平成猿蟹合戦図

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.63
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本棚登録 : 1010
レビュー : 243
  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022508928

作品紹介・あらすじ

新宿で起きた轢き逃げ事件。平凡な暮らしを踏みにじった者たちへの復讐が、すべての始まりだった。長崎から上京した子連れのホステス、事件現場を目撃するバーテン、冴えないホスト、政治家の秘書を志す女、世界的なチェロ奏者、韓国クラブのママ、無実の罪をかぶる元教員の娘、秋田県大館に一人住む老婆…心優しき八人の主人公が、少しの勇気と信じる力で、この国の未来を変える"戦い"に挑んでゆく。希望の見えない現在に一条の光をあてる傑作長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • さすが、実力のある作者だけあって、様々な登場人物達の視線から物語が絡み合いながら展開するという構造。で、その話を引っぱる主だった登場人物がなんと8人(美月、朋生、純平、友香、湊、美姫、夕子、サワ、っだったよね?)
    それぞれが色々な思い、出会い、出来事を経ながら不思議と繫がり、終盤にすんごい事をやってしまいます。読んでる方もビックリ。「この話を、まさかそうしちゃうなんて。思ってもみなかったわ!」と強く感じました。

    最終的には読者のヨミ通りに落ち着いて、出来すぎな感はあるのですが、その出来すぎ感から見え隠れするのが、よくある筆者の自己陶酔や読者への媚では無く、この物語で「スカッと」して貰う事のみを狙ってるという気がして、二重三重に上手いなぁと思いました。なるほどね、猿蟹合戦図。

  • 読んでいくうちに気持ちが盛り上がっていく感覚が心地よかった。
    (盛り上がり始めるまでは、一冊がはてしなく厚く感じた)

    登場人物が多い!と思ったもののいつのまにかしっかり区分けがついていたのは、
    やはりおもしろかった証拠だろう。
    いったいどうやって収拾つけるのだ、と思いながらページをめくり続けた。
    タイトルからどんな話なのか想像しにくかった部分と
    してみたところでまるで見えてこない不透明さは
    読了後の満足感が埋めてくれる。

    一年後なにが起こっているのか、本当にわからない。
    現実にもそういうことはあり、その感じがとてもリアルに伝わる。

    嘘はやっぱりだめだよ、と思いつつも
    ついてしまった経緯は心が痛む。

    おばあちゃんからの話で終わるとは、ありそうだけどまったく予想できなかった。

    方言の部分が読みにくかった。これが躓かずに読めるとおもしろさは
    増したと思う。

  • タイトルに惹かれて手に取った本。
    吉田修一さんの本は2冊目。

    小説のラスト、瑛太くんはお猿さんと蟹さんの出てくる話のスカッとするところが好きだとサワさんに言う。
    サワさんは、「……スカッどする話さは毒っこ入ってらど」と答える。
    この小説はこの会話の通りの物語だと思う。

    物語の最初、歌舞伎町の路地で座り込む美月は騙された女性にしか思えず、ディズニーランドのことなんて考えてる場合じゃないよとハラハラした。
    朋生と純平は早々に痛い目を見るとしか思えず、こちらはこちらでハラハラした。
    この物語の主だった登場人物はどこかのんびりしていて、人が良くて、なんか心配になるタイプが多い。
    夕子さん、美姫ママ、高坂さんのなんと頼もしいことか。彼らがいなければ今頃何人かは東京湾に沈んでいたのかも‥。

    そんな風にハラハラしながらも、ある時は可愛い瑛太くんに癒やされ、ある時は美姫ママと高坂さんのプロポーズシーンにときめき、あれよあれよという間に大団円。
    あぁ…、良かった。皆さんお幸せに。
    めでたし、めでたし。

    猿蟹合戦ほどスカッとはしなかったけれど、ほっとするラストだった。

  • ──この世に神様は存在する
    本当に心優しい人たちを、けして神様は見捨てない。

    私も『正直者が馬鹿を見る世界』であって欲しくはないと願う人間の一人だから。

    「平成猿蟹合戦図」というタイトルではあったが、なるべく先入観を持たないために、前知識も仕入れず、他の方のブクログのレビューも一切読まず、まっさらな気持ちでこの本に取り掛かった。

