文芸誤報

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022505057

感想・レビュー・書評

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  •  『週刊朝日』に連載された、おもに文芸書の新刊を取り上げた書評コラムの単行本化(一部は朝日本紙掲載の書評)である。

     斎藤美奈子のコラムは相変わらず快調だ。わかりやすくて面白く、一見軽薄なタッチながらも、鋭い分析や思わず唸るツッコミ芸が随所にちりばめられている。
     かりにも文芸評論家を名乗るなら、これくらい「文の芸」がなくちゃね。ごく一部の人にしか届かない閉じた言葉をエラソーに振り回す文芸評論家に、彼女の芸とサービス精神を見習ってもらいたい。

     2005年1月から2008年5月までの文芸新刊書の定点観測でもあるので、新しい作家・作品との出会いを求める読書家にはブックガイドとしても有益。
     著者が絶賛しているのは取り上げたうちの1割程度なので、それらの作品を私もぼちぼち読んでみたい。

     以下、「うまいこと言うなあ」と感心し、付箋をつけた箇所を引用する。

    《村上春樹の登場人物が村上龍の小説に入り込んだら、こんな感じかもしれない(三崎亜記の『となり町戦争』を評して)》

    《ケータイ小説サイトはしかし、私が思うに電脳版の巨大な同人誌ないしは投稿誌なのだ。音楽の世界でいえば一昔前のホコテンである。文芸の新しいジャンルだと期待するのも、文化破壊だと嘆くのも、だからやめておくのが賢明だろう。ブームが去ればインディーズ系のケータイ作家も減るからきっと。》

    《死んだ恋人(友人)っていうのはまことに便利な存在で、そんな空白があるだけで、平坦な物語に陰影らしきものが生まれ、2人の関係性にただの恋人以上の綾がついたりするのである。ただ、どうなのか。「涙が止まりませんでした」みたいな感想が読者から出てきたら、それはもう作家の敗北ではないのか(橋本紡の『流れ星が消えないうちに』を評して)》

    《彼女の小説には、そう、ヤンキーテイストがあるのだ(←褒め言葉です)。これは文学の世界では希有なことである。おバカさんの内面を嘘くさくなく描くのは、知的な人を描くよりずっと難しいからだ(内田春菊の『気がつけば彼女を見ている』を評して)》

    《チャームポイントとして、ところどころ(笑)を足すといい作品になると思う。ふざけているわけではない。批評性が必要ということである(中村文則の『土の中の子供』を評して)》

    《芥川賞・直木賞はますます入学試験に近づいて、「ひとまずあれを取っとかないとな。よしやるか」な領域に入っているのではないか。で、入学試験を突破したら思う存分羽を伸ばす……。次作は羽を伸ばしてほしいものである(伊藤たかみの『八月の路上に捨てる』を評して)》

     なお、巻頭に置かれた「文学作品を10倍楽しく読む法」も、一読の価値あり。文学を楽しむ心構えが、10項目にわたって書かれた「まえがき」的文章である。そのうちの1項目を引いておく。

    《◆小説に感動を求めるな
     小説を読んで泣くのは自由です。しかし、泣ける作品が優れた作品であるとは限りません。泣くだけならばゼロ歳児にもできます。大人の感覚を磨きましょう。》

  • 読めば読むほど、本を読みたくなる。
    一気に読みたい本が増えた。

  • 2021/3/4購入
    2021/3/19読了

  • あいかわらずしょうもない文章だが、専売特許(好事家)ゆえこれからも人生の時間をしょうもない小説読みに費やして、B級グルメライター並に脂肪を増やしていただきたい。

  • 読んでみたくなる。
    上手いなあー!といつも
    思わされます。。

  •  200件ほどの文芸書を紹介している。1割もその存在すら知らない本ばかり。でも、その世界にも面白い本はたくさんあるのじゃないか、そう思える、楽しい批評でした。もっと毒のある人かと思いきや(よく読むと毒もまじっています)プロの仕事を感じさせます。

  • 齋藤美奈子さんの書評はある意味既存の小説より数倍面白い。その理由は「内なる世界」を外側からバサバサと薙ぎ倒していくようにモノを論じていくスタンスにあるからで、彼女が褒めようが貶めようがアップされた本を読んでみたくなるという不思議な技の持ち主なんですよね。まるで間近で喋っているような軽薄にも思える平易な語り口と鋭い視線で、とにかく突っ込むこと限りなし。多分彼女って本当に本好きなんだろなぁ~、と思わずニヤニヤしながら読めること間違いなし!

  • 読む小説に困った時、これを読めば参考になる!

  • 時に痛快なほどの、辛口書評。
    よくぞ言ってくれた!という感じの内容も多々あり、また、作者がそこまで絶賛するなら・・・と興味をもった作品もあり、これから読む本の幅を広げてくれる一冊だった。

  • 声に出して笑ってしまう文芸評論。豊崎由美さんを狂犬系・野獣系というけれど、彼女の書評は実際にはすごくほめてる場合が多い。それと比べるとこの筆者はすごくクールだ。けなす時もあくまでクール。そこがいい。

    「異業種からの参入組には辻仁成みたいな人もいるが町田康や青山真治もいるわけで甘く見ちゃいけない」だって。わはは。

    読んですごく楽しめるんだけど、紹介されてる作品を読もうという気にあんまりならないのはなぜ?

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著者プロフィール

1956年新潟市生まれ。文芸評論家。1994年『妊娠小説』(筑摩書房)でデビュー。2002年『文章読本さん江』(筑摩書房)で小林秀雄賞。他の著書に『紅一点論』『趣味は読書。』『モダンガール論』『本の本』『学校が教えないほんとうの政治の話』『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』等多数。

「2020年 『忖度しません』 で使われていた紹介文から引用しています。」

斎藤美奈子の作品

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