ぼくらは都市を愛していた

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 62
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022508959

感想・レビュー・書評

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  • まだ飲み込みきれていない。んー。面白かったのは確かだったのだが。

    自らがどのような現実を引き受けて生きていくのか。ウェブにつながり、自己の情報を無数に複製して生きている我々にとって、現実とはどこにあるのか。この意識は本当に自らのものなのか。設定は攻殻機動隊、特にGOHST IN THE SHELLを強く思い起こす。

    で、帯にある「ポスト3.11」として、この物語を如何に位置づければ良いのか。その点にまだ応えが見出だせていない。例えば3.11に対して、俺が持っているのはメディアを通したイメージだけだ。実際に被災地の様子を確認したことはなく、その意味で俺の現実の中には3.11は実在していないのかもしれない。津波による街の崩壊、原発事故、目に見えぬ放射線の脅威、すべてはマスメディアとソーシャルメディアにより伝達される情報となり、分散し、俺たちは情報の海と化した現実を生きている。ポスト3.11のリアルがどこにあるのかも、明確にはなっていないまま。んー……。

    それにしても、神林先生の描くSFは美しい。SFとして優れているだけではなく、文章の美しさこそが彼の優れたるところだと思う。姿形のない情報震と戦うミウの描写と、生の人間との触れ合いをひたすらに思い起こすカイムの描写との対比。他者を求めた、自らの認識を肯定するための客体を求めたという意味では、両者は一致している。

  • <ネタバレあり>



    謎のデジタルデータの破壊現象が起こっている。
    破壊は、あるときに突如として起こる。
    電子・通信機器だけでなく、CDなどメディアの電子記憶もすべて破壊される。
    この現象を<情報震>という。
    原因も、震源地も不明である。

    日本情報軍観測隊、第三小隊隊長綾田ミウの任務は、情報震現象の前線にて、観測・報告を行うことである。
    情報震の頻度と影響はますます高まり、人類はさまざな通信手段を失い、都市は機能崩壊しつつある。
    あらゆる情報を失いつつある都市では、実際に人が消えていっている。
    綾田隊は使命のように、人類の存在を求めて都市をさまよい歩く。



    この小説にはもうひとつの物語世界が平行して展開する。
    綾田刑事は、通勤途中の電車内で不思議な感覚を味わう。
    電車内で女子高校生の持つケータイの情報通信とシンクロしたような感覚である。
    車内で女子高校生とシンクロしながら、綾田刑事は、かつて不釣り合いながらつきあった年若い恋人のことを夢想していた。
    寒江香月課長によれば、実はその体験は秘密裏に刑事たちに埋め込まれた体間通信装置というナノシステムの影響だという。
    公安警察庁は、本人にも内緒で刑事たちに新たな捜査機器を組み込んでいた。公安警察庁の思惑は、通信機能の発信機能の利用よりも盗聴機能の利用にあるのではないか、と寒江課長は推測している。
    そんな折り、綾田刑事と相棒柾谷綺羅刑事は、高校生とみられる少女の殺人事件を担当する。
    殺人現場を前に、愕然とする綾田刑事。
    殺された少女は、綾田刑事がかつてつきあっていた若き恋人であった。
    そして、その少女を殺したのは自分自身だと綾田刑事は直感・了解するのであった。



    存在やコミュニケーションや自己に対する抽象的な考察や独り言も多いが、謎の多いストーリーでひっぱってくれる。
    特に事件を追う綾田刑事の物語は、大間通信を得たことをきっかけに、若い恋人との関係をいじいじとふりかえる中年男の内面を吐露する・・・というなかなか下衆な物語が中心となり、読みやすい。

    しかも、中年刑事の若い恋人へのゲスな夢想を、相棒である若い女刑事が体間通信によって読みとってしまう、というゲスな構造になっているので、なおさら読み進めてしまうのである。



    しかしながら、存在や世界や、人とのつながりの考察やら議論になってくると、もうしんどい。そういうお年頃なのである。

    読みながら、アニメーションの攻殻機動隊やら、最近放映していたサイコパスの物語が頭の中に浮かんでくる。
    アニメーションでも、めんどくさいことをごちゃごちゃしゃべくっている。
    (虚●玄という名前はインプットされた。)
    でも、なぜかアニメだと、そんな話かーと思いながら、続きはどうなるの?と思いながら見てしまう。

    しかしながら、小説だときついんだよね。
    SF無理になったのかな?
    伊藤計劃の「虐殺器官」は面白いと思ったのになー。
    たぶん、考えるのがめんどくさい年なんだろう。
    ・・・そんなふうに逡巡するお年頃である。

    そういうわけで、ついていけない感を、年齢のせいにする。



    ついていけないと思えるのは、そもそも、
    「アイデンミウ」
    「サムエカヅキ」
    「マサヤキラ」
    というネーミングが出てきた時点で、げんなりするのである。
    これは、時代設定を考えての名前なのかな?
    だとしたら、今でもありそうな名前かもしれないかな?
    いや、でも、日本では苗字がこんなふうに揃わないだろー。

    変なところにひっかかって読みにくいのである。
    (アイデンのせいという設定なのかな?)

    なんだかんだ書きましたが、З.11から見える世界として書かれた小説自体は労作で傑作だと思います。

  • 今まで読んできた著書とは少し色合いが違うというか、硬派SFのなかに中年親父の妄想系私小説が混ざり込んで不意に襲い掛かってくるような形容しがたい衝撃があった。
    それにもまして、「都市」「コミュニケーション」「情報社会」を巡る一連の物語の純粋な面白さにやられてしまった。
    無防備に自分の嗜好・思考をネットワークに垂れ流し、言語情報に埋め尽くされた世界に生きる、今の我々だからこそ語りうる物語だと思う。
    虚淵玄さんのコメントにあった「異次元の角度から刺し貫くナイフ」という言葉は最初何のこっちゃと思ったけど、成程その通りだ。

  • とっても楽しかった。いい感じに摩訶不思議で脳がむずむず心地よかったです。

  • 伊藤計劃氏の「ハーモニー」へのアンサーソングのようにも感ぜられる。

    意識、考え、存在の認識。確実に正しいの言えるものはなく、何処まで現実でどこまで虚像なのか。読んでいて何度も思考が右往左往する。
    それは、小説んの中だけでなく、今生きている世界も疑ってみれば、作り物の意識と情報だらけのように見えれてくる。

    最後に大切な言葉を見つけた。「意識の代謝」。
    これを忘れずにいたい。願わくば、自分自身によって成し遂げるようでありたいが。

  • 久々の神林長編であり、神林思弁SF全開の傑作。
    帯に書いてあることは気にしなくて結構。とにかく神林神林していて、非常に心地よい。

    ストーリー説明は不要でしょう。読んでください。
    こんな話は神林しか書けない。
    神林ファンなら狂喜乱舞できる現在の神林の到達点。

    読め!

著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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