- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022508508
感想・レビュー・書評
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介護ヘルパーの青年と40代のケアマネ、そして介護される老人。
役割を超えた関係のようで、やはりその枠内の付き合いのようで。
生と性←実践はなくとも。は切り離せないものなのだな、と。
そして空也上人の存在が刺さる。性善説、というか、人には誰しも人に言えないちょっとした悪事やミスやあるだろうから、きっと読む人皆に刺さるのではないかと思った。
一番良かったのは老眼に優しいフォントサイズだったこと!
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27歳のヘルパー(男)と、彼に淡い恋心を抱く46歳のケアマネ(女)と、そのケアマネに複雑な欲望を抱える81歳老人(男)の不思議な関係。なぜか気が合うというか、とても良い関係。通常仲良くなる理由って、RPGのパーティのように、自分にない魅力とか得意ななこととか憧れとかがあること多いと思うんだけど、この物語では自分の弱さみたいなところがちょっとずつ滲み出て、それを共有することで関係性が維持されてる。このつながりの糸は一見弱そうで、本書の途中でもその糸が切れ、関係性が破壊される。でも、別のつながり方をして、それはとても強いものとなる。こういうことってあるんだなあととても共感する。空也上人の存在がぴったりマッチしていて、図鑑で見たあの像、みてみたくなった。
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介護士の男の人が主人公。なんともいえない雰囲気のある話。許されているのかなという気持ちになる。
2013/1/29 -
山田太一の最新作。
特別養護老人ホームでの仕事を辞め、無職になった主人公草介のもとへ、元同僚であった重光が訪れるところから話ははじまる。
知り合いの老人の介護を個人で引き受けて欲しいという。
依頼人は吉崎征太郎という老人。
物語は、27歳の草介、46歳の女性重光、そして81歳の吉崎という三人を中心に展開される。
山田太一の作品の多くは、社会的弱者に光をあてることで、その人達が持つ闇を浮かび上がらせ、世の中の歪みを顕在化させるというもの。
特に秀逸なのが、登場人物同士の会話だ。
何気ない言葉の掛け合いの中で生じる、ある種のズレ。
それは徐々に亀裂を大きくし、やがてそこから心の闇が溢れ出て来るという手法。
小説にしろテレビドラマにしろ、このあたりに山田太一の真骨頂がある気がする。
この作品も、山田太一の本領が遺憾なく発揮されている。
こういう作品を読むと、やっぱり山田太一は嫌いになれないなぁと改めて思う。
言語化されにくい人間同士の距離を表現した物語性。
そして読み手を刺すような台詞の応酬。
それでいて読了後にはホッとさせてくれるあたり、正直巧いと思いました。
最近著者がシナリオを書いたテレビドラマを拝見するに、往年のパワーが無くなっているような印象があったのですが、この小説においては、懐かしい山田節を感じる事ができました。
今後も頑張って欲しいと思います。 -
会話の表現がうまいのは、脚本家が本業だから当然。それと最近、『キルトの家』を見たからか、老人は山崎努、ケアマネージャーは松坂慶子がイメージぴったりでおもしろかった。27歳のヘルパーは、どんな役者がいいのだろうと考える面白味もあった。小説にしたのは、話の内容が過激なものがあるからなのか。老人もケアの人々もまだまだ自由な行動が可能なのではないかと思わせる展開も見えます。
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介護士の若者が抱えてしまった誰にも言えない心の重さを思いやる老人の話。
空也上人の目が光るシーンが衝撃的。
人間のしでかす罪と、魂の救済がテーマ。
考えさせられた。 -
たまに久しぶりに小説を読みたくなる。
そしてサクサクと読めるととても気分がいい。
山田太一と山田洋次がごっちゃになっている。
とてもいい話だった。
軽すぎず重すぎず、現実的過ぎず非現実でもなく。
役にたたなさそうで役に立ちそうな。
またこんな小説を見つけたい。
ドラマにしたら、いや、いつかドラマになると思った。
配役は誰がいいかしばらくの妄想の種になった。 -
「とりかえしのつかないことは帳消しにはならない」
罪の意識にさいなまれる男たちは、心情を吐露したことで少しは気が楽になったのだろうか。
81歳の介護を必要とする老人、世話を依頼された27歳の青年、46歳独身ケアマネの女性。3者3様の赤裸々な真実と短いけれど濃密なかかわりが語られるが、どうもNHKかなんかの単発ドラマになりそうな話だ。もう少し深みがほしい。 -
もっと読み進めにくいと思っていたけど、いつの間にか読み終わっていた。
「もう願いごともいくらも果たせない齢になり、あと一つだけ小説を書いておきたかった。二十代の青年が語る七十代にならなければ書けなかった物語である。」という筆者の言葉が全てを表しているとも思える。
何というか、印象に残る、心に響く物語なのだけれど、誰かに薦めたり、誰かと感想を言い合ったりということが気軽にはできない作品。
これを最後の一つにしてほしくないと、強く思う。