- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006032807
作品紹介・あらすじ
温暖化の背後から静かに、しかし確実に聞こえてくる気候変動の足音。地球は、これまでどう変わってきたのか。これからどう変わってゆくのか。謎の解明にいどむ科学者たちのドラマを、スリリングなストーリー展開で描く。日本の科学ノンフィクションに新たな地平をひらいた、講談社科学出版賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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面白かった!
いえ、気候変動のメカニズムとして書いてある内容はほとんど理解できていないけど、それにも拘わらず、面白かった!と思わせてくれる本です。
資料を駆使して、よくわからない読者にも、なんかわかった気にさせてくれる構成力、文章力が素晴らしい。
海底の資料を顕微鏡で覗く地味な作業を発端に、太古の時、宇宙へと思考が広がっていくのが、なんとも素晴らしい!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本の紹介サイトHONZ主宰の成毛さん(元日本Microsoft社長)が同サイトを立ち上げるきっかけになったと成毛さんによる解説に書いてある。ちなみに、この成毛さんによる解説だけでも読む価値がある本。
成毛さんは、「残念ながら日本には科学読み物を専門とするライターすらいないのが現状だ。ほとんどの科学読み物は現役の学者が編集者に懇願され、研究の合間に書いているようだ」と書くが、まず同感。例えば、サイモン・シンのような書き手は日本にはいない。続けて「ところが例外的に本書は、ひとたび英訳されることがあれば、英米でも間違いなくベストセラーになるであろう素晴らしい科学読み物に仕上がっている稀有な本なのだ」と言うが、こちらも全く同感で、日本人でも骨太なサイエンスノンフィクションを書くことができるんだというのがこの本を読んでいたときにずっと受けていた印象だ。
地球温暖化問題はポリティカルな問題も絡まって色々な誤解に囲まれているように思う。そういった状況がある中で発生した原発事故もさらに問題を難しくしている。元々は原発によって、火力発電から発生する二酸化炭素の量を減らすことができるとされていたからだ。温暖化問題と原発問題は、背景となるべき科学的な議論を飛ばして極論や、ときに感情論でもって議論がなされるという点も類似している。様々な擾乱要素や確率的な事象がある中で、地球規模の影響を議論するにおいては、徹底的に科学的な考え方が必要になるのは自明であるにも関わらず、ときに論理を先において、そこに合う事実だけを都合よく取り出すような議論がまかり通っているように思われる。本書は、このような問題をはらんでいる温暖化問題に関して、よって立つべき科学的論拠を提供しようとするものである。
本書は、地球規模の気候変動という課題に対して、必要と思われる科学的事実と考察を積み上げていく。古代の海水温の変動を海底堆積物の酸素同位体含有率から算出したり、グリーンランドや南極の氷床に含まれる酸素同位体分析から古世代の気温を推計したりといった研究がその背景や根拠も含めて丁寧に紹介される。さらにスケールを広げて、地球の楕円公転軌道の離心率と歳差運動、自転軸の傾きによるミランコビッチ・フォーシングと呼ばれる数万年規模の周期的な変動についても解説される。これらにより、地球が氷期・間氷期を移行してきた事実がある程度の範囲で説明される。大事なことはすべてを定量的に語ることだと意識されている。そして、こういった説明においても中心となる人物のキャラを立たせて語ることができるのが、この著者がノンフィクションライターとして評価されるべきところだ。
先に挙げた長期周期の変動がある一方、重要なこととして、気候変動が数十年というような比較的短期間で起きることがあるという知見が氷床の研究などから得られているという。それらの気候変動イベントには、ヤンガー・ドリアス・イベント、ダンスガード・オシュガー・イベント、ハインリッヒ・イベント、などと名前が付けられているものも多い。そのようなイベントは、たとえば海洋深層水の循環に変動が起きるときなどに発生しているようだという。
