界史はその国民を無視ないし置き去りにして前進していく。
    歴史への貢献度は非常に低くなってしまうから、そんな国民は一流国民と見られることはない。

    停滞が続けば、せいぜいよくて、人々が過分の物質的生活を享楽して時を潰すだけの国に終わってしまう。

    道徳の退廃は思想的危機である。
    日本では性的なモラルが他国より桁外れに退廃しているとみてよいであろう。

    日本は卑屈なまでに忠実な敗戦国

    徳川末期に欧米の使節団が日本にきて日本人に下した採点は、文化的にも経済的にも程度は高いが、政治的には無能であるということが現代でも同じ。

    国民は無気力であり、国民が無気力だから政治は悪いままなのだ。
    こういう状態は、今後50年近くは確実に続くであろう。そのことから私たちが引き出さねばならない結論は、残念ながら日本の没落である。
    このままでは私たちの子供や孫や曾孫たちがあまりにも可哀想だ。

    無気力な「土台」が続く限り、日本は没落を止めることができないだろう
    非弱く自信のない構造の下では、日本は蟻地獄を脱出する力を持たず、土台は動かず、日本の苦悩は長く続くしかない。

    日本に今必要としているのは記憶力に優れた知識量の多い、いわゆる博学の人ではなく、自分で問題を作り、それを解きほぐすための論理を考え出す能力を持った人である。

    「アジア共同体」ができないようなら日本は孤立、衰退することになるだろ。かって繁栄し、衰退したローマ帝国やスペインのように。

    負けた場合、なぜ負けたかをだれしも考える。反省してまた挑戦し、また負ける。負けた人はその原因を、間違った事実―日本人だから―に帰着させてしまう。
    そうするとその人は一転して門戸を閉ざして鎖国派に転じる。そういう人は、外国の悪い点を一々摘発して、外国憎の悪夢を膨らませていく。
    そして日本が正しかった事実にばかりに眼を向けて、日本はこのようにいつでも正しいのだと主張する。

    しかしなにが「正しい」のかの判断も一定不変ではない。

    読み終わった後で、どのページか探せなかったのですが、この本のどこかに記載されていた、「多くの日本人は善人だけれども、力の弱い人」であり、私はそういう人が大嫌いだと、厳しく書かれています。
    言われてみれば、そういう人達というのは考えてみると、要するに人間としては「赤ん坊」や「子供」と同じようなわけです。
    つまり大多数の日本人達というのは、人間としてはたとえ善人だとしても、「赤ん坊」や「子ども」と同じように、「力の弱い」「力のない」人間達なのだということを思わざるをえませんました。

    悲惨で惨めな現在の日本人の置かれている境遇を直視していき、いま現在と将来の日本と日本人に明るい見通しがなくとも、日本人同士が力を合わせていき、一人でも多くの日本人達が「力の強い人」に成長をしていく以外にはないわけです。

  • 1999年に書かれた、経済学者である森嶋道夫氏の本。
    2050年の日本を予想している。

    社会は経済ではなく「人」がベースになっており、その(日本)人を分析して未来を予測することで、2050年を予測している。

    「人」「精神」「金融」「産業」「教育」という観点で論を進め、最後に「解決策」を1つ提示して終わる。概ね納得。2020年現在、たしかに森嶋氏の予測通りに社会は劣化が進行している。おそらく、氏の予測より状況は酷くなるだろう。

    最後の解決策である「東北アジア共同体」については、現在のEUを見ると各国が独自の金融政策が行えずドイツの一人勝ち状態で通貨統合した悪影響がかなり出ているので、正直そのまま実行したいとは思えない。ただ、中国や韓国そして台湾と過去の歴史を精算して、アジアの一員として協力して進んでいく、という方向性は正しいと思う。

    私は、仮に中国が共産党政権でなかったとしたら、「アメリカ」と「中国」どちらを選ぶ?と問われれば、間違いなく「中国」を選ぶ。日本は2000年近く前から中国の様々な文化を受け入れて発展してきた。儒教などの思想的バックボーンも共通しているし、日本人ほど中国の歴史や文化(特に料理)に親しんでいる他国民はいない。なぜか日本では中国蔑視をする人が多いが、歴史を知ればこの100年が例外だっただけだろう。「共産党政権」が最大のネックではあるのだが、解決策はあると思う。

    まぁ、今は韓国との関係性は最悪と言える状況になってしまっているが・・。これも氏が予測した「人の劣化」の結果だろう。当時から右傾化を心配されてたみたいだけど、たしかにネトウヨが明らかに社会に悪影響を与えてしまっている。

    しかし、この本書かれたの20年前なんだよな。。
    最近私は昭和の偉人から学ぼうと思って、社会科学系の色んな学者の昔の本を読んでいる。そして、だいたいこの2000年前後に、危機意識から未来の日本を予測した本を書いてることが多い。この本もその1つ。そして、その予測は概ね当たっている。問題の原因(根っこ)もだいたい同じ。20年経った現在は、さらにその問題が酷くなっている。