    冒頭から前半の途中あたりまでは、少しかったるい感じの話の流れ。
    島から幼子を連れて長崎、そして東京まで来ても夫の朋生に会えない美月の様子は、夫に裏切られ、転落していくようなストーリーになるのかと思った。
    ところがどっこい、その美月にあっけらかんと優しく接する純平のキャラ設定がそういう話ではないことを気付かせる。
    そして読み進むに連れ、歌舞伎町の単なるバーテンだった純平という人間がどんどん魅力的な人間に描かれていく。
    それでも、物語自体は淡々とした雰囲気のままだ。
    轢き逃げ事故を起こし、その加害者が違う人間だったという事実に遭遇し、ヤクザが絡んだりしてきても、取り立ててサスペンス的な切迫感はなく、のんびりと田舎の田園風景を眺めているようなストーリー。
    俄然話が面白くなるのは、美月が水商売を始め、人気が出て、さてこれからどんな展開に? という辺りからだろうか。
    その後はとんとん拍子というか、物語世界は思いがけない奥行きを見せ、最後には国を動かす政治家に登り詰める話にまでなるのだから、なかなか面白い。
    吉田修一の面目躍如といった展開。
    文中、良いアクセントになるのが90歳を超えたサワおばあちゃんの秋田弁での話、というか、語り口。
    この語り口が最後まで続き、心温まる優しい気持ちでこの話を見事に締めくくる。
    『横道世之助』と『悪人』を足して二で割ったような世界。
    いや、それに連作短編集『日曜日たち』も足して三で割った世界と言うべきか。
    様々なキャラクターの人物が適度に配置され、それぞれの役割をこなしていく群像劇としては見事。
    また、ところどころで短編の名手吉田修一ならではの、さりげなく心に残るような光った文章も見え隠れする。
    そして最後は見事に子蟹達が親の敵を討ち、ずる賢い猿をやっつける。
    ちょっと爽快で、それこそスカッとする結末でした。
    因果応報。めでたしめでたし。

    これを読んで、あらためて最新作「太陽は動かない」を考えると、あれはあまりにも畑違いのジャンルに挑戦し過ぎて無理があったのじゃないか、と思ってしまう。
    サスペンス仕立てのスパイ小説など、吉田修一じゃなくても、そちらの専門作家がいるのだから彼らに任せておけば良いのだ。
    あの分野は、無理に吉田修一が入って、書いてみる世界ではないと思う。
    吉田修一殿、貴方の魅力を存分に発揮できる得意な分野で小説を書き続けていってください。

  • たくさん登場人物が出てきて、群像劇になっていく。
    最新作の吉田修一作品、こんな感じなんですね。

    あれこれ巻き込まれ、あちこちで起きたことがつながっていくストーリーが面白い。どんどん読む気がわいてくる。
    歌舞伎町のバーテン、ホスト、韓国バーのママ、チェロ奏者、マネジメント事務所、赤ちゃん連れの若い女性、等々。読むにつれこの人たちが頑張ったり変わったりするのだから楽しい。
    思っても見ない方向に進む話はとても面白かった。

    浜本純平、いいやつだ〜、明るいのがいい!
    初めのうち「純平、考え直せ」と最近読んだ「真夜中のマーチ」のせいで奥田英朗をどうしても連想してしまい困った。
    一気に物語に引き込まれたい気持ちの妨げになってる気がして。
    いや、この群像劇「横道世之介」のゆるい流れの線ではないか。
    苦悩や理不尽さを掘り下げるのとはちょっと違う。
    輪郭がはっきりし過ぎない、くどくないこの感じに慣れてくると安心して読める。

