歌集 小さな抵抗――殺戮を拒んだ日本兵 (岩波現代文庫)

著者 : 渡部良三
  • 岩波書店 (2011年11月17日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032340

作品紹介

アジア太平洋戦争末期、中国戦線で中国人捕虜虐殺の軍命を拒否した陸軍二等兵の著者は、戦場の日常と軍隊の実像を約七百首の歌に詠んだ。そしてその歌は復員時に秘かに持ち帰られた。学徒出陣以前の歌、敗戦と帰国後の歌も含めて計九二四首の歌は、戦争とその時代を描く現代史の証言として出色である。戦場においても、人を殺してはならないという信条を曲げなかったキリスト者の稀有な抗いの記録である。

歌集 小さな抵抗――殺戮を拒んだ日本兵 (岩波現代文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 渡部良三『歌集 小さな抵抗 殺戮を拒んだ日本兵』岩波書店、読了。神は「汝殺す勿れ」、軍人勅諭は「下級のものは上官の命を承ること、実は直に朕が命を承る義」と命じた。著者は前者を選んだ無教会キリスト者。学徒出陣で中国へ。度胸試しの捕虜刺殺を拒否し半殺し。その折り詠んだのが本書の歌

    捕虜虐殺を拒否し、戦場では敵を殺すまいと銃弾をそらしたが、皇軍の略奪や強姦を止めることができなかったことが重い自責となり、長く沈黙を続けた。せめて孫には語りたい…衣服に縫いつけた短歌のメモを92年に私家版として編んだ。

    冒頭で、抗命時の連作短歌が掲載され、以後、日本軍の作戦や出来事について作品を掲載。学徒出陣から復員までの体験が続く。もし自分が戦場で捕虜虐殺を命じられたのならどうするのだろうか。読了後、雄弁に何も語れなくなった。

    言うもならぬ現実(うつつ)ぞいまし演習に新平(へい)十人は一人を刺して

    祈れども踏むべき道は唯ひとつ殺さぬことと心決めたり

    三八銃両手(もろて)にかかげ営庭を這いずり廻るリンチに馴れ

    稀有の人間記録だ。

  • あらたまり眉張り非戦をのたまえり荒野のさまの国原に父は
     渡部良三

     太平洋戦争末期の1944年、作者は陸軍2等兵として中国の小さな村に派遣された。22年(大正11年)、山形県生まれで、当時は中央大学在学中。いわゆる学徒出陣の1人であった。
    掲出歌は、出征直前の数時間、キリスト教を信仰する父と静かに語り合ったときの情景。「非戦」を思う父子は、教育訓練として「殺人演習」が待ち受けていることなど、想像さえしなかっただろう。
     だが、新兵の作者に、上官は命じた。「度胸をつける」ため、八路軍の中国人捕虜5人を殺せ、と。捕虜のなかには、同世代としか見えない若者の姿もあった。
     軍隊では上官の命令は絶対であり、作者はためらい、迷う。日本人の義務として兵役は拒否せずに来たものの、人間を殺してはならない、という倫理を覆すことは難しい。逡巡の末、拒否を選んだ作者の横で、同期の戦友たちは震える手に「刺突銃」を握り、突撃を始めた。

      逃げ処【ど】なきこころ抑えて戦友【とも】の振るう銃剣の音耳ふたがずにきく

     虐殺をしなかった作者に、私的制裁は執拗なまでに続けられた。
      
      かほどまで激しき痛みを知らざりき巻ゲートルに打たれつづけて

     そのような体験を、短い手洗いの時間にかろうじて短歌に書きとめた。戦後、その紙片をばらばらにして衣服に縫い込み、復員。それらが歌集に編まれたのは、90年代になってからのことだった。長い歳月を要した、その心の奥底にも思いをはせたい。

    (2012年8月5日掲載)

  • チェック項目9箇所。双乳房を焼かるるとうにひた黙す祖国を守る誇りなるかも。「赤子」……終戦まで、将兵を天皇の子と見立ててこう呼んだ。「現人神」……終戦まで天皇をこう呼んだ(昭和天皇裕仁を指す)。旧日本帝国陸軍には、新兵が入隊、転属などしてくると、その新兵に支給されている、新しい衣類を物干場で盗み、自分の古着と交換する風習があった、盗まれた新兵の方に代替衣袴等が残されていないと、盗まれた新兵は「とろい」という理由で隣地を受けなければならなかった。当時の私は「慰安婦」は韓国人女性自らの意志によるものと教えられていた、しかし敗戦後45年たった1990年になって、韓国人女性に強制したものである事を、韓国人の詩によって知った。「千人針」……初めは「虎は千里を走って千里を戻る」の伝説から、寅年生れの女千人の手になったものといわれる。第二次世界大戦及びそれをさかのぼる昭和初期以来の侵略戦争は、すべて昭和天皇裕仁の裁可によって行われたものであることに目をそむけてはならない。日本軍の、捕虜に対するありようは、国際法も捕虜に関する条約も全く念頭にない、「今日は殺人演習だ、捕虜を藁人形代りに殺させてやる」と言うのだ。野外演習でリンチされ失心して放置されていた所を、中国人が兵営に運び込んでくれ、休養室に収容された事があった、衛生曰く「馬鹿だなぁーお前。目をつむって一突きすれば済むじゃないか。愚直に過ぎるよ」、この衛生兵は、隊を同じくしている間、私には優しくしてくれたが、この時の一言は恐ろしかった、その言葉の底に潜む人命軽視、異民族差別、蔑視を想い、体が震えた、今日尚日本人の血に流れている人間観なのだ。

  • 短歌としての出来は分かりませんが、このような歌集が世に出たことが驚きです。よく生きてしかも原稿を持ち帰れたことに★5でもいいと思います。そして、こういう方がおられたことで、日本人として救われました。
    それにしても、天皇に関することでも意見をはっきり述べられていて、こういう本を出版された岩波書店にもさすがと尊敬の気持ちを持ちました。

  • 今更ではありますが、当事者の体験を語られることで、当時の残忍な戦争の中身を実感することができました。
    虐殺・・とひとつの概念に束ねられると薄らいでいく実感も、ひとつひとつの体験として語られると、短歌というわずかな文字ですら訴えるものがある。
    天皇責任についても明確に述べられていることに驚いた。
    どうしてこのような見解が、そこかしこで見かけることができないのだろう。

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歌集 小さな抵抗――殺戮を拒んだ日本兵 (岩波現代文庫)はこんな本です

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