戦下のレシピ――太平洋戦争下の食を知る (岩波現代文庫)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032913

作品紹介・あらすじ

十五年戦争下の婦人雑誌の料理記事は、銃後の暮らしをリアルに伝える。配給食材の工夫レシピから、節米料理の数々、さまざまな代用食や防空壕での携帯食まで、人々が極限状況でも手放さなかった食生活の知恵から見えてくるものとは?再現料理もカラーで紹介。「食」を通して「戦争」を考えるための「読めて使える」ガイドブック!文庫版では敗戦後(占領期)の食糧事情を付記した。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争末期、インパールとか
    場当たり的な対応が非難される帝国日本。
    食糧政策は、さらにそれが際立つ。
    (いろんな人が思いつきを口にしやすいから)

    また、家庭料理は愛情的な
    主婦イデオロギーの形成史としても
    興味深い。

  • カラー口絵、レシピ有り。
    朝ドラ「ごちそうさん」にでてきた興亜パンのレシピも載ってるこの本、サバイバル非常食の勉強にもなって、ただ知識を得るぶんにはこの上なくおもしろいけれど、実践しなければならない日はきてほしくないと切実に思う。
    ただ食べ物が少なくなってひもじいだけでなく、文化の破壊になるから、戦争はダメだ、というのが筆者の結論。

  • 戦争の話をするたび、「ものがなくて悲惨だった」「食べるものがなくて常に飢えていた」等の話を聞くたび、そんな話じゃなくて戦争の本質について話を聞きたいと思っていましたが、戦争時の食糧難の話は私の想像を絶していた。

    この本では戦前の食事情から始まって日中戦争がはじまったころの節米食、太平洋戦争に発展してからの食、空襲が始まってからの食、敗戦後の食についてを当時の体験談や婦人雑誌のレシピなどから食事情をあぶりだした本です。

    読みはじめは楽しかったです。洋食が庶民に浸透し、当時の雑誌にもおいしそうなレシピがいろいろと掲載されていたようで、興味を惹かれるものもありました。
    日中戦争下の節米食もまだまだ楽勝レベルというか、節米食として食べていたのがうどんにそば、炊き込みご飯にお好み焼きって・・・このメニュー、家族が喜ぶよなんて思って読みました。

    ところが戦況が悪化すると食事情が悪くなったというのはすでに知っている話ですが、敗戦前後の食事となるとドラマでよくあるすいとんや雑炊でさえごちそうに思えるほどひどく、私の想像を超えていました。
    食材がなくてその辺の雑草でさえ貴重な食糧だったというのはよく聞きますが、少ない食材を増量するために粉にしたり、すりつぶしてドロドロにしたりして調理して食べていたというのはレシピを細かくみないとわからなかったこと。そして調味料も少ないのでケチって使うことになります。当時の人たちは食感も味もないものをひたすら生きるために食べ続けていたということなのですね。

    本の最後のほうに「戦争はなぜ食糧難を招くのか」について書かれていました。もううなずくことばかり。当時の日本政府も日本軍も食料の調達について完全にナメていたということなんですね。とどめに書かれていたのが「食糧がなくなることが戦争だ」
    そうかもしれない。
    「食べ物がない」「飢え」総力戦だった戦争の本質とはこれだったのか。

    ちなみに「当時の婦人雑誌なんて金持ちしか読んでないのに、そんな資料が参考になるのか」という話が出てきますが、筆者いわく、「当時の食生活をそのまま反映しているわけではない。その時々の条件で、最も気の利いたレシピを提示するのが婦人雑誌の役目。なので、ここに掲載されているレシピが悲惨さを帯びていると、当時の人々はもっと悲惨な食生活を送っていることになる。精いっぱい頑張った上限が「これ」。これで全体のレベルが推し量れる」
    納得。

    頭でっかちに戦争を考えていた私はこの本で考え方が変わりそうです。

  • はじめに「いつも読んでいる料理雑誌やグルメガイドのようなつもりで…」読んで欲しいと書いてあった通りの本だった。
    読み終わって、「日本人の本質、戦争中でも変わらない~~~!」
    食品にやたら手をかけ、盛り付けに凝る。
    和食が世界遺産になったのもうなずける。
    高級和食のみならず、草の根からして、料理に対する並々ならぬこだわりを感じるのだ。

    戦後の高度経済成長、バブル期の一億層セレブ気取り時代を経て、今では這い上がるきっかけも無い不景気時代…
    ぐるっと回って、この本の中にあるような、超節約料理を作る時代に逆戻りしているような。