    ファンとしてこの作品で、やっぱり吉田修一さんいいなと思ったこと。
    描写がこと細かではないのに、それぞれの人、場所の空気感がとてもよく伝わってくる。
    例えば、サワの家の様子やサワの人柄。
    美姫のマンションの様子、瑛太をあやす様子。
    友香が颯太に誘われて行った海での一日。
    作り込んでない、いかにも!がないところが良いんです。

    今回それぞれの心のうちが、その人物の方言で書かれていた。
    長崎、秋田、大阪、東京。いい感じであった。

    何より好きなのは、人を大切にしているのが感じられるところ。
    そんな職業、とか、そんな田舎、とか、そんな年寄り、とかないです。
    さりげなく優しくて好きだ。

  • 面白かったです!(*^_^*)

    なんかフワフワと頼りない歌舞伎町のホスト・朋生(田舎に妻と赤ちゃんと置いて、フラフラしてんじゃないよ!)と、
    お調子者の、韓国パブのバーテンダー・純平が、成り行きで轢き逃げ犯を恐喝し始めたら・・・??

    私は、日々、地道に平穏な幸せを求める人々の話が好きなので、(つまり、ダメンズがダメなんです)
    朋生を探しに九州から出てきた妻・美月の描写から始まるこのお話、もしかしてリタイヤかな・・とも思ったんだけど。
    不穏なエピソードが次々に出てくるというのに、なんでだろ、大丈夫、この人たちは幸せになれる! と思わせられる匂いがして、ドキドキしながらも最後まで一気読みしてしまいました。

    始めは、登場人物たちもバラバラと出てくる群像劇っぽさで、まぁ、それはいいとしても、なんか、中心点が定まらなくて落ち着かなかったんだよね。でも、段々に、巧みな伏線と共に話が一つの方向に向かい始め、こう来るかぁ~~~!(*^_^*) という、気持ちのいい「やられた感」がありました。
    タイトルの意味も最後まで読んで、ちょいと俯瞰してみて初めてわかったし。

    「悪人」のような、深く深く人間を描いた話はもちろん傑作だと思うけど、こんな、一見、軽いタッチで、平成の閉塞感にあえぐ私たちの話として、ちゃんと読ませてしまう吉田さん、やっぱり好きだなぁ、と思います。

    これ、映画にしたら面白いと思う。
    朋生は、イケメンなら結構誰でもやれると思うけど、純平の役はやりたい役者さん、多いんじゃないかなぁ。


    思いっきりネタばれです。





    そっか、お調子者の性格って政治家に向くんですね。(*^_^*) 恐喝までするような阿呆な奴なのに、なんか憎めない男の子だなぁ、と思ってたら、こんな使い道があったか!という意外性と痛快さ。
    しかも、最後の最後まで、純平は純平のまま。人格的に大きく成長した、という流れにならないのがよかったなぁ。(頼りない若者が人に頼られるようになった、という一文はあったけど。)
    朋生も朋生のままで、ホストの経験を活かしながら、ちゃんと純平の選挙戦アシストをするんだもの、もう、笑っちゃう。

    普通、小説には、
    「嘘をついたら必ず後でバレて痛い目を見る」
    「悪いことをした人には、いくら動機があってもその報いが来る」
    というお約束があるはずなので、嘘をついているほうに肩入れしてしまっていたから読者としては、そこがとても怖かったのだけど、(美月がシングルマザーと偽ってタレントになったこととか、轢き逃げ犯が実の兄を身代わりにしたこと、しかも、事故ではなく確信犯だったことなど)
    なんか、上手い具合に収束したり、報いは来たけど致命傷ではなかったり、とセオリーをはずしているところも嬉しかったです。(*^_^*)

  • 読み始めから長崎の五島列島で乳飲み子をかかえて
    福岡にいって連絡が取れなくなった旦那を心配する女の子が
    出て来て、この旦那はきっと二人を捨てて逃げちゃったんじゃ
    ないのかなって暗い物語なのかと心配して読み始めた。

