空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022508508

作品紹介・あらすじ

ヘルパーと老人とケアマネと、介護の現場で風変わりな恋がはじまる。ぬぐいきれない痛みを抱える人々と一緒に歩く空也上人とは?都会の隅で起きた、重くて爽やかな出来事。

感想・レビュー・書評

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  • 老人介護とか自殺とかかなり重い内容で話が展開していくにもかかわらず、かなり読みやすい。軽く読みすぎてしまってはいけないような気にさえなるくらい。あまり感情移入せずに読み終えて、最後にじっくり考えてもらいたいという筆者の意図があるのかもしれない。

    誰にも言えない過去ほど大袈裟なものではなくても悩みを誰かに言えたらかなり救われると思う。だけど理解してもらえることはたぶんないと思うし、自分が欲しい言葉が返ってくる確率は非常に低いと思う。私はこの本を読んで、自分をあまり責めない自分勝手な生き方をもっとしてもいいような気がした。少し救われた。

  • 主な登場人物は3人だけ。吉崎さんがずっと抱えている罪の意識を告白する場面が良かった。派手じゃないけど優しい物語。いい小説だった。

  • 介護ヘルパーの青年と40代のケアマネ、そして介護される老人。
    役割を超えた関係のようで、やはりその枠内の付き合いのようで。
    生と性←実践はなくとも。は切り離せないものなのだな、と。
    そして空也上人の存在が刺さる。性善説、というか、人には誰しも人に言えないちょっとした悪事やミスやあるだろうから、きっと読む人皆に刺さるのではないかと思った。

    一番良かったのは老眼に優しいフォントサイズだったこと!

  • 27歳のヘルパー(男)と、彼に淡い恋心を抱く46歳のケアマネ(女)と、そのケアマネに複雑な欲望を抱える81歳老人(男)の不思議な関係。なぜか気が合うというか、とても良い関係。通常仲良くなる理由って、RPGのパーティのように、自分にない魅力とか得意ななこととか憧れとかがあること多いと思うんだけど、この物語では自分の弱さみたいなところがちょっとずつ滲み出て、それを共有することで関係性が維持されてる。このつながりの糸は一見弱そうで、本書の途中でもその糸が切れ、関係性が破壊される。でも、別のつながり方をして、それはとても強いものとなる。こういうことってあるんだなあととても共感する。空也上人の存在がぴったりマッチしていて、図鑑で見たあの像、みてみたくなった。

  •  昭和9年生まれの山田太一さん、今年83ですね。「君を見上げて」「丘の上の向日葵」、ドキドキしながら読んでた頃を思い出します。「空也上人がいた」、2011.4発行です。吉崎征次郎81歳、個人的介護をする27歳の介護士中津草介、ケア・マネージャー重光雅美46歳の物語。読みやすく、そして読み応えのある作品でした。
     一気に読了。山田太一「空也上人がいた」、2011.4発行。登場人物は3人。ホームヘルパー2級の介護士・中津草介27歳、ケアマネージャー・重光雅美46歳、吉崎征次郎81歳。読み応えがあり、かつ味わい深かったです。

  • 中津草介27才。
    重松雅美46才。
    吉崎征次郎81才。
    三毛猫、年齢性別不詳 。
    空也上人。

    それだけ・・・



    「もう願いごとも
    いくらも果たせない齢になり
    あと一つだけ
    小説を書いておきたかった。」

    2011年 山田太一さんの作品。


    中津草介27才。
    特別養護老人ホーム(特養)で勤務していたが、ある事件がきっかけで退職。現在は吉崎征次郎の介護中。

    重松雅美46才。
    ケア・マネージャー。独身。

    吉崎征次郎81才。
    独り住まいだが、ある程度の生活力はあるが今は草介に介護をしてもらっている。

    三毛猫、年齢性別不詳 。
    ところどころで出没。

    ......................................................