このような短期間の気候変動は、地球の気候システムが線形ではなくヒステリシス特性をもっているということを示しているという。人類の活動によって二酸化炭素という温暖化ガスが増えていることは否定のしようがない事実である。また、気温が実際に上昇をしていることもある程度確実なようである。ただ、人類が排出する温暖化ガスが起こす温度の変化は、統計的な温度の変動と比べて十分に小さいという意見があることも確かだ。しかし、危険なのは、温暖化ガスの放出が最後の引き鉄になって非線形である地球気候システムのヒステリシスを超えて別の相に変換させてしまう可能性があるということだ。地球の気候システムは複数の安定解を持つ方程式に従っており、その間を切り替わるような非線形システムであるというのが著者の見解でもある。そして、そのシステムはときに数十年といったかなり短期間に大規模に再編しうるというのだ。懸念されるべきは、二酸化炭素の一定度の増加が最後の「ひと押し」になって、複雑な気候システムの暴走が始まることだ。むろん今の状態であれば「ひと押し」には全く足りていない可能性もある。複雑系である全地球気候システムにおいて、 現時点では確実に何が起きるということは言えないというのが本当のところなのだろう。しかし、現時点で何も手を打たないことはロシアンルーレットをやっているようなものだという。このまま温暖化ガスの排出を放置することは共有地の悲劇を生むことになりかねない。こういったことが、IPCCが生まれ、京都議定書などが生まれた背景にあることについて理解がされなくてはならないのだ。
地球温暖化というような大きな規模の議論をするにあたり、何を守るべき価値とするのかについても意見の一致が見られていない。個々の社会なのか、人類なのか、生物なのか、地球それ自体の環境なのかによっても答えは違ってくる。また、自分が生きている間なのか、われわれを含む数世代なのか、何万年も続く未来の子孫なのかによっても答えは違ってくる。答えることができる範囲も違ってくる。立てられる問いが異なっていれば、答えも違うし、その答えを得るためのツールも違ってくることは明白だ。
「何かが起こり始める可能性があると最初に知るのは科学者だ。ならば、それが起きないように軽傷を鳴らすのは、科学者の務めではなかろうか。可能性を認識しつつも無作為なのは、罪を犯しているのと同じことだ」というのが科学者の倫理であり、著者の矜持というものなのかもしれない。
骨のある本。おすすめ。
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Kindleで読むとせっかくの図や写真が小さく、これは他のものでも同じなのでよいが、巻末の脚注がひとつひとつ改ページされてしまう。おかげで途中までものすごく長い本に見えた。Kindleももう少しかな。それでも、もう少しKindle本化が進んでほしい。 -
気候変動に関する研究とそれが生み出されてきた歴史について描かれる骨太な科学読み物。
正直なところ、すべて理解できた訳ではないが、そてでもとても面白く書かれていて、多少飛ばし読みしてもついて行くことは出来た。
地球の過去の温度がどう推定されてきたのか、地球の温度はどうして変化するのか、その変化はどの程度のスパンで起こるのかなど、素人にも分かりやすく説明される。
読み終えると、なんだか賢くなった気がする一冊だった。
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気候変動というと、センセーショナルな話題とか、社会的経済的側面からのやや感情的な話題とか、そういうのが多い気がするが、この本はそういったものとは一線を画す。
今だけに限らず長期的な視点でとらえているのと、科学的な見地から冷静に気候変動現象を解説しているところがよい。 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001059779
*第8章より、2021年ノーベル物理学賞受賞者 真鍋淑郎氏の研究内容登場 -
気候変動のシステムの解明を目指す、一世紀にも渡る科学者達の成果をまとめた本。何故過去数万年の気温を推定することができるのか、目前に生じ得る地球温暖化のイベントとは何か、その答えが分かる、、、?