    この中にある「節米料理」は、米の消費を抑えるために、毎日の主食の一部を、米ではなく、(米の)代用食品に置き換えてみよう、ということが奨励されているのだが、現在の「炭水化物抜き」などのいろいろなダイエット食は、まさに同じような料理。
    料理番組で、(ご飯の)海苔巻きならぬ“蕎麦巻き”が紹介されて、レポーターが「あ!なんと、ご飯ではなくお蕎麦を海苔で巻いてあるんですね!!」などと驚愕の声を上げてみせるが、実は戦時中にすでに婦人雑誌に紹介されていたという(笑)

    その婦人雑誌も、大正期にはすでに200誌も刊行されていたというから驚きだ。
    それも、戦時中の紙の使用制限などで、たったの3誌しか生き残れなかったが…

    戦局が進むと、だんだんと食料も統制されて、配給制度も進み、自由に食材が手に入らなくなる。
    それでも、家族に栄養を取らせるのは主婦の務め、という、強迫観念がのしかかる。

    そして、変な節約料理が、ホテルや一流レストランの、有名シェフの名前で婦人雑誌に紹介されている。
    現代の女性誌や、料理番組と全然変わらないところが面白い。

    作者も述べているが、何もそんなにめんどうくさく手間をかけなくても素直に食べればいいのにね…と。
    料理に手をかけるのが母親の愛情、という精神を植え付けたのは、この時代の雑誌だという。
    (それが今でも、忙しい働く母親の負担にもなっている)
    当時は今と違って、電子レンジも無ければフードプロセッサーも無いので、かまどとすり鉢での作業である。
    その手間は現代の何倍になることか。

    本当に何も食べるものがなかったのは、終戦前の2年間と、戦後の2~3年らしい。
    戦前は、現代と変わらない料理が食べられていたようだ。
    そこから始まり、どのような段階を追って食糧統制が進み、それにつれて婦人雑誌の料理記事はどう変化したのか、家庭の食糧事情はどうなっていったのか、段階を追って分かりやすく説明されていて、とても興味深かった。

    ただ、上段に本文、下の方に、古文の参考書の脚注のような形で当時の婦人雑誌の料理記事が載っていて、どのように読み進めたらいいのか途迷った。
    それを差し引いても、とても価値ある本だと思った。

  • 初めて斎藤美奈子さんの本を読む。なぜ、文芸評論から始めなかったのか、と思うだろう。図書館でたまたま目に付いたからだ、としか言いようがない。

    戦時下といえども、昭和の初期は「貧しい農村、リッチな都会」という構造があって、都市の食文化は「天皇の料理番」にもあるように、現代の洋風料理が一気に花開いていた。水道、電気、ガスのインフラが整えられて様々な料理が婦人雑誌に紹介された。(←反対にいえば、全国にインフラが届くのは戦後しばらく経って。まだ50年も経っていない所も、多くあるのだ。私の小さい頃も、充分普通の町だったのだが、インフラはあるけれどもまだ井戸やカマドは利用していたのだ)

    戦時色が強くなるのは、先ずは「節米」からだった。最初の頃はスローガンだけが先行して、米を節約して、もっと高くつく炊き込みご飯やうどん込みご飯などとちぐはぐなことがあったようだ。それに、大きな勘違いしていたのは、戦前は空前の米の消費量大国だったのである。一日の消費量が都市で1人三合半も食べていた。現代の三倍近い。日本人は米からエネルギーの7-8割(現代は4割)、タンパク質の3割(現代は2割)をとっていた。一汁一菜が基本で、ご飯は3膳が基本だった。よって、生産量が消費量に追いつかず、基本朝鮮から輸入していたのである。それが朝鮮の不作で一挙になくなった。それで節米が叫ばれ、配給制に移ったのである。よって当初国民食の「求められる栄養素」は成人男子で一日2400カロリー、タンパク質80gで現代と変わりない。ところが、戦時になって実際の配給は米は3/4ぐらいに落ち込む。そして、配給制独自の困難が一家の主婦に襲いかかる。毎日数時間の行列、量・種類・鮮度が違う、予定が立たない。昭和18年ごろになると「食糧戦」という言葉も出始める。配給が滞る。もはや配給だけで暮らすことは不可能になる。見た目のカサが増すお米の「国策炊き」「楠公飯」などが真面目に提案される。政府はわずかな「つき減り」を節約するために玄米配給になる。この頃の「主婦の友」に載ったレシピの一つ。「シチュー雑炊「配給肉の脂身とあり合わせの野菜でシチューを作り、この中にうどんと冷やご飯を入れて煮込んだもの。お味は塩、胡椒が1番さっぱりいただけますが、好みでカレーやトマトのお味にするのもよいでしょう」机上の空論である。しかし、配給制の建前を崩して書くことはできなかった。