    情けないのは、問題がわかっているのに20年間放置して状況を悪化させたこと。この本にも人は政治(トップ)から腐敗すると書かれているが、現在の安倍政権の体たらくを見ると説明不要。国民の政治への無関心は2000年当時からさらに酷くなった。森友や黒川問題含め不正続きの政権が、コロナ禍で「GOTO」や(2枚目の)アベノマスクなど、もはや笑うしかない対策を打ち出し続けている。

    これは2050年を待つまでもないな。。

    最後に1つだけ苦言。
    氏は1923年生まれで2004年に鬼籍に入られているわけだが、中国・韓国との関係性については、氏の世代の人間にある程度は解決しておいてもらいたかった。我々は戦争も経験・記憶しておらず当事者ではない。当事者でない者は、今の韓国を見てもそうだが、たいてい感情論にしかならない。知らないのだから。戦争を経験した世代が分析・反省・謝罪せず次世代に問題を残してしまったことが、現在の中国・韓国問題の根本だと私は思う。ドイツはそれをやったからこそ、現在のEUの地位がある。その立場を忘れて、この本でも好き勝手書いているが、そこだけは納得できなかった。

    全体的には、2020年現在だからこそ、読むべき本だと思う。

  • 最初の印象は、生臭い「徒然草」のようだったのだが、読み進むうちに、かなり熱を孕んだ遺言のようなものに見えてきた。
    50年後の社会は、現在の小学生が官僚トップに、中学生が財界トップに、大学生が政界のドンになることを想像すれば、どの程度の社会になるのか見える・・・これは結構キビシイ見方であり、「いつの世も若者は頼りない」ということに過ぎないのかもしれないが、精神も金融も産業も教育も、このままでは荒廃していくという森嶋先生の警告は、感覚として頷いてしまう人が多いだろう。
    解決の方策として、欧州共同体ならぬ東洋共同体を提言する。アメリカはいざとなると日本ではなく中国を取るであろうという洞察は、イギリス仕込みの素直な解釈であろう。そうなる前に日本としての打ち手は?というのが難問だ。安倍さんに聞かせたい話ではないか。うなずける点もあるが、。中国や韓国との間に日本が問題意識を共有できることができるかは疑問。

    あと、英語をよく使う人の文章によくあるように、明快で大ぶりな文章。

  • 2021年7月読了。

  • 1999年に2050年を見通す。
    日本人が没落するのは、1940年体制に甘やかされて、自主自立を忘れたから。終身雇用、年功序列。企業別労働組合。仲良しクラブ。在野の精神欠如。歴史問題を直視しない幼稚なナショナリズム。国際感覚のなさ。

  • この問いをもったすべての人にとって、没落中の日本人として何ができるのか、自ずと答える必要を感じさせてくれる好著。

  • あの森嶋先生が90年代末に書いた2050年を見すえた書。
    正直、読後感は悪い。
    森嶋先生自身、「経済学、社会学、教育学、歴史学など取り混ぜた社会科学領域での一種の学際的研究-私がかつて交響学的社会科学と呼んだもの-」を歯に衣着せぬ語り口で、日本の没落を論証している。
    人口の分裂、精神・産業・金融・教育の荒廃、、、
    教育の荒廃についての具体的提案ついて、大学進学率を12-15%に押さえるとか、大学と専門部を分けるということは過激に見えて実はそのくらいしないと没落は防げない状況なのかもしれない。
    また、「唯一の救済策」として提案されている「東北アジア共同体」構想を提案するには今のタイミングは最悪と言える。
    森嶋先生が「没落論」で無視しているという天災地変として東日本大震災が起こった。このことが日本を日本人を変える「外生的要因」になるのかどうか。

  • 1999年に2050年を予測してなぜそのときにこのままだと日本が没落し、また没落しないための希望について書かれているが、2050年をまたず、現在の状況はこの本で予想されている状況に大変似通っている。
    現在の日本の停滞ぶり、あるいは没落への坂を下り始めた状況の原因が何であるかを知りたい人はこうして文庫としても出たので手に取ってみるべきだろう。

  • 1980年高齢者が最低クラスだった、2010年にはトップクラスになっている。
    しかも老人が伝統的な日本文化を身につけていて、生まれてくる若者が欧米文化を身につけている文化交代は集団の質を激変させる。
    官僚出身でない政治家はぱっとしない。
    日本のような儒教国では一は教育のあるものとないものに分けられる。
    政治家に最も近い類型は宗教かである。日本で全体のことを考える人たちは宗教に走るであろう。
    日本が今、必要としているのは記憶力に優れた知識量の多い人ではなく、自分で問題を作り解決できる人。

  • 非常に示唆に富んだ批評だった

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