線路と川と母のまじわるところ

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022506030

作品紹介・あらすじ

空港に住みつくキンチャン、土と格闘する義足のマーチン、皮膚の下に何かをさがす女子留学生、ロワール川の橋のたもとに暮らす難民…移民文学のひとつのかたち。最新連作小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 「旅する部族」「皮膚に残されたもの」「線路と川と母のまじわるところ」の3編を収録。

    3編とも、主人公は日本人の女性ですが、小説の舞台は外国。
    「線路と川と母のまじわるところ」のみ地名が明らかになっていますが、他2編もおそらくヨーロッパの先進国を舞台にしていると思われる。

    著者の小説を読んだのは初めてですが、文体はかなり独特。
    重層的な、時に冗長と思えるほどの比喩表現が特徴的です。
    たとえば「皮膚に残されたもの」の冒頭のセンテンスは、こんな感じ。

    <i>水をふんだんに吸って雨がやんだあとも銀色の薄い金属の板と化して、太陽の金槌で叩かれるがままに、やかましく光を反射させている水浸しの土のように、皮膚は潤いを失わないどころか、地表のすぐ裏に血管のように張りめぐらされた小さな水の通り道があって、そこから漏れ出した水が、地中に含まれたさまざまな鉱物や有機物と混じりあうことによって作り出していくまったく新しいアロマを大気に放って、わき出してくるようだった。</i>

    正直、読んでる途中で嫌になってやめてしまいたくなりそうですが、この文体にも慣れてくると、その世界に引き込まれる感じはあります。
    どの部分が比喩でどの部分が事実なのか分からなくなってくる感覚が、現実と幻想を行き交うストーリーと相乗していきます。

    3編いずれも「異国人」として生きる日本人女性を主人公にしていますが、その地で、自らの意思で異国に来た彼女たちとは違って壮絶な体験により国を追われ難民となった別の異国人と出会います。
    一方で、彼女たちも(「線路と〜」の「母」を除き)それぞれに心の「傷」を負っている。
    難民たちの「傷」と彼女たちの「傷」が重なることで、小説には息苦しい空気が漂います。
    特に「皮膚に残されたもの」は重い。

    だけど、そのような人々の深い「傷」に、これらの小説が真に迫っているのかどうかは、自分には判断ができない。
    だから何となく、これらの小説がそういった人たちを体のいい「材料」として採り上げて書かれているようが疑念を払拭できなくて、小説との距離を測りかねるまま読み終えてしまった。
    そんな印象です。

  • いま、ここ、ではないところにいる人と共感すること。分かりやすいものを当てはめて理解した気にならないこと。

  • 父母の恩師で共通の友人であるパリの大学教授・ジャン。そして、ジャンの友人でダフールからの難民、庭師のウスマンとの出会い。息子だろうか?まだこの世に生まれる前の彼の視点で、母が久しぶりに訪れる様子が語られる表題作「線路と川と母のまじわるところ」
    旅行代理店でアテンドのアルバイトをしながら田舎の村で暮らす大学生・カオリと空港に不法滞在し続ける難民のキンチャンとの交流を描いた「旅する部族」
    母方の親族と財産を巡るトラブルに巻き込まれ居づらくなり外国のマッサージ学校でセラピーマッサージの資格をとる留学生・美雪。外国留学生に宿を提供するO夫人や共にこの宿に子どもの頃来た虐待を受けた過去を持つジャンヌと地雷で右足を失った庭師・マーチンと美雪との人間模様を描いた「皮膚に残されたもの」
    心とからだに深い傷を負った人とか故国から打ち捨てられ行き場を無くした人たち。ヨーロッパを舞台にした3つの物語。

    文体は会話の部分が翻訳された海外小説っぽい感じ。あまり心に残らなかったかな。と云うのは、以前同様の題材を扱った映画を観たからなのか?
    9・11以後のニューョークを舞台に、孤独な初老の大学教授と移民の青年が音楽を通し孤独な教授が心を開き彼のために様々と奔走していく姿を描いた『扉をたたく人』が感銘し深く印象に残ってるせいかも知れない。

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著者プロフィール

1970年大分生まれ。東京大学大学院単位取得退学。パリ第8大学文学博士、現在、明治学院大学文学部フランス文学科専任講師(現代フランス語圏文学)
著書に『水に埋もれる墓』(朝日新聞社、2001年、第12回朝日新文学賞)
『にぎやかな湾に背負われた船』(朝日新聞社、2002年、第15回三島由紀夫賞)

「2007年 『多様なるものの詩学序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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