    少ない材料を活かす「共同炊事」も広まる。これには隣組が力を発揮した。しかしトラブルもあっただろう。隣組の歌の替え歌が直ぐに出来たことを初めて知る。「(作者不詳)ドンドンドンガラリとドナリ組、あれこれめんどう味噌・醤油、回してちょうだい買いだめ品、ああ情けない 腹減った」

    お菓子も工夫した。斎藤さんは米ぬかを炒ってココアパウダーのようにするのは案外美味しかったという。

    昭和19年-20年はサバイバル状態に陥る。「婦人倶楽部」19年6月号には教学練成所練成官医学博士杉靖三郎の談話で「足りないのは実は食糧ではなくて、食糧に対する反省です」というのが載る。山の幸、海の幸は工夫すればまだ活用出来るというのである。お上の云うことじゃない。この前どっかのお上が「もやしを使って料理すれば、お金の足りない工夫は出来る」と云っていたのを思い出した。「言われなくとも、いつももやしを買ってるよ!」とその時私は怒りにうち震えた。つい去年のことである。

    「すいとん」が遂に登場する。米がなくなったので、乾燥大豆、乾燥トウモロコシ、麦、雑穀などが配給された。まあ、鳥の餌みたいなもの。そのまま食べると消化によくない。よってすべて潰して粉食にした。

    大豆すいとん
    すりつぶした豆に同量または2/3の粉を加えて捏ね、人参、青菜、葱などを色どり入れたお汁をつくり、煮立ったらその中へちぎりながら入れます。フワフワした卯の花すいとんができます。寒い時に喜ばれます。(「婦人之友」19年11月号)

    巻頭カラーページには、道端の雑草をいかに料理したのか、写真とともに解説がある。ここまで読むと実際にやってみたくなる。

    さて、当然ながら付け加えておくと、現代でもそうであるように、婦人雑誌に出てくるのは、その時代の「上限」である。

    どんぐり麺の煮込み
    どんぐり粉4、小麦粉6の割合で、塩をとき混んだこね水でよくこね合わせ、30分ぐらいそのままおき、これを小麦粉をふったまな板の上にとって一分(3ミリ)程度の厚みにのばし、細かくうどんに切り、実にする材料を軟らかく下煮し、味をつけた煮汁の中に、うどんをばらばらほぐして入れて煮込む。(「婦人倶楽部」20年8月9月合併号)

    斎藤さんは、「兵隊に食糧が回ったので食糧難になったのではない」という。全ての産業が軍需に優先され、輸送が絶たれたためである。食糧難は優れて政治的な問題だった。

    戦争になればまた必ず同じことが起きる。(←シリアを見ろ)戦争の影響で食糧がなくなるのではない。食糧がなくなることが戦争なのだ。その意味で、先の戦争下における人々の暮らしは「銃後」でも「戦時」でもなく「戦」そのものだった。だから「戦時下」ではなく「戦下」のレシピなのである。こんな状態からようやく日本が抜け出したのは1949年ごろになってからだった。(164p)


    2015年12月16日読了

  • 粉にして食べる。

  • 戦後70年、ということでこの夏はテレビの特番やら映画やらあって、一方で政府がアレコレやっているという状況で、普段よりそっち方面への関心が高まっているおり、見つけたのがこの本。食べるものがなくて、みんな腹ペコで、筍生活で、その辺の草も食べて、みたいな断片的知識はあるけど、こうやって戦前から戦後食糧事情がなんとかまともになっていくまでをまとめた本を読むと、著者も言っているとおり戦争とは戦争で食料がなくなるのではなく、食料がなくなることが戦争なのだ、ということがはっきり理解できる。戦闘だけが戦争じゃないんだよね。銃後じゃなくてまさしく戦下なんだよね。にしても、この本で紹介されている当時のレシピはものすごい。いも、かぼちゃはまだいいよ。おからもまだまし。だんだん茶殻とかどんぐりとかじゃがいもの芽(毒でしょ)、クローバー、ゲンゴロウetc。米のかわりに配給されるのは謎の粉末とか鳥のエサみたいな雑穀。でもそんな食材?をなんとかレシピにして、当時の婦人雑誌に紹介しているんだよねえ。涙ぐましい。いつ何が起こるかわからないから、この本は大事にしておこう。

  • とても作ってみようとは思いません。

  • 新書版で読了。/ 文庫版書き下ろし部読了。

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著者プロフィール

1956年、新潟市生まれ。文芸評論家。『妊娠小説』『文章読本さん江』『紅一点論』『モダンガール論』『戦下のレシピ』『冠婚葬祭のひみつ』『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』など多数。

「2016年 『1980年代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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