    ところが女の子美月が福岡、東京、歌舞伎町と旦那を探して
    移動して、その後数々の出会いがあり、物語の視点も
    美月、美月に声をかけてくれた純平、世界的チェリストの湊、
    湊の秘書の夕子さん、湊の祖母、などなどころころと
    かわり、場面展開も見事で、あっという間に読んでしまった。

    最初のひき逃げ事件からひいた方も目撃して脅迫したほうも
    破滅に向かっていくのかしらと心配して読んでいたのも
    杞憂で、両方の当事者が絡まりあい、最後には選挙戦で勝負って
    いう読んでない人にはなんなのかわからない展開で面白かった。
    純平が横道世之介にかぶる人柄でひょうひょうとしてて憎めなくて
    この人ならよい人生を歩むんだろうっていう確信みたいなものも
    あり安心して読み進められた。

    最後の殺し屋とか殺傷事件とかはちょっと劇的にするためにわざと
    投入した余計なスパイスのような気がしないでもないけど
    ドラマ的小説としては読者が次はどうなるのかって興味をもって
    どんどんページをめくるのが目的だろうからその目的は達せられた
    小説だったと思う。読みかえしはしないけど、楽しい読書だった。

  • 勧善懲悪。
    辛い思いをした人、下積みの人、さわやかな人たちが逆転して日の目を見る話。

    でも本当にそれだけなの?
    いくら事情があったって事故を起こした自分の身代わりなんていいの?
    人に好かれる特技があれば、付け焼刃の勉強で政治家になるの?
    AV出た過去もいい人そうならやくざにもみ消してもらえるの?

    「……スカッどする話さば毒っこ入ってらど」

    ちょこちょこ顔を出す韓流ブーム描写は、ドラマ化された時のスポンサー受け狙いのようでなんだかなって感じです

  • 猿蟹合戦といえば復讐劇なんだろうか。賢い猿が蟹を騙して殺し、殺された蟹の子供達に仕返しされるという。田舎から出てきた歌舞伎町ホストだけでなく、ホストの夫を追いかけてきた子連れの美月、音楽家として活動する湊、みんなが主役。歌舞伎町ホストがのし上がっていく展開はエンターテイメント作品にはよくあるものだけど、違うところは、そこにひき逃げだったり殺人だったり脅迫だったりが絡んでくるところ。猿蟹合戦の話に対して、「・・・・スカっどする話さは毒っこ入ってらど」 と言うように、この話は心からスカっとできる話では、無いと思う。あくまでもスカっとした話になるように、「敵」はとことん悪く書かれているし、「主人公側」はなんだかんだ「いい人」に書かれている。それでもスカっとする話には毒があるように、「主人公側」だって殺人事件や汚職事件を隠蔽している。舞台の一つに歌舞伎町が出てくるのでやはりヤクザも絡んでくるのだが、あくまでも「主人公側」にしたら都合のいいヤクザになっているけれど、実際やはりヤクザはヤクザ。そのことも吉田氏もわかっているからこそ、「・・・・スカっどする話さは毒っこ入ってらど」と、サワに言わせている。そのあたりは『悪人』の吉田修一らしいなぁと思う。

  • ひき逃げ事件をきっかけに、歌舞伎町の元バーテンダーが衆議院選挙に!?
    疲弊した地方と猥雑な都会を背景に、無関係だった人々が選挙を通じて集結してゆき・・・
    やがて大団円に、読後すっきりの傑作!

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著者プロフィール

吉田 修一(よしだ しゅういち)
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業後、スイミングスクールのインストラクターのアルバイトなどを経験。
1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。同作は第117回芥川龍之介賞候補にもなった。
2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞を同年「パーク・ライフ」で第127回芥川龍之介賞、2007年『悪人』で第61回毎日出版文化賞及び第34回大佛次郎賞、2010年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞。2016年には芥川龍之介賞選考委員に就任している。
その他の代表作に、2014年刊行、本屋大賞ノミネート作の『怒り』。2016年に映画化され、数々の映画賞を受賞。体当たりの演技を披露した広瀬すず出世作としても名を残すことになる。

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