非常時のことば 震災の後で

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022509918

感想・レビュー・書評

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  • 非常時の言葉
    まどみちおの引用が、とても、とても印象的だった。

  • 周りに誉められる答え、一般的に正しいとされる答えを言葉にすることは、日常の余裕のあるときにはとても良く響く。だが、非常時には何一つ響かない虚しい言葉になってしまう。なぜか。正しいとされる答えは、「その時その人たちに」必要なものを何も宿していないから。

    自分を決して裏切らない、自分の中にある正しい答えを見つけ出し、結果に拘らずそれを行動にすること。それが考えるということ。
    その行動に宿る心に懸けること。
    一般的な正しさに生きず、自分の偏った正しさに生きることができるか。難しい…

  • 震災から一年経ってこの本を読むと、当時いかにあの大災害や原発事故に関しての「ことば」が溢れかえっていたのかと考えさせられる。
    しかし筆者の主張は余りにセンシティブで「あの時から私たちは決定的に変わった」、という言葉もなんだか類型的に聞こえる。
    というか、著者のことばもまた圧倒的に「正しすぎて」、何か反論を許さない空気を感じる。

    著者は震災後ある言葉・文章が読めなくなった、と言うが、自分には高橋源一郎の文章をこそ、読めなくなってしまったのだ。
    それは多分僕があの大事件の最中に(完全に個人的な理由で)それと向き合うだけのちからがなかったから、というのが大きいと思う。
    僕は目を逸らしているのだ。あの大惨事から、ずっと。

  • ずっと感じてた後ろめたさの中身を教えてもらえたようですごく嬉しい(というのは違うけど他にことばを思いつけない)。石牟礼道子に泣きそうになるのは想定内だけど,古市憲寿に「このかっこいい文章は誰」と思わず頁をめくってしまったのは意外というか何というか,読んでみたくなった。

  • これこそ賢い思考というのだろう。3.11の前後の世界の変容を言葉を手掛かりにして読み解いていく。「ことばを探して」の章から抜粋します。「自由のない文章、想像力に欠けた文章、考えるということを嫌悪し、ただいいたいことだけを連ねた文章・・・。(中略)ぼくたちは、ぼくたちを囲んでいる文章の正体を知っておく必要があるのだ。」

  • 震災後の今だからこそどんなことばが大切でどのような文章が必要なのか語っている本。探っているのは実はことばだけではなくあのあとにどんな変化が起きてそれはどういう意味なのかを問うている。
    秀逸な文章に私も直に触れたいと思った。

  • 苦海浄土が祈祷・朗誦・音楽に似た…神様と神様2011の重ねて読んでみて…ことばのない赤ん坊なずなの味わい…読んで感じたことをなかなかことばにすることは難しいのですが、源一郎さんは、そうだそうだそうだった、そういうことだと、みんなが共感できる文章を書くことに、とてもすぐれていると感じます。

  • 書店でみかけて、その場で買った本はひさしぶりだ。あの災害のあとにのぞいたものを、圧倒的な新しい日常の力に流されてしまう前に、考えておきたという気持ちが私にもあったからだ。
     その意味ではたしかに役にたった。加藤典洋の「死神に突き飛ばされる」や、ジュネの「シャティーラの4時間」など、貴重なテキストを知ることができたし、それらをつなぐ著者の言葉が、読者にいろんな脱線を許す感じなのもいい。
     しかし、最後まで読み終えて、何かが足りないという感じがする。最後の章で著者が語っていること、「自分」から出発しないこと、言葉をもたない存在を起点において語ることは、とても大事なことだと私も思う。しかしこの結論にたどり着く前に、もう少し回り道が必要なのではないだろうかと感じるのだ。
     あの災害の直後、ほんの一瞬のぞいた社会の深い裂け目、そのなかに見たものは、ひとによって、おそらくまったく異なる姿をしていたのではないのだろうか。同じ言葉を使っていても伝わらない、共有できないほどに。「非常時」という言葉を、私だったら使いたくはないが、言葉の危機には、そういうことが含まれていたのではないだろうか。その裂け目をすばやく被いつくした、共苦共感を強調する言説。その圧倒的な力に、言葉はどう加担したのだったか。それは、かならずしも政治家やマスメディアの問題だけではなかったはずだが。うつくしい言葉、ここちよい言葉をさがす作業も大事だが、言葉の作用をもうすこし批判的にみつめる作業を欠いてもならないと思うのだ。

  • 仕事の合間に読了。「書くこと」に関心のある人間に必読の、モラルのありかについて。とりわけ川上弘美についての章はきわだって素晴しかった。

  • 私は変っただろうか、単にノホホンと生きてるだけの私が。。。

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    「3・11の大震災以降、ことば・文章に対する感じ方、考え方はどのように変わったのか。
    まずタカハシ先生は、かつてこの世の「地獄」に接したジャン・ジュネと石牟礼道子の作品を読み返す。フランスの作家ジュネは『シャティーラの四時間』で、1982年のパレスティナ難民虐殺の現場を前にして、ことばの布を織りだし、ここには「祈祷の朗唱」が欠けていると書いた。石牟礼道子は『苦海浄土』で、水俣病の患者たちの話に耳を澄ませ、悪の悲惨を美しく描き出した。この二人には文章にひそむ音楽を聞く力があったのではないか。
    では、今のことばはどうなっているのだろう。「2011年の文章」として、たとえば川上弘美『神様』(1993年)と『神様2011』を重ね合わせてみると、そこには震えて微かに存在していることばの空間が見出せる。あるいはナオミ・クラインの政治的スピーチ『ウォール街を占拠せよ』には、太宰治『お伽草子』と本質的に似ているところがあるのではないか。ともに作者から直接語りかけられているように聞こえる「こだま」がある。
    また、「あの日」の後ではもう読めなくなってしまった文章と、今なお読める文章との違いは何だろうかと考えてみる。すると、「あの日」以来、ひとつには「死」というものが身近にあることに気づく。「自分の死」を勘定に入れずに成り立つ「日常」の文章を、もはやそのまま受け入れるのは難しいのだ。
    本書は文章教室を進化させるタカハシ先生が、詩や小説から政治家の演説まで、3・11以降の「2011年の文章」を自在に引用しながら、ことばの本質に迫る文章読本。」

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著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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