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長男が大学の授業で本書を紹介されたそうだ。「もってる?」と聞かれたが、もってなかった。10数年前なら、もうほとんど単行本は読んでいなかったし、地球科学への興味もまだそれほどだった。それでも、文庫になった段階で気付いておきたかった。それが2年前の出来事。今回、ツイッターの写真に本書が写り込んでいて、ふと読んでみようという気になった。で、書店で購入。これは、もっと早くに読んでおくべきだった。解説にもある通り、日本では珍しいタイプの本になるのかもしれない。専門的な内容プラスそういう考えが生まれてくる歴史的背景が語られている。わくわくしながら読み進めることができた。でも何しろ量が多いので、覚えていることはわずかだ。特に印象に残っているのは、二酸化炭素濃度を測定したグラフのこと。途中で切れている部分があるが、それは、資金切れによる欠測だとか。そんなことがあるんだ。何度も授業で話してきたのに。今後、これはネタに使えそうだ。それから、地軸の向きが少しずつ移動しているのは知っていたが、1万年以上前には北極星がベガだったこともあるということ。現在、ほぼ頭の真上を通って行くことを考えると恐るべきことだ。これは、すでに授業のネタに使わせていただいた。さて、先ほど日本には珍しいと書いたが、本書のあとから出てきたものかもしれないが、ブルーバックスの地球科学系のものを最近よく読むが、わりと研究の歴史を組み込んだものは多い。一般読者としては良い傾向だと思う。さらに、日本にもサイモン・シン(ネットで見たら自分と同い年だった。知らなかった。)並みのサイエンスライターが出てきてくれることを期待している。ところで、マイクル・クライトンの作品の中にあったことだが、地球温暖化という問題は、恐怖を通して社会統制を行なうために採られた策だということ。その前には冷戦があり、その後にはテロがある。なるほど、そういう面もあるのかなあと思って読んだ。「恐怖の存在」(ハヤカワ文庫) さて、息子は「チェンジング・ブルー」を読むだろうか。(タイトルがかっこういいなあ)
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成毛眞が絶賛し、書評サイトHONZを立ち上げるきっかけにもなった一冊を読了。
科学で明らかになっていること・なっていないことを丹念に綴った紛れもない科学者の本なのだが、物語と読んでもおかしくないような語り口が、ページをめくる指を止めさせない。
温室効果ガスが取りざたされ、気候変動の懸念が叫ばれているが、実は気候変動の歴史はその程度の浅さでは到底ないのだ。浴びる太陽エネルギーは変わらないのに、氷期と間氷期が発生するという気候変動は、もう何万年も前から起きていた。そして、そのメカニズムを、海底の堆積物を掘り起こし、南極やグリーンランドの氷床をボーリングして探るというのだから、何とも壮大。
過去を探って、未来を予測する。ウィンストン・チャーチルの言葉「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来をより遠くまで見渡せるだろう」が第1章の表題の脇に引用されている意味が、本書を読み終えた今ならよくわかる。 -
地球温暖化、異常気象という単語は誰もが耳にしたことがあると思います。これらの現象を研究対象とする科学がどのように進歩してきたかを辿る科学ノンフィクションです。
誇大に危機感を煽るような書き方を一切廃し、気候変動をどのような方法で観測し、研究を積み重ねて来たのかを分かり易い文章で解説しています。取り扱うテーマは非常に広範で、地球の軌道や太陽活動に関する天文学、南極やグリーンランドの氷から過去の気候を研究する気候学、化石などの試料の年代を放射性同位体の性質を利用して特定する分析法、過去の気候を定量的に評価する古気候学などの基本的な考え方や過去の研究者の試行錯誤の様子の人間ドラマも交えて描いています。
このような科学読み物は海外で出版されたものが翻訳されるケースが多い中、本書は日本人の著者による作品だけあって文章が非常に読みやすく、その表現方法も教科書的な無味乾燥な文章ではなくて、小説を読むかのような印象を受けます。今の地球が抱えるリスクや、自然科学の研究とはどのようなものか、著者の言葉は端的に表現しており、以下に抜粋します。
「人類が放出した温室効果ガスが温暖化の原因であることが証明できないとしても、このまま放出を継続することは我々の気候に対して危険なロシアンルーレットで遊んでいるようなものだ」、「今年も去年と同じだけの雨が降り、3年前と同じような気温で、10年前と同じような海面の高さである事、これらのことに私たちはもっと感謝しなければならない」、「研究成果だけをつなげたストーリーは研究の本当の姿を物語っていない。自然科学の最先端とは、無数の袋小路に潜む立った一筋の抜け道を探り出す孤独な旅である」」
文庫本で約400ページの大作ですが、情報量、トピックスの掘り下げ度合いともに新書とは比較にならないほど充実しています。気候変動についてマスメディアで紹介されるよりもより本質的な真実を知りたい社会人、理系の大学を進路に考えている高校生などに特にお勧めしたい1冊です。