    この青年、女性、老人。
    これまでの生き方、価値観
    3人とも異なっている。
    3人とも秘密がある。
    3人とも心に傷をもつ。

    それでも
    この3人は日々真剣に生きてきた。
    そして生きている。
    それぞれを思いやりながら。


    例えば青年(草介)・・・
    特養でヘルパーをしていた時に
    認知症の女性を乗せた
    車椅子から
    老女を転げ出してしまう。

    “はずみ”で。

    誰も責める人はいなかった。
    「よくあることだから」と。

    しかし
    草介は特養を退職し
    ケアマネの重光さんの紹介で
    現在の吉崎さんの介護につく。

    ある日吉崎さんから
    京都に行くよう依頼を受け
    六道の辻を通り
    西光寺(六波羅密寺)で
    木造の空也上人と出逢った。

    空也上人――――――――――――
    死屍累々の鳥辺山を
    歩き続けた。

    善人悪人なく
    誰もが持つ生きている悲しさ
    死んでしまう事の平等さを
    汚れた草履で
    疲れても
    小さな声でも
    少し顎をあげながら
    それでも
    歩き続けた。――――――――――――

    楽しみや悲しみや悔しさを
    お互いに共有しながら
    生きていく。

    約2ヶ月
    3人での時間が終わる時
    空也上人と出逢う意味を知った。

    吉崎さんの持ち続けた自責の念
    重光さんの虚勢の強さ
    草介の自分との葛藤

    そんな3人であっても
    ともに歩いてくれるのが
    空也上人。

    ......................................................

    さすが山田太一さん。

    私のような普通な人間でも
    「よくあること」でも
    人によって
    それぞれ
    どうしようもない
    大きな悲しみや傷
    弱さや欲を抱えている。

    それでも
    誰にでも
    空也上人と出逢う事が出来るんだ!

    生きる希望と勇気を与えてくれる。

    この本も大切にしよう。

    あと
    三毛猫は六道の辻かしら…

  • 「ただ空也上人に会わせたいと思った。なにもかも承知で、しかし、ただ黙って、同じようにへこたれて歩いてくれる人に会わせたいと思った。」

  • 訥々とした会話なのにゆるやかな流れを感じる話の進め方が穏やかで物悲しくて何とも言えない読了感でした。

    介護施設で老人を死なせてしまった罪悪感を持つ主人公の青年、一回り以上年上の女性ケアマネ、主人公を個人的に雇う老人の三人の微妙な心の揺れ方が軽くも無く重くも無い、淡々とした文章で書かれていました。

  • 私は遺書というものを書いた事もないし読んだ事もないが、この老人の遺書は自分もこういう風に自殺したいと思わせるぐらい素晴らしいというか、切ないんだけど仕方ないというか、こうやって人生を全うし決着付けたいというか、自殺できるウチに自殺しておくってひとつの生き方というか、自殺は悪い事ではないんじゃないのか?と思わせるほど危険でもある。
    この老人は81歳で命を絶つが、このぐらいの年齢になるとある種の覚悟はできるのかもしれない。が、確か鈴木大拙だったと思うが、「人間長生きをしないと分からない事がある」というような事を言っており、自分には90歳や100歳でしかわからない事を知りたいという欲もある。(でもその前にボケちゃったらわからないしな・・・)
    81歳が46歳に、46歳が27歳に恋をする。無理だと分かっているが心のどこかで諦められない。吉崎は重光の苦しみが分かるし、また草介の苦しみもわかるからこそ、2人の苦しみをなんとかする事で自分も救われたかったのではないだろうか。吉崎のやり方は不器用だが、重光や草介を励ましたいという気持ちには心打たれる。27歳を一人称にして書くやり方も上手い。
    とにかく山田ワールド全開で、台詞でどんどん話が進んでいくのは流石脚本家。具体的な情景や配役まで思い浮かべながら読み進められる。
    人や自分を裁くのではなく、また赦すのでもなく、ただ一緒にへこたれて歩いてくれる。そんな力が空也上人にはあるのだろう。是非実物を拝見したい。

    ちなみに私のイメージした配役は
    吉崎=山崎勉
    重光=宮崎美子
    草介=妻夫木聡

  • ヘルパーと老人とケアマネと、
    介護の現場で風変わりな恋がはじまる。
    ぬぐいきれない痛みを抱える人々と一緒に歩く空也上人とは?
    都会の隅で起きた、重くて爽やかな出来事。

    道尾さんきっかけで読了。
    短いながらもハッとさせられる文章が多いのは本業が脚本家だからだろうか。会話が抜群に上手い。
    物語は、主人公の介護ヘルパーの青年と一癖のある老人とのやり取りを中心に、なんとも言えない寂しさを描いている。
    老人は青年になにを感じ、何を伝えたかったのか。
    それを何度も読んでみて理解できるようになれたら、と思う。

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著者プロフィール

1934年、東京生まれ。大学卒業後、松竹入社、助監督を務める。独立後、数々のTVドラマ脚本を執筆。作品に「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」他。88年、小説『異人たちとの夏』で山本周五郎賞を受賞。

「2019年 『絶望